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完全開放!! 爽快バトル編
098:勇者
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「そうそう、俺はまだ古廻の当主じゃない。中伝しか習得してねぇからな」
「ほほぅ。すると……だからジジイ流というワケか。ならばコレを持ってゆけ」
付喪神はそう言うと、ノドの下にある逆鱗をツメの先で引き抜く。
一瞬苦痛に染めた顔で抜いた逆鱗を見るが、それを戦極へと向けて放り投げた。
大きさは片手にすっぽりと収まるほどであり、さほど大きくはないが表が白色で、裏が虹色であった。
「コイツは逆鱗か? いいのかよ、たしかソレって竜の霊力を蓄えておく場所だろう?」
「よいよい。湖の汚れを払う報酬も兼ねておるからな。それに時間はかかるが、そのうち生えてもこよう」
「そうか、なら遠慮なくもらっておくよ。じゃあまたな、えっと……」
戦極の言葉の続きを察した付喪神は、楽しげに笑いながらそれを続ける。
「ぐっぐっぐ。俺の名は迅羽と呼ばれておった。元々はとある羽扇に宿っていたが、現在はこうなった」
迅羽と名乗った付喪神は、背中の羽をヴァサリとひと扇ぐ。
心地よく清浄な風が戦極を包み、さらに肩を貸していたイザークにいたっては突然体力が回復した。
そのことに驚くイザーク。不思議そうに一人で立ち上がると、迅羽へと礼をいう。
「あ、ありがとうございます! ジンウ様!」
「気にするな。では達者でな古廻戦極」
「ああ。これまでの事、本当にありがとう。先祖になりかわり礼を言うよ迅羽」
戦極はそのまま右手をヒラヒラと振りながら去っていく。
その後ろ姿を見ながら迅羽は笑う。
やがて見えなくなると、昔を思い出しポツリと呟く。
「……ついにこの時が来たか。今度はどちらが滅ぶのか。なぁ千石。お前はいまどこにいる?」
そう言うと迅羽は背後にある道へと戻っていく。
やがて誰もいなくなった空間には、一輪の白い花が咲きはじめ、花弁が優しく光を放つのだった。
◇◇◇
――同時刻、二階層にある墓地で戦いは激化の一途をたどる。
あれほど圧倒的なステータスを持ちながら、その使い方とMP配分を間違え魔法を連発。
さらに昇司と真乃依にいたっては、恐怖でまともに戦えず、自分に余力があるうちに逃げ出してしまった。
現在は桜と剛流の二人で、階層ゲートを守っている――が。
「剛流くん大丈夫!?」
「くッ、体力もMPもまだ余裕があるけど、気持ちが折れそうだよ」
まるで死人が津波になったと勘違いするほどに、倒しても倒しても押し寄せる。
しかもこの原因は、昇司が大声でアンデッドを呼び寄せ、真乃依が回復魔法を暴走気味に放つ。
どうやら回復魔法はアンデッドにダメージを与えるらしく、真乃依が聖女の力をめちゃくちゃに使い、アンデッドを追い立てた。
その結果、一気に桜たちの元へと殺到したというわけだ。
逃げた二人に舌打ちしつつ、剛流は桜を守るために戦っていたが、それも限界が近い。
分かってはいるが、恐怖と不慣れな戦闘により無駄にMPを使い攻撃してしまう。
やがてそれも限界にたっする。
一瞬の油断だった。一瞬気を真横へ向けた瞬間だった。一瞬、そう、ほんの一瞬恐怖に呑まれた。
そこをアンデッドは見逃さない。
生者の心地よく甘美な香りが、アンデッド共の腐った臓腑をしげきする。
黄色く濁った犬歯を粘液でギラつかせ、妙な奇声をあげて遅いかかり噛みつく。
「なッ!? しま――!!」
剛流は思わず前面の敵を忘れ、左後方より迫る腐った唇に恐怖し、次の瞬間。
