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告白から始まる夏休み
009:military supplies
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AAAから寒霞渓学園への唯一の通行手段がある、空中列車までは、バスなら十分ほどで着く距離だ。
こんな山奥までバスが遅くまで運行している理由は、学園プロジェクトの一つでもある。
寒霞渓の周辺にブルーラインという眺めのいい場所があり、その道沿い廃墟の施設があったのだが、そこを一大展望施設として改修し、そこの周りにいろいろな商業施設を作った。
その観光地は遅くまでバスが運行しており、小豆島復興プロジェクトの一つだ。
AAAはそこへ行く前にある、眺めのいい場所にあり、瀬戸内の海を独り占め出来る立地が人気でもある。
普段なら眼下に見える町や船の明かりを楽しむ余裕もあるけれど、今は心の余裕がない。
なぜかすぐに戻って、黒ちゃんと会わなければならない。そんな予感と共に、ただの気のせいだとも同時に思う。
思わず晴斗くんの腰を掴む両腕に力が入り、それを感じた彼が話しかける。
「紗奈大丈夫か? もうすぐ付くからな」
「あ、ごめん痛かった?」
「いや、それは大丈夫だけど……心配だよな」
「うん……黒ちゃんは小さい時から一緒でさ、私の妹みたいな存在なんだよ」
「そっか。なら早く帰ってやらねぇとな」
免許を取得して一年くらいのはずだけど、落ち着いたハンドルさばきで峠を進む。
でも私のせいでそのペースが乱れてしまう。
「紗奈、カーブと同じ方向へ体をゆっくりと曲げてくれ。俺が曲がると同じようにゆっくりとな」
カーブを曲がる度に、体験した事のないスピードと重力が体を押しつぶす。
体を曲げる方向には道路があり、その恐怖におヘソの奥がキュっとしつつも、晴斗くんを信じ「うん!」返事をする。
恐る恐る、彼の言う通りに体を曲げてみると、先程よりも早くカーブを曲がる事が出来た。
思わず「やった!」と叫ぶと、晴斗くんも嬉しそうに「やるじゃん!」と叫ぶ。
次からのカーブは恐怖も薄れ、彼と同じように体を合わせて峠を進む。
やがて紅雲亭駅が見てくると、迷わず電動自転車の並ぶ駐輪場を超えて、直に駅の真ん前に駐車する。
「うし、着いたぞ紗奈! 待ってるから行って来いよ。臭蔵さんには俺からスマホで連絡しておくから、すぐに戻って来れるはずだ」
「うん、ありがとう晴斗くん。行ってくるね!」
背後を二度振り向きながら、階段を駆け上がり空中列車へと向かう。
途中、町へと向かう同級生とぶつかれそうになり、「ごめん、急いでいるの!」と片手で謝罪をしつつ車内へと乗り込む。
と、同時に私しか居ない空中列車は動き出し、臭蔵さんの声がスピーカーから聞こえた。
『おっと、また間違って発車させちまったようですわ。やれやれ、二度あることは三度ある。今日はもう一度間違いそうな予感がしまさぁ~』
「臭蔵さん、晴斗くん。ありがとう……」
そう呟き、学園用にライトアップされた、寒霞渓の谷を見つめながら椅子の肘掛けを握りしめる。
「なぜこんなにも気持ちが落ち着かないのかな。大体事件だって四国で起こっているだけで、小豆島では起こっていないのに……」
口にだす事で気持ちを整理する。と同時に、「大丈夫。心配ない」と何度も繰り返す。
はやる気持ちを右手の人差し指が肩代わりし、リズミカルに肘掛けを小突く。
「いけない、こんな事をしちゃ」
こういう時、父に子供の頃によく叱られたクセが出てしまう。
自分を戒めながら、きゅっと固く拳を作り、もうすぐ到着する学園駅を見据えて立ち上がる。
ほどなくして駅のホームへ到着し、それと同時に飛び出す。
そこに待っていたのは臭蔵さんであり、手には黒くて長い棒のような物を持っていた。
「お~紗奈ちゃんか。暗いからコレを持っていきなせぇ。ちっと重いが、明るさは間違いねぇだよ」
「ありがとう臭蔵さん。でもそれは何です?」
「コイツはワシが夜間の見回り用に購入した、筋金入りの軍用ライトでさぁ。明るさも並の懐中電灯とは桁が違いまさぁ。ささ、お持ちなせぇ」
臭蔵さんから受け取ると、ずしりと重いのに驚く。
何でも明るさだけじゃなく、このライト事態も武器となるらしく、もし猪にでも会えばこれで攻撃すればいいとの事だ。
明るさも確かに並みに物とは違い、刺すような光の束が暗闇を容赦なく引き裂く。
「これは凄いよ臭蔵さん! 本当にありがとう、行ってくるね!」
「きぃつけて行ってきてやぁ」
臭蔵さんは姿勢が前かがみのままだったけど、機械油で汚れた白のタンクトップから膨らむ腹が目立つ。
今度バイト代が出たら今日のお礼に、新しいものをプレゼントしてあげようかとも思う。
幸い夏休みだし、生徒の目も少ないだろうから丁度いい。
そんな事を考えながら女子寮へと急ぎつつ、寮長の部屋を見る。
