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033:けものと香魚

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 私がそう思うのは仕方がない。
 リールを私の中へイメージし、それを具現化しつつ引っ張り上げた。
 そこまではいい。しかしそのマナポインちょうの使い方が普通じゃない。

 MP釣はスキルと使用者によって、その消費も変わってくる。
 同じスキルでも使用者のさじ加減ひとつで、大きく変わってくるのだから。

 歴代の私の主たちは、MP釣を使いこなすのに時間がかかった。
 それは何年もかかることは普通だったし、最後までうまく扱えなかった方もいたほどだ。

 それがどうだ。今回の主、島野大和様においては、完璧……いや、それ以上に使いこなす。

 これを驚愕と感じ、今後はどうなるのだろうと、少し不安になるのは無理からぬことだろう。

 そんな事を思いながら宙に浮いていると、主が「お~い、毒があるか調べてくれよ」と私を呼ぶ。

『はいはい、ただいま参りますよ。ふふ……本当に面白い御方だ』

 さっそく行ってみると、主はすでに黒い魚を処理している所だった。


 ◇◇◇


「よし、これでいいな! わん太郎んの爪ならもっと綺麗にさばけたろうけど、魚のしめ用ナイフでも内蔵は処理できるからな」

 適当に拾った木の棒を魚の口から突っ込み、尻尾へと通す。
 その上から、わん太郎の藻塩を程よくふりかけて、カマドの上に突き刺す。

 もちろん岩だから普通は棒は刺さらないが、そこは工夫済みだ。
 カマドの縁に、焼き魚ように作った穴を開けてあり、そこへ棒を入れることでちょうど良く火が魚へと当たる。

 徐々にたちこめる香ばしい香り。
 その何とも言えない、食欲を強烈に刺激する香りがハラヘリの民を狂わせる。
 と、同時に肩に乗せておいた駄犬、わん太郎が目を覚まし「んぁ~おなかが減ったワンよ~」と叫ぶ。

 まったく困った駄犬だよ。小狐だけど。

「起きたか、わん太郎。ほら、もうすぐ朝ごはんが出来るから、顔でも洗ってこいよ」
「んんん~そうするワン」

 そう言いながらフラフラと二足で歩いていく、おかしな子狐。

 なぜ二足で歩くし? と不思議に思いながら見ていると、そのまま滝つぼの縁に座り込み、器用に小さなお顔をパシャパシャとしはじめる。なんだか可愛い。

 冗談で言ったつもりが、本当に顔を洗っているのをみて驚く。
 よく見れば、どこから取り出したのか、小さなタオルまで持っているから唖然とした。

「妙に人間ぽいやつだな……」
『ええ、本当に謎の生き物ですね……』

 そんな感じで戸惑っていると、香りがさらに激しさを増し、なんとも言えない幸福感につつまれる。

「これはすごくいい香りだ。しかもただ香ばしいだけじゃなくて、香草の香りまでする」
『ええ、香魚と呼ばれる魚の一種でしょうね』
「川魚の中でも水草をメインに食べる種類なのかもな。滝つぼがエメラルドグリーンなのも、水中にビッシリと生えている、丈の短い水草がそう見せているし」

 くるりと魚を回転させながら、滝つぼを見る。
 本当に美しく、何時間でもただみていられそうだ。

 しばらくそんな事をしていると、ひざ裏に冷たくも柔らかい感触がポムポムする。

「おなかへったワン! 生でもいいから食べさせて~」
「はいはい。もう少しで焼けるからまっててな」
「やだやだやだ~ワレはお腹が減ったからして、いますぐ食べたいんだワンよ~」
『これだから駄犬には困ったものです』
「ははは、まぁ俺も同じだから何とも言えねぇさ……っと、そろそろいいか」

 カマドから引き抜いた特大サイズの焼き魚。
 黒かった魚体は不思議と美味しそうな焦げ茶色になっており、見た目にも食欲がます。

「わぁ~すっごくおいしそ~」
「うんうん、こいつは絶対うまいって確信がある。わん太郎、こいつを半分にしてくれよ」
「まっかせるワン! えいえい!」

 スパっと体の真ん中から切れる焼き魚は、用意しておいたヤシの葉っぱの上に落ちる。
 その瞬間、「お頭はいただいたワン!」と言いながら、上半身を小さなお口でパクリとくわえる駄犬。

「あ! ったく仕方ないなぁ。骨には注意して食べるんだぞ?」
わかったワンはぐはぐはぐ! 美味しい~もぐもぐもぐ!」

 そんな姿を見て相棒が『ケモノめ』と呆れながら話すが、そんな姿にほっこりとした。
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