上 下
44 / 109

043:聖女と松明

しおりを挟む
 ――それからすぐに城を追い出されるように出発。

 帝都から馬車で三日かけて、目的地である〝サンマルクの街〟まであと少しの場所へと来ていた。

 護衛が入れ替わりで馬車を進め、馬もその都度交換という強行軍で寝ることも出来ず、意識がぼんやりとしながら窓の外を見ていると、護衛が窓の外より話しかけてくる。

「聖女様、もうすぐ悪魔が出ると噂の場所に差し掛かります。至急、討伐準備を」
「え……少し。少しだけ休ませてください……もう三日もまともに寝ていなくて、力が入りません」
「何をおっしゃいますか。アナタが寝ている間、悪魔がどれだけの民を苦しめるのかを想像も出来ませぬか?」

 そう言われてしまい、「それは……」と口ごもってしまう。

「で、あればこそ、聖女として役目を果たされよ。よいですな?」
「はい……分かりました、すぐに支度をします」
「結構。それでは準備が整い次第声をかけてください」

 護衛は馬を下がらせて馬車の後ろへと下がる。
 ガタガタと揺れる道にうんざりしながらも、すぐにやって来る悪魔との戦いを見据えて気合をいれ頬をたたく。

「いけない。私がこんな事じゃ、護衛の方たちまで悪魔にやられてしまう。しっかりしてアリシア、私がみんなを守らなきゃなんだから!」

 そう言いながら必死に眠気とダルさを押さえつつ、胸の中にある聖石へと力をこめる。

「お母様、天界からお守りくださいませ。必ず魔を払い、滅といたしましょう」

 祈ること数分。しびれを切らした護衛が「まだですか?」と催促さいそくしてくるので、「もうすぐ整います」と返事。

 ドアの外から「フン、聖女様は気楽でいらっしゃる」と嫌味が聞こえたが、今はそれを悲しむ余裕はない。
 やがて馬車は目的地へと到着し、すぐに馬車のドアが開かれた。

「あの橋が悪魔が出るという場所ですか?」
「そうです。今は作業員は退避しているようですが、悪魔が邪魔をするので工事が進まないそうです」

 護衛の兵士がそういうが、奇妙に感じることがある。
 違和感しかないよね。だって工事をしている形跡がどこにも感じられないのだから。

 木製で出来た、全長二十メートルはありそうな橋だけど、工事どころか完成しているようにしか見えない。
 やっぱりどこかが変だと思い始め、城を出る前にジリーに言われたことを思い出す。

 まさか誰かが、何かよからぬ事を企んでいるのか……と。

「あの、本当にここで合っていますか? 工事の跡が無いようですが」
「…………ええ。間違いありませんよ、人形の悪魔が出るそうです」

 その言葉で胸の聖石に意識を集中してみる。
 すると、間違いなく悪魔の気配を探知し、近くにソレがいるのだと理解した。

「失言でした。たしかに悪魔はいるようですね。では此れより悪魔討伐の義を執り行います。みなさんは所定の場所で待機を」

 そう言うと、護衛の兵士たちは一気に離れていく。
 そのまま聖石が悪魔の反応を感知し、その強く現れる場所へと向かう。

 徐々に強くなる気配……。
 やがて橋の入口まで到着すると、悪魔の気配は橋の上へと続く。

「おかしい……誰もいないのになぜ?」

 つぶやきながらも誰もいないと思う現実と、聖石が感じる悪魔の気配。
 その二つの事実に困惑しながらも、橋の中央まで来てしまう。

「ココが一番反応が強い。けど……」

 悪魔どころか誰もいない。
 でも一番反応が強いのも事実。これは一体どういう事なのかと、嫌な汗が背中に張り付く。

 そんな時、状況が考えていた事とは別の方向で急速に動き出す。
 橋の出口側に人影が現れ、それが十人ほどになると、その違和感に気がつく。

 違和感の原因。それは昼間だと言うのに、全員が手に松明たいまつを持っていたのだから。

「え!? 貴方達、ここは悪魔が出るので危ないです! 至急この場を離れ――え!? 何をしているのですか?!」

 彼らはいきなり手に持った松明を、橋の上へと放り投げる。
 それが橋の上に落ちた直後、一気に燃え上がり橋へと炎が燃え広がる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