寮長は上級生であり、彼女もまた居残り組らしい。
そんな彼女の部屋の電気が消え、丁度これから巡回をしに行くのだと思えた。
こんな山奥までバスが遅くまで運行している理由は、学園プロジェクトの一つでもある。
寒霞渓の周辺にブルーラインという眺めのいい場所があり、その道沿い廃墟の施設があったのだが、そこを一大展望施設として改修し、そこの周りにいろいろな商業施設を作った。
その観光地は遅くまでバスが運行しており、小豆島復興プロジェクトの一つだ。
AAAはそこへ行く前にある、眺めのいい場所にあり、瀬戸内の海を独り占め出来る立地が人気でもある。
普段なら眼下に見える町や船の明かりを楽しむ余裕もあるけれど、今は心の余裕がない。
なぜかすぐに戻って、黒ちゃんと会わなければならない。そんな予感と共に、ただの気のせいだとも同時に思う。
思わず晴斗くんの腰を掴む両腕に力が入り、それを感じた彼が話しかける。
「紗奈大丈夫か? もうすぐ付くからな」
「あ、ごめん痛かった?」
「いや、それは大丈夫だけど……心配だよな」
「うん……黒ちゃんは小さい時から一緒でさ、私の妹みたいな存在なんだよ」
「そっか。なら早く帰ってやらねぇとな」
免許を取得して一年くらいのはずだけど、落ち着いたハンドルさばきで峠を進む。
でも私のせいでそのペースが乱れてしまう。
「紗奈、カーブと同じ方向へ体をゆっくりと曲げてくれ。俺が曲がると同じようにゆっくりとな」
カーブを曲がる度に、体験した事のないスピードと重力が体を押しつぶす。
体を曲げる方向には道路があり、その恐怖におヘソの奥がキュっとしつつも、晴斗くんを信じ「うん!」返事をする。
恐る恐る、彼の言う通りに体を曲げてみると、先程よりも早くカーブを曲がる事が出来た。
思わず「やった!」と叫ぶと、晴斗くんも嬉しそうに「やるじゃん!」と叫ぶ。
次からのカーブは恐怖も薄れ、彼と同じように体を合わせて峠を進む。
やがて紅雲亭駅が見てくると、迷わず電動自転車の並ぶ駐輪場を超えて、直に駅の真ん前に駐車する。
「うし、着いたぞ紗奈! 待ってるから行って来いよ。臭蔵さんには俺からスマホで連絡しておくから、すぐに戻って来れるはずだ」
「うん、ありがとう晴斗くん。行ってくるね!」
背後を二度振り向きながら、階段を駆け上がり空中列車へと向かう。
途中、町へと向かう同級生とぶつかれそうになり、「ごめん、急いでいるの!」と片手で謝罪をしつつ車内へと乗り込む。
と、同時に私しか居ない空中列車は動き出し、臭蔵さんの声がスピーカーから聞こえた。
『おっと、また間違って発車させちまったようですわ。やれやれ、二度あることは三度ある。今日はもう一度間違いそうな予感がしまさぁ~』
「臭蔵さん、晴斗くん。ありがとう……」
そう呟き、学園用にライトアップされた、寒霞渓の谷を見つめながら椅子の肘掛けを握りしめる。
「なぜこんなにも気持ちが落ち着かないのかな。大体事件だって四国で起こっているだけで、小豆島では起こっていないのに……」
口にだす事で気持ちを整理する。と同時に、「大丈夫。心配ない」と何度も繰り返す。
はやる気持ちを右手の人差し指が肩代わりし、リズミカルに肘掛けを小突く。
「いけない、こんな事をしちゃ」
こういう時、父に子供の頃によく叱られたクセが出てしまう。
自分を戒めながら、きゅっと固く拳を作り、もうすぐ到着する学園駅を見据えて立ち上がる。
ほどなくして駅のホームへ到着し、それと同時に飛び出す。
そこに待っていたのは臭蔵さんであり、手には黒くて長い棒のような物を持っていた。
「お~紗奈ちゃんか。暗いからコレを持っていきなせぇ。ちっと重いが、明るさは間違いねぇだよ」
「ありがとう臭蔵さん。でもそれは何です?」
「コイツはワシが夜間の見回り用に購入した、筋金入りの軍用ライトでさぁ。明るさも並の懐中電灯とは桁が違いまさぁ。ささ、お持ちなせぇ」
臭蔵さんから受け取ると、ずしりと重いのに驚く。
何でも明るさだけじゃなく、このライト事態も武器となるらしく、もし猪にでも会えばこれで攻撃すればいいとの事だ。
明るさも確かに並みに物とは違い、刺すような光の束が暗闇を容赦なく引き裂く。
「これは凄いよ臭蔵さん! 本当にありがとう、行ってくるね!」
「きぃつけて行ってきてやぁ」
臭蔵さんは姿勢が前かがみのままだったけど、機械油で汚れた白のタンクトップから膨らむ腹が目立つ。
今度バイト代が出たら今日のお礼に、新しいものをプレゼントしてあげようかとも思う。
幸い夏休みだし、生徒の目も少ないだろうから丁度いい。
そんな事を考えながら女子寮へと急ぎつつ、寮長の部屋を見る。
寮長は上級生であり、彼女もまた居残り組らしい。
そんな彼女の部屋の電気が消え、丁度これから巡回をしに行くのだと思えた。
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