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告白から始まる夏休み

005:天使の羽根

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 ◇◇◇


 ――紗奈が振り返ったと同時刻。

 紗奈達がカーブを曲がり終え、姿が消えるのを苦々しく見つめる娘達。
 特に空中列車ロープウェイで、漆黒と紗奈の関係に驚いていた三人だった。

 その中心人物――神戸から来たお嬢様たる、緋和ひよりが歯ぎしり一つの後に口を開く。

「気に食わないですわね……」

 緋和の様子を見た茶髪の少女、環奈かんなはオドオドとした口調でそれに答える。

「う、うん。なんだか凄くイヤダヨネ」

 そんな二人がおかしかったのか、東京に憧れている金髪ロングの未来みらいが楽しげに話す。

「タハハ。あっしもありゃねぇと思うっすよ~。正直言って……ムカツクっす」
「品がなくてよ未来。けれどまぁ……ムカツキますわね」

 日和はそう言うと、「あの子は何をしているのかしら?」と呟きいつまでも紗奈達が消え去った道の先を睨みつけていた。


 ◇◇◇


 ――紅雲亭駅からの脱出より十九キロ地点。一周が大体八十キロのこの島で、この距離の移動は凄い事だ。
 そして現在は小豆島の西にある、この島でも有名な観光スポットに私達はいた。

「よっと……小豆島はやっぱりいいな。走っていて最高に気持ちがいい」

 黒いメットを脱ぎながら晴斗くんはそう言う。
 けれど、私はそれどころじゃない。
 なにせこの場所の由来・・・・・・・を知っているのだから。

「うん……でもココって……」

 目前に広がる幻想的な光景は、この島でも特別な意味合いがある。
 それは珍しいモノ見られる場所であり、一日二回の干潮時にソレは現れる。
 その貴重さから、地元では天使の遊歩道エンジェルロードと呼ばれるようになった。

 丁度今、その干潮時だったりするのがタイミングが良すぎる。
 見ている間にあっと言う間に天使の遊歩道が浮かび上がり、白い砂道が私達を祝福した。

 ただ、だけど、いきなりココへ来る!?
 だってエンジェルロードは、〝大切な人と手をつないで渡ると願いが叶う〟と言われている、私には縁が無い場所なんだよ?

「知らないのか? ココはエンジェルロードって言う、神龍もビックリの効果がある場所らしいぜ?」
「そこまでの効果は無いと思いますが!?」
「なら試してみるとするか……」

 そう言うと晴斗くんは私の右手を握りしめ、ゆっくりと歩きだす。
 今日何度目か分からないほど顔が真っ赤になり、足元を歩く子ガニが笑うようにハサミをカチカチと鳴らす。

 青い空を映し出したなぎの水鏡が幻想的な空間を作り出し、まるで水の上に立っていると錯覚するほどに美しい。                                                                         
 さらさらと海水が弁天島へと続く道を浮かびあげ、その白波がまるで天使の羽根に見えた事で、思わず二人で立ち止まる。

「噂には聞いていたけど、実際見るとすげぇな」
「うん……まるで天使の羽根が道を作っているみたい」

 自然と晴斗くんの手の力が少し強くなり、私もそれに応えて強く握る。
 
「ずっと一緒に居たい。そう思っていたんだ」
「いつから?」
「分からねぇ……ただ気が付いた時には、瞳の端で紗奈を追っていたのに気がついた」
「何よソレ。適当なんだから」

 そんな他愛のない会話。それだけでも本当に嬉しいし、このまま時間が止まればいいとすら思う。
 晴斗くんの話しは続き、どうやら本当に私の事をずっと好きだったみたい。

 自分で言うのもなんだけど、顔はありふれたもので普通程度だと思う。
 ただ、よく下級生から〝お姉さま〟とか、同級生からは〝付き合ってほしい〟とか言われた事がある。まぁ……全員女子だけどなにか?

 男子からは友人枠として女とは見られず、なぜか一緒に馬鹿騒ぎするのが私だ。
 だからこそ晴斗くんに憧れた時、身の程知らずという言葉を辞書で十二回引いた。
 それで諦めも付くと思ったが、なぜか闘志が溢れ出し結果――。

「――そう、それだ。だから俺は紗奈が気になったんだ」

 私が「男の子みたいな性格だと思うけど」と言ったら、その答えがコレだ。
 だからこそ「これからは女の子らしくしようかな」と言うと、「ヤメテクレ」と言われた。解せない。

「別に俺は紗奈が可愛くないと思った事なんてないし、むしろ可愛いすぎると思う」
「な、なを突然言うのかな? かなぁ!?」

 そのまま晴斗くんは潮風を胸いっぱいに吸い込み、天使の羽根が一番落ちている場所で立ち止まり、真剣に話し始めた。
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