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ダンジョン~〝戦極〟覚醒編
054:王命~オーダー
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◇◇◇
――暗黒のダンジョンへ戦極が向かう前夜、王城の廊下を歩く女がいた。
昼は絢爛華麗な女神像も、夜は魔具の明かりで淫靡な様相へとかわる。
それを見た女は立ち止まると、「わたくしより格段に劣りますわね」と呟き歩き出す。
やがて女は趣味のわるい、悪魔めいた彫像が二体ドアの前にいる部屋へ到着すると、細く美しい右腕を動かしノックをした。
「……エカテリーナか。ノックなど不要だ」
「親しき中にもなんとやら。失礼いたしますわバーゲン卿、お呼びとの事ですが?」
「うむ。明日の暗黒のダンジョンだが、お前に引率を任せる」
「ヒヨコの引率は好みではありませんが、他に楽しげな御用がありそうですわね」
エカテリーナは嫌らしく笑うと、バーゲンがいる一枚板の職人の技工を感じる、デスクのはじへと腰をおろす。
「ふっ、私には通じぬぞ?」
「あら残念。バーゲン卿が落とせたら、この国はわたくしのものなのに」
バーゲンは立ち上がると、エカテリーナの腰から指を這わせて、徐々に上へとすべらせる。
二つの巨丘の下部より左の膨らみの頂点を経由し、絹より細かい地肌をなぞり、アゴの下へと指が来た瞬間、自分と視線が合うようにしゃくり上げた。
「それもよかろう、ならばくれてやる。ここを淫魔の国にするのも悪くはない」
「あら、言ってみるものですわね。それで条件は?」
「おまえには簡単なことだ。明日は間違いなく、ダンジョン内で行方不明者がでるだろう」
「まぁ怖い。そこで下等種を廃棄しろ、と?」
「それこそ私の口からは怖くて、そんな事はいえんな。なにせまだ国王陛下から、〝規格外は活かしておけ〟と言われているのでな」
「悪いお方ですわね。王命を捏造するなんて」
「かまわんだろう? 私がこの国の王も同然なのだからな」
そういうとバーゲンは、棚にある八十年物のウイスキーを手にとる。
そのままロックグラスへ注ぎ込み、深く香りを楽しみながらソファーへと腰を落とす。
「ふくよかな香りと、深いコク。まさに呑みごろと言ったところか。この国もこの酒と同様、極上にもうすぐ熟れ落ちる」
極上の琥珀色を一口含み、鼻孔より抜ける香りに酔いしれつつ口をひらく。
「収穫は間近だ。そこに――規格外はいらぬ」
「承知いたしましたバーゲン卿。王命は必ず遂行いたしますわ」
そう言うと、エカテリーナは部屋を後にするため歩き出す。
入り口のドアの取手へと右手をかけ、ふと振り返りながらバーゲンへと一つの疑問を問う。
「なぜ……あの下等種をそんなに恐れているので?」
バーゲンは琥珀色の液体を半分ほど呑み干し、グラスを見つめながら話す。
「くだらん昔話を思い出しただけだ。もし……いや、杞憂というものか。なににせよ、収穫祭に邪魔がはいってもつまらん。ただソレだけの事よ」
「……承知いたしましたバーゲン王」
エカテリーナはそっとドアを開くと、影が吸い込まれるように消え去る。
やがてドアがパタリとしまると、バーゲンは苦々しく口をひらく。
「恐れ、か。もしあの男が……あの御方が言っていた存在ならば、早急に始末をつけねばなるまい」
そういうと残りの琥珀色を呑み干し、ロックグラスへと再度注ぎ込むのだった。
――暗黒のダンジョンへ戦極が向かう前夜、王城の廊下を歩く女がいた。
昼は絢爛華麗な女神像も、夜は魔具の明かりで淫靡な様相へとかわる。
それを見た女は立ち止まると、「わたくしより格段に劣りますわね」と呟き歩き出す。
やがて女は趣味のわるい、悪魔めいた彫像が二体ドアの前にいる部屋へ到着すると、細く美しい右腕を動かしノックをした。
「……エカテリーナか。ノックなど不要だ」
「親しき中にもなんとやら。失礼いたしますわバーゲン卿、お呼びとの事ですが?」
「うむ。明日の暗黒のダンジョンだが、お前に引率を任せる」
「ヒヨコの引率は好みではありませんが、他に楽しげな御用がありそうですわね」
エカテリーナは嫌らしく笑うと、バーゲンがいる一枚板の職人の技工を感じる、デスクのはじへと腰をおろす。
「ふっ、私には通じぬぞ?」
「あら残念。バーゲン卿が落とせたら、この国はわたくしのものなのに」
バーゲンは立ち上がると、エカテリーナの腰から指を這わせて、徐々に上へとすべらせる。
二つの巨丘の下部より左の膨らみの頂点を経由し、絹より細かい地肌をなぞり、アゴの下へと指が来た瞬間、自分と視線が合うようにしゃくり上げた。
「それもよかろう、ならばくれてやる。ここを淫魔の国にするのも悪くはない」
「あら、言ってみるものですわね。それで条件は?」
「おまえには簡単なことだ。明日は間違いなく、ダンジョン内で行方不明者がでるだろう」
「まぁ怖い。そこで下等種を廃棄しろ、と?」
「それこそ私の口からは怖くて、そんな事はいえんな。なにせまだ国王陛下から、〝規格外は活かしておけ〟と言われているのでな」
「悪いお方ですわね。王命を捏造するなんて」
「かまわんだろう? 私がこの国の王も同然なのだからな」
そういうとバーゲンは、棚にある八十年物のウイスキーを手にとる。
そのままロックグラスへ注ぎ込み、深く香りを楽しみながらソファーへと腰を落とす。
「ふくよかな香りと、深いコク。まさに呑みごろと言ったところか。この国もこの酒と同様、極上にもうすぐ熟れ落ちる」
極上の琥珀色を一口含み、鼻孔より抜ける香りに酔いしれつつ口をひらく。
「収穫は間近だ。そこに――規格外はいらぬ」
「承知いたしましたバーゲン卿。王命は必ず遂行いたしますわ」
そう言うと、エカテリーナは部屋を後にするため歩き出す。
入り口のドアの取手へと右手をかけ、ふと振り返りながらバーゲンへと一つの疑問を問う。
「なぜ……あの下等種をそんなに恐れているので?」
バーゲンは琥珀色の液体を半分ほど呑み干し、グラスを見つめながら話す。
「くだらん昔話を思い出しただけだ。もし……いや、杞憂というものか。なににせよ、収穫祭に邪魔がはいってもつまらん。ただソレだけの事よ」
「……承知いたしましたバーゲン王」
エカテリーナはそっとドアを開くと、影が吸い込まれるように消え去る。
やがてドアがパタリとしまると、バーゲンは苦々しく口をひらく。
「恐れ、か。もしあの男が……あの御方が言っていた存在ならば、早急に始末をつけねばなるまい」
そういうと残りの琥珀色を呑み干し、ロックグラスへと再度注ぎ込むのだった。
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