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やる気のない中年と万札の女
015:朋あり遠方より来たるまた楽しからずや
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「よ~久しぶりだな将吾! 相変わらず目の下にクマつくって、不健康に痩せてるな」
「うるせぇよ金太。たく、相変わらずブクブク太りやがって。出荷すんぞ?」
「やめてくれよ、俺なんか喰っても旨くないってな。そんで……そっちのが福沢遊吉警部補ちゃんか? 噂通りの才女ってワケかよ」
「違います。遊でとめてください。セクハラで訴えますよ」
「はっはっは、噂以上で安心したよ。まぁ立ち話もなんだ、駐在所へ来いよ」
その言葉で「ふぅ助かるぜ」と言いながら、額の汗を右手の甲で拭き取る。
金太は楽しそうに「ハンカチくらい持てよな」と、大きな腹を揺らしながら白チャリへとまたがる。
が、我が警察が誇る白チャリ様も、やつの重みには耐えかねるたようで苦しげに〝グヴィ〟と悲鳴をあげた。
そんな光景を見た遊吉は「かわいそうに……」と、まるで生き物を見ているかのように呟く。
僕ぁ思ったね。可愛そうなのは潮風を感じたいとか言い出す奴に、強制的に付き合わされている、哀れな美中年だってね。
そんな事を思っていると金太が「先に行って準備しとくわ」と言いながら、デカイ体を揺らしながら去っていく。
昔は切れ者として将来を有望されたやつだったが、今じゃちょっとした〝ゆるキャラ〟みたいな見た目だ。
あの頃の鋭さはすでになく、小豆島がやつを人のいいオッサンにしちまったんだと感じた。
だから同時に思う。今のあいつなら、嫁もすぐに見つかるだろうにと。
「……あぁ~雲が高いねぇ」
「そうですね。けれど……」
「あぁ、そうだな」
四国側から厚く黒い雲が流れてくるのが見えた。
程なくして〝かなとこ雲〟が沖合で形成されたのを見て、遊吉が眉間にシワを寄せながら話す。
「スコールが来そうですね」
「そんな規模ならいいがな。見ろよ遊吉ちゃん。ありゃ~まるでバケモノだ」
「やめてくださいよ警部。ただの雲です」
「だといいねぇ」
横に急速に広がる不気味な陰。かなとこ雲が、まるでバケモノが大きな顎を開けているように見えた。
「冗談ばかり言っていないで行きましょう」
遊吉はそう言いながら小走りで走り出す。
そんな可愛い部下の背中を見つめながら、「若いねぇ」と呟き後を追うのだった。
――同時刻。安田駐在所内。
手渡した資料を片手に、金太がペット惨殺事件について真剣に口を開く。
「なるほどな……これが四国で起こってるペット惨殺事件の全容か」
この島が金太を変えた。と、思っていたが、どうやらまだまだ現役らしい。
五件の惨たらしい犬猫の死体と、飼い主にプレゼントされた愛らしくデコられた生首。
それを見た金太は眉一つ動かすことなく、本質のみを見定めていた。
「コイツは一見、劇場型の犯罪を楽しむ異常者に見えるが」
そこで金太は言葉を止め、オリーブの柄がプリントされた、金属タンブラーの麦茶を飲み干す。
豪快に飲み干すノドを二度鳴らした所で、僕が「見えるが?」と問うと、金太は満足そうに息を吐きながら応える。
「まぁ焦るなよ。久しぶりの推理ショーだからな。で、だ――」
マスコミが連日面白おかしく報道している内容。あれは正確ではない。
最初の被害者は散歩の最中に頭に袋を被され、そのまま縛られ倒された。
十九歳の被害者女性は、チワワの散歩の最中に大音量で音楽を聞くのが日課で、その日も音を漏らしながら聞いていた。
そんな時に襲われた彼女は、音楽のせいで周囲で何が置きているかも理解できないままだった。
何とか白いナイロンの紐をほどき、被り物を取った先で見たのが。
「うるせぇよ金太。たく、相変わらずブクブク太りやがって。出荷すんぞ?」
「やめてくれよ、俺なんか喰っても旨くないってな。そんで……そっちのが福沢遊吉警部補ちゃんか? 噂通りの才女ってワケかよ」
「違います。遊でとめてください。セクハラで訴えますよ」
「はっはっは、噂以上で安心したよ。まぁ立ち話もなんだ、駐在所へ来いよ」
その言葉で「ふぅ助かるぜ」と言いながら、額の汗を右手の甲で拭き取る。
金太は楽しそうに「ハンカチくらい持てよな」と、大きな腹を揺らしながら白チャリへとまたがる。
が、我が警察が誇る白チャリ様も、やつの重みには耐えかねるたようで苦しげに〝グヴィ〟と悲鳴をあげた。
そんな光景を見た遊吉は「かわいそうに……」と、まるで生き物を見ているかのように呟く。
僕ぁ思ったね。可愛そうなのは潮風を感じたいとか言い出す奴に、強制的に付き合わされている、哀れな美中年だってね。
そんな事を思っていると金太が「先に行って準備しとくわ」と言いながら、デカイ体を揺らしながら去っていく。
昔は切れ者として将来を有望されたやつだったが、今じゃちょっとした〝ゆるキャラ〟みたいな見た目だ。
あの頃の鋭さはすでになく、小豆島がやつを人のいいオッサンにしちまったんだと感じた。
だから同時に思う。今のあいつなら、嫁もすぐに見つかるだろうにと。
「……あぁ~雲が高いねぇ」
「そうですね。けれど……」
「あぁ、そうだな」
四国側から厚く黒い雲が流れてくるのが見えた。
程なくして〝かなとこ雲〟が沖合で形成されたのを見て、遊吉が眉間にシワを寄せながら話す。
「スコールが来そうですね」
「そんな規模ならいいがな。見ろよ遊吉ちゃん。ありゃ~まるでバケモノだ」
「やめてくださいよ警部。ただの雲です」
「だといいねぇ」
横に急速に広がる不気味な陰。かなとこ雲が、まるでバケモノが大きな顎を開けているように見えた。
「冗談ばかり言っていないで行きましょう」
遊吉はそう言いながら小走りで走り出す。
そんな可愛い部下の背中を見つめながら、「若いねぇ」と呟き後を追うのだった。
――同時刻。安田駐在所内。
手渡した資料を片手に、金太がペット惨殺事件について真剣に口を開く。
「なるほどな……これが四国で起こってるペット惨殺事件の全容か」
この島が金太を変えた。と、思っていたが、どうやらまだまだ現役らしい。
五件の惨たらしい犬猫の死体と、飼い主にプレゼントされた愛らしくデコられた生首。
それを見た金太は眉一つ動かすことなく、本質のみを見定めていた。
「コイツは一見、劇場型の犯罪を楽しむ異常者に見えるが」
そこで金太は言葉を止め、オリーブの柄がプリントされた、金属タンブラーの麦茶を飲み干す。
豪快に飲み干すノドを二度鳴らした所で、僕が「見えるが?」と問うと、金太は満足そうに息を吐きながら応える。
「まぁ焦るなよ。久しぶりの推理ショーだからな。で、だ――」
マスコミが連日面白おかしく報道している内容。あれは正確ではない。
最初の被害者は散歩の最中に頭に袋を被され、そのまま縛られ倒された。
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そんな時に襲われた彼女は、音楽のせいで周囲で何が置きているかも理解できないままだった。
何とか白いナイロンの紐をほどき、被り物を取った先で見たのが。
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