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070:冷葬と極馬鹿

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「ワレはグルメだからして、あんなの食べたくないんだワンよ」

 その言葉を聞いてホッとした男だったが、次の瞬間。

「それにしても、このビーチにこんな死体は似合わないワンねぇ」

 わん太郎はそう言うと、死体へ右足を〝ぽむり〟と乗せた。
 すると次第に氷付き、さらにそれが進むと体中から煙が出てくる。

 見ると死体が気化し始めており、あっという間にミイラをヘて、骨すらもダイヤモンドダストになって、天へと消え去っていった。

 それを見た男は「あひゃあああああ!?」と半狂乱気味になり、牢の柵へと背中を強打。
 痛みと恐怖で震えながら頭を抱え込んだ。

「スゲェなお前……」
「えへん。ワレはえらいからして、こんな事は夜飯前なんだワン」
「まぁ夜飯前ではあるけどな」

 そういいつつ、わん太郎を抱っこして頭をなでてやる。
 気持ちいいのか、目を細めている顔をムニっと右手で伸ばしながら、アリシアへと話す。

「なぁアリシア。コイツら知り合いか?」
「いえ。知りませんけど、私を知っているのは間違いなさそうですね……」
「……そっか。まぁそのうち言いたくなるかもな。それよりメシにしようぜ? あんなの見た後だけどハラは減るんだよな。若い体ってのはスゲェよホント」

 そう言うと、「私とそんなに代わりませんよ?」とさみしげに笑う。
 やはり何かあるのだろうと思ったが、アリシアが真相を話そうと思うまで黙って待つことにした。




 ◇◇◇
  ◇




 ――同日。帝都アスガルドの帝城の玉座の間にて、皇太子のヴァルマークと宰相のオルドの二人がいた。

 あいも変わらず真の主を差し置き玉座へと座るヴァルマークは、肩ひじをつきながら足を組む。

「エリザベート様にはこの事を伝えなくてよいので?」
「フン、構わぬ。どうせこの情報を知ったら、アイツは直接乗り込みアリシアを殺すだろうからな」
「かも知れませぬなぁ。して陛下・・……おっと、口がすべりましたな」
「よい。そのまま続けよ」
「ありがとうございます。それで陛下はどのようになさるおつもりで?」

 組んだ足をまた組み直し、玉座より私をイヤラシク見て口角をあげる。
 まったく分かりやすいグズだ。

「オルドよ、お前も腹芸がすぎるぞ? もう既にライリス侯爵領に、船団を集結させておるのは知っているだろうに?」
「はっはっは。そうでございましたな。ベストパーレ辺境伯めが言う事を聞けば、もっと楽に支度が整いましたものを」

「ベストパーレ辺境伯か……フン、オレが真の皇帝になった暁には、領地を召し上げ処刑台送りにしてくれるわ」
「左様ですな。あやつは辺境伯という、独自の裁量を与えたれて有頂天になっているのです。身の程知らずの愚か者には相応の報いを」
「うむ、その通りよ。オレの言う事を聞かず、何が国のために、だ! あの細首を叩き落とすが楽しみだ」

 あいも変わらず馬鹿な男よ。誰のお陰で馬鹿面浮かべ、その玉座に座っていられると思っているのだ。

 気に食わぬが、ベストパーレ辺境伯は有能だ。
 ヤツが周辺国へ睨みを効かせているから、この国も安泰だというのに……。
 
 まぁその愚鈍なおつむのお陰で、今回のこともうまくいったワケだがな。

「時にオルドよ。そのおとぎ話の島である神釣島とは報告通りなのか?」
「はい。報告通り……いや、それ以上の可能性を秘めていると確信しております」

 そう言うと、この馬鹿は「ほぅ」と楽しそうに笑うのが微笑ましい。
 だが次の瞬間、この馬鹿はただの馬鹿じゃないと知り、額面通りの大馬鹿だと知る事となる。

「オレは决めたぞ、その神釣島へと乗り込み、莫大な資源と聖女をオレのモノ・・にする」
「お、お待ち下さい! 玉が動くだなどと前代未聞の事! どうかお心安んじ、我らに御任せを!!」
「ならぬ! オレがそう决めたのだ。なれば、そのげんは何にもまして優先するべき……そうであろうオルド宰相?」
「クッ……はい。仰せのとおりに」

 予想以上の馬鹿であったか!! 皇帝になる事が決まっている大事な次期に、このようなまともな判断すら出来ず、金ばかりか自分の妹まで手をかけるつもりとは!?

 極・極まる・極世界級の馬鹿だったとは……このオルドの先読みが通じぬほどの馬鹿だったとは……ぬかったッ?!
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