上 下
58 / 105
ダンジョン~〝戦極〟覚醒編

057:広い場所

しおりを挟む
「やることが過激だな」
「そうでしょうか? 当然すぎて批判もでませんわよ? ほら」

 エカテリーナがそういう言うと、周囲の兵士は青ざめた顔で下をむく。
 さきほどの隊長の死がよほど恐ろしかったのか、一人の兵士は涙でぬらす。
 震える兵士にエカテリーナは近づくと、彼の涙を右人差し指で拭いながら、優しく語りかける。

「あらあら、カワイソウにどうしたのかしら?」
「ヒッ! し、失礼しました! 何でもありません!」
「そう……なら良かったわ」

 エカテリーナはダンジョンの入り口へと向かうことで、涙の男はホットする、が。

「あぁそうそう。貴方のことは忘れませんわ」

 その言葉で兵士は崩れ落ちる。
 それを楽しそうに尻目にみつつ、勇者たちへと後につづくようにうながす。

「さ、余興はおしまい。これから楽しいダンジョンが待っていますわ」

 昇司は「やってやるぜ!」とはしゃぎ、真乃依は「メンドウなんですけどぉ」とやる気をみせない。
 剛流は「が、がんばります」と震え、桜は父と母の名を心で呼ぶ。

「じゃあ案内ヨロシク、センセイ」
「下等種がよくも言いますわね。その口が苦痛に歪むのはいつかしら?」

 そう言うとエカテリーナは漆黒の闇の中へと溶け込んでいく。
 その後に戦極が続き、勇者たち四人もそれに付き従うのだった。


 ◇◇◇


「さぁ着きましたわ。ここが暗黒のダンジョンですわ」

 漆黒を抜けると、そこは明るかった。
 しかもただ明るいだけじゃない、目の前のは一面の巨大な湖が広がり、見るものを驚愕きょうがくさせた。

「マジかよ……」

 昇司の言葉が勇者と戦極の思いを代弁する。
 本当にそれしか考えることができない、ありえない場所だったのだから。

「ちょ、しっしょ! こんなんどうするのよ!?」
「よく見なさいマリエ、ちゃんと道があるでしょう?」

 よく見れば石橋が陸地から続いており、沖の浮島へと通じているようだ。
 幻想的とも言える空間に、現実感を消失しつつも、これがリアルな出来事とすぐに全員が理解する。
 
 突如水面が揺れたとおもうと、ぷかりと顔が覗く。
 よく見れば魚であり、それが水面から出てきてコチラへと向かってきた。
 しかも足と手が生えており、必死にこちらへと来る格好が不気味すぎる。

「キモッ!? しっしょ~、なにあれぇ?」
「この気持ちが悪いのは、マーメインと言う雑魚ですわ。噛みつくことしか出来ず、触れられるまえに駆逐すれば、なにも問題ありませんわ」

 意外と早いマーメインは全長一メートル半ほど。
 それが数歩前に進んだエカテリーナへと向かってくる。
 彼女はマーメインの動きを全く気にせず、そのまま右手の中指に装備した血糸けっしの指輪からでた赤い糸で真っ二つに切断。
 マーメインは「ギョェェ」と断末魔をあげ、倒れるのであった。

「と、まぁこんな雑魚ですわ」
「お……おおおお! なるほど、コレなら今の俺なら超余裕だぜ!」
「アタシは戦闘はパス。ケガしたら治してやるしぃ、あとは補助だけでカンベン」
「な、なら僕は全面に出て戦うよ」
「私は魔法でアシストするからね」
「じゃあ、俺もそんな感じで~」

 戦極が桜のあとに、やる気のなさそうに言う。
 それが気に食わないのか、エカテリーナはにらみながら吐き捨てる。

「ふん。下等種とは言え、一応は勇者として認められたのですから、しっかりなさい」
「ハッ! 大変、本当に、マジで、すんませんでした、しっしょ~」
「……まぁいいですわ。今日は、わたくしが全部の敵を倒します。あなた達は敵がどういうものかを学び、後日のダンジョンアタックに備えなさい」

 エカテリーナはそう言うと先へと進む。
 昇司は不満そうに戦いたいと言うが、それを無視して石橋の上を進むのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

異世界で買った奴隷がやっぱ強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
「異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!」の続編です! 前編を引き継ぐストーリーとなっておりますので、初めての方は、前編から読む事を推奨します。

全裸追放から始まる成り上がり生活!〜育ててくれた貴族パーティーから追放されたので、前世の記憶を使ってイージーモードの生活を送ります〜

仁徳
ファンタジー
テオ・ローゼは、捨て子だった。しかし、イルムガルト率いる貴族パーティーが彼を拾い、大事に育ててくれた。 テオが十七歳になったその日、彼は鑑定士からユニークスキルが【前世の記憶】と言われ、それがどんな効果を齎すのかが分からなかったイルムガルトは、テオをパーティーから追放すると宣言する。 イルムガルトが捨て子のテオをここまで育てた理由、それは占い師の予言でテオは優秀な人間となるからと言われたからだ。 イルムガルトはテオのユニークスキルを無能だと烙印を押した。しかし、これまでの彼のユニークスキルは、助言と言う形で常に発動していたのだ。 それに気付かないイルムガルトは、テオの身包みを剥いで素っ裸で外に放り出す。 何も身に付けていないテオは町にいられないと思い、町を出て暗闇の中を彷徨う。そんな時、モンスターに襲われてテオは見知らぬ女性に助けられた。 捨てる神あれば拾う神あり。テオは助けてくれた女性、ルナとパーティーを組み、新たな人生を歩む。 一方、貴族パーティーはこれまであったテオの助言を失ったことで、効率良く動くことができずに失敗を繰り返し、没落の道を辿って行く。 これは、ユニークスキルが無能だと判断されたテオが新たな人生を歩み、前世の記憶を生かして幸せになって行く物語。

突然だけど、空間魔法を頼りに生き延びます

ももがぶ
ファンタジー
俺、空田広志(そらたひろし)23歳。 何故だか気が付けば、見も知らぬ世界に立っていた。 何故、そんなことが分かるかと言えば、自分の目の前には木の棒……棍棒だろうか、それを握りしめた緑色の醜悪な小人っぽい何か三体に囲まれていたからだ。 それに俺は少し前までコンビニに立ち寄っていたのだから、こんな何もない平原であるハズがない。 そして振り返ってもさっきまでいたはずのコンビニも見えないし、建物どころかアスファルトの道路も街灯も何も見えない。 見えるのは俺を取り囲む醜悪な小人三体と、遠くに森の様な木々が見えるだけだ。 「えっと、とりあえずどうにかしないと多分……死んじゃうよね。でも、どうすれば?」 にじり寄ってくる三体の何かを警戒しながら、どうにかこの場を切り抜けたいと考えるが、手元には武器になりそうな物はなく、持っているコンビニの袋の中は発泡酒三本とツナマヨと梅干しのおにぎり、後はポテサラだけだ。 「こりゃ、詰みだな」と思っていると「待てよ、ここが異世界なら……」とある期待が沸き上がる。 「何もしないよりは……」と考え「ステータス!」と呟けば、目の前に半透明のボードが現れ、そこには自分の名前と性別、年齢、HPなどが表記され、最後には『空間魔法Lv1』『次元の隙間からこぼれ落ちた者』と記載されていた。

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

処理中です...