「剛流くんに触らないで!! ファイヤ・マウアー!!」
瞬間、剛流の周りに炎の壁ができ、それが囲むことでゾンビを弾き燃やす。
言いようのない不快な腐った肉が焼ける匂いで、むせながらも剛流は桜へと叫ぶ。
「た、助かったよ桜ちゃん!!」
「油断しないで剛流くん! 戦極さんから教わったことを思い出して!」
「う、うん分かっている。分かってはいるんだけどッ!!」
桜が作り出した炎の壁を乗り越えて、スケルトンがやってくる。
ブスブスと焦げ付き、片腕を失いながらも錆びた剣で剛流を襲う。
それを最小限の魔力を込めた剣で払い除け、さらに左腕に装備する盾で吹き飛ばす。
バラバラになったスケルトンを踏み砕き、女のゾンビが腐った顔の半分から腐肉をしたたらせて襲いかかる。
「ひぅッ!? クッソオオオオオオ!!」
ビクリと驚き、一歩後ずさる剛流。
だがそれを反動にかえて、盾でゾンビ女を盾で殴り倒す。
ベシャリと地面へ倒れたゾンビ女を、さらに太ったゾンビ男が踏みつけ、アゴを砕き迫る。
それを見た剛流は桜へと弱音を吐く。
「さ、桜ちゃんもうダメだよ! 僕たちも一旦逃げようよ!!」
だが桜はそれを許さない。
近くに来たスケルトンの首を、魔力を薄く流した杖で弾き飛ばしながら、剛流を叱責。
「ダメよ! 戦極さんが戻って来るのはココ、このゲートしかないのよ!! だから何としてもここを死守しないと、彼が帰る場所がなくなっちゃうじゃない!?」
「で、でも……」
「弱音を吐く前に目の前のゾンビを叩く! お願い剛流くん、がんばって!!」
剛流は唇を噛みしめ、その痛みで少し裂けた事を、血の味が口内へ広がることで認識。
今にも逃げ出しそうな震える足に力をこめなおし、剣を持つ手に勇気をそそぐ。
「っそうッ! かかってこいアンデッド共があああああああああ!!」
剛流は叫ぶ。ノドが割けんばかりに。
だがそんな彼の覚悟も、さらに埋め尽くされる歩く死体により、嘲笑い数を増やすのだった。
「ほほぅ。すると……だからジジイ流というワケか。ならばコレを持ってゆけ」
付喪神はそう言うと、ノドの下にある逆鱗をツメの先で引き抜く。
一瞬苦痛に染めた顔で抜いた逆鱗を見るが、それを戦極へと向けて放り投げた。
大きさは片手にすっぽりと収まるほどであり、さほど大きくはないが表が白色で、裏が虹色であった。
「コイツは逆鱗か? いいのかよ、たしかソレって竜の霊力を蓄えておく場所だろう?」
「よいよい。湖の汚れを払う報酬も兼ねておるからな。それに時間はかかるが、そのうち生えてもこよう」
「そうか、なら遠慮なくもらっておくよ。じゃあまたな、えっと……」
戦極の言葉の続きを察した付喪神は、楽しげに笑いながらそれを続ける。
「ぐっぐっぐ。俺の名は迅羽と呼ばれておった。元々はとある羽扇に宿っていたが、現在はこうなった」
迅羽と名乗った付喪神は、背中の羽をヴァサリとひと扇ぐ。
心地よく清浄な風が戦極を包み、さらに肩を貸していたイザークにいたっては突然体力が回復した。
そのことに驚くイザーク。不思議そうに一人で立ち上がると、迅羽へと礼をいう。
「あ、ありがとうございます! ジンウ様!」
「気にするな。では達者でな古廻戦極」
「ああ。これまでの事、本当にありがとう。先祖になりかわり礼を言うよ迅羽」
戦極はそのまま右手をヒラヒラと振りながら去っていく。
その後ろ姿を見ながら迅羽は笑う。
やがて見えなくなると、昔を思い出しポツリと呟く。
「……ついにこの時が来たか。今度はどちらが滅ぶのか。なぁ千石。お前はいまどこにいる?」
そう言うと迅羽は背後にある道へと戻っていく。
やがて誰もいなくなった空間には、一輪の白い花が咲きはじめ、花弁が優しく光を放つのだった。