変わり者と呼ばれた貴族は、辺境で自由に生きていきます

染井トリノ
ファンタジー
書籍化に伴い改題いたしました。 といっても、ほとんど前と一緒ですが。 変わり者で、落ちこぼれ。 名門貴族グレーテル家の三男として生まれたウィルは、貴族でありながら魔法の才能がなかった。 それによって幼い頃に見限られ、本宅から離れた別荘で暮らしていた。 ウィルは世間では嫌われている亜人種に興味を持ち、奴隷となっていた亜人種の少女たちを屋敷のメイドとして雇っていた。 そのこともあまり快く思われておらず、周囲からは変わり者と呼ばれている。 そんなウィルも十八になり、貴族の慣わしで自分の領地をもらうことになったのだが……。 父親から送られた領地は、領民ゼロ、土地は枯れはて資源もなく、屋敷もボロボロという最悪の状況だった。 これはウィルが、荒れた領地で生きていく物語。 隠してきた力もフルに使って、エルフや獣人といった様々な種族と交流しながらのんびり過ごす。 8/26HOTラインキング1位達成! 同日ファンタジー&総合ランキング1位達成!

【完結】異世界で小料理屋さんを自由気ままに営業する〜おっかなびっくり魔物ジビエ料理の数々〜

櫛田こころ
ファンタジー
料理人の人生を絶たれた。 和食料理人である女性の秋吉宏香(あきよしひろか)は、ひき逃げ事故に遭ったのだ。 命には関わらなかったが、生き甲斐となっていた料理人にとって大事な利き腕の神経が切れてしまい、不随までの重傷を負う。 さすがに勤め先を続けるわけにもいかず、辞めて公園で途方に暮れていると……女神に請われ、異世界転移をすることに。 腕の障害をリセットされたため、新たな料理人としての人生をスタートさせようとした時に、尾が二又に別れた猫が……ジビエに似た魔物を狩っていたところに遭遇。 料理人としての再スタートの機会を得た女性と、猟りの腕前はプロ級の猫又ぽい魔物との飯テロスローライフが始まる!! おっかなびっくり料理の小料理屋さんの料理を召し上がれ?

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

ポーション必要ですか?作るので10時間待てますか?

chocopoppo
ファンタジー
松本(35)は会社でうたた寝をした瞬間に異世界転移してしまった。 特別な才能を持っているわけでも、与えられたわけでもない彼は当然戦うことなど出来ないが、彼には持ち前の『単調作業適性』と『社会人適性』のスキル(?)があった。 第二の『社会人』人生を送るため、超資格重視社会で手に職付けようと奮闘する、自称『どこにでもいる』社会人のお話。(Image generation AI : DALL-E3 / Operator & Finisher : chocopoppo)

【完結】女神の使徒に選ばれた私の自由気ままな異世界旅行とのんびりスローライフ

あろえ
ファンタジー
 鳥に乗って空を飛べるなんて、まるで夢みたい――。  菓子店で働く天宮胡桃(あまみやくるみ)は、父親が異世界に勇者召喚され、エルフと再婚したことを聞かされた。  まさか自分の父親に妄想癖があったなんて……と思っているのも束の間、突然、目の前に再婚者の女性と義妹が現れる。  そのエルフを象徴する尖った耳と転移魔法を見て、アニメや漫画が大好きな胡桃は、興奮が止まらない。 「私も異世界に行けるの?」 「……行きたいなら、別にいいけど」 「じゃあ、異世界にピクニックへ行こう!」  半ば強引に異世界に訪れた胡桃は、義妹の案内で王都を巡り、魔法使いの服を着たり、独特な食材に出会ったり、精霊鳥と遊んだりして、異世界旅行を満喫する。  そして、綺麗な花々が咲く湖の近くでお弁当を食べていたところ、小さな妖精が飛んできて――?  これは日本と異世界を行き来して、二つの世界で旅行とスローライフを満喫する胡桃の物語である。

処理中です...