◇◇◇
――同時刻、二階層にある墓地で戦いは激化の一途をたどる。
あれほど圧倒的なステータスを持ちながら、その使い方とMP配分を間違え魔法を連発。
さらに昇司と真乃依にいたっては、恐怖でまともに戦えず、自分に余力があるうちに逃げ出してしまった。
現在は桜と剛流の二人で、階層ゲートを守っている――が。
「剛流くん大丈夫!?」
「くッ、体力もMPもまだ余裕があるけど、気持ちが折れそうだよ」
まるで死人が津波になったと勘違いするほどに、倒しても倒しても押し寄せる。
しかもこの原因は、昇司が大声でアンデッドを呼び寄せ、真乃依が回復魔法を暴走気味に放つ。
どうやら回復魔法はアンデッドにダメージを与えるらしく、真乃依が聖女の力をめちゃくちゃに使い、アンデッドを追い立てた。
その結果、一気に桜たちの元へと殺到したというわけだ。
逃げた二人に舌打ちしつつ、剛流は桜を守るために戦っていたが、それも限界が近い。
分かってはいるが、恐怖と不慣れな戦闘により無駄にMPを使い攻撃してしまう。
やがてそれも限界にたっする。
一瞬の油断だった。一瞬気を真横へ向けた瞬間だった。一瞬、そう、ほんの一瞬恐怖に呑まれた。
そこをアンデッドは見逃さない。
生者の心地よく甘美な香りが、アンデッド共の腐った臓腑をしげきする。
黄色く濁った犬歯を粘液でギラつかせ、妙な奇声をあげて遅いかかり噛みつく。
「なッ!? しま――!!」
剛流は思わず前面の敵を忘れ、左後方より迫る腐った唇に恐怖し、次の瞬間。
「剛流くんに触らないで!! ファイヤ・マウアー!!」
瞬間、剛流の周りに炎の壁ができ、それが囲むことでゾンビを弾き燃やす。
言いようのない不快な腐った肉が焼ける匂いで、むせながらも剛流は桜へと叫ぶ。
「た、助かったよ桜ちゃん!!」
「油断しないで剛流くん! 戦極さんから教わったことを思い出して!」
「う、うん分かっている。分かってはいるんだけどッ!!」
桜が作り出した炎の壁を乗り越えて、スケルトンがやってくる。
ブスブスと焦げ付き、片腕を失いながらも錆びた剣で剛流を襲う。
それを最小限の魔力を込めた剣で払い除け、さらに左腕に装備する盾で吹き飛ばす。
バラバラになったスケルトンを踏み砕き、女のゾンビが腐った顔の半分から腐肉をしたたらせて襲いかかる。
「ひぅッ!? クッソオオオオオオ!!」
ビクリと驚き、一歩後ずさる剛流。
だがそれを反動にかえて、盾でゾンビ女を盾で殴り倒す。
ベシャリと地面へ倒れたゾンビ女を、さらに太ったゾンビ男が踏みつけ、アゴを砕き迫る。
それを見た剛流は桜へと弱音を吐く。
「さ、桜ちゃんもうダメだよ! 僕たちも一旦逃げようよ!!」
だが桜はそれを許さない。
近くに来たスケルトンの首を、魔力を薄く流した杖で弾き飛ばしながら、剛流を叱責。
「ダメよ! 戦極さんが戻って来るのはココ、このゲートしかないのよ!! だから何としてもここを死守しないと、彼が帰る場所がなくなっちゃうじゃない!?」
「で、でも……」
「弱音を吐く前に目の前のゾンビを叩く! お願い剛流くん、がんばって!!」
剛流は唇を噛みしめ、その痛みで少し裂けた事を、血の味が口内へ広がることで認識。
今にも逃げ出しそうな震える足に力をこめなおし、剣を持つ手に勇気をそそぐ。
「っそうッ! かかってこいアンデッド共があああああああああ!!」
剛流は叫ぶ。ノドが割けんばかりに。
だがそんな彼の覚悟も、さらに埋め尽くされる歩く死体により、嘲笑い数を増やすのだった。
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