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ダンジョン~〝戦極〟覚醒編

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 先ほどと同じように放物線を描きながら、斜め上より戦極へと迫る藁束。
 しかも直径はゆうに百十センチは超え、大人でも手が全部に回らない太さだ。
 
 戦極は先程と同じように構えると、微動だにせず藁束が間合いに入るのを待つ。
 やがて藁束が間合いに入った瞬間、「セアッ!!」と気合を込めて藁山の中心を斬る。

 だが斬れた様子もなく、戦極へと迫る藁束にフェリスは「危ない!!」と声をあげる、が。

「まぁこんなものか」
「え!? うそ、何が……」

 戦極へと向かった藁束は、ぶつかる直前に真っ二つに割れてしまう。
 それが左右へと転がり落ちた。

「変態さん、これは一体どういうことなの?」

 ふふん、驚いているな?
 まぁ無理もない、俺も使えて驚いている。
 こいつ・・・まで使えなかったら、確実にダンジョンで死ぬのは確定だ。

 俺の古武術の流派は、ヘソの下にある丹田たんでんと呼ばれる場所へ力を込めて、それを練ったものを使う。

 つまり――。

「――気力だよ。一般的にはと呼ばれたりするものだが、それを剣へまとって斬撃力をアップさせたのさ」
「キ? いえ、気と言った方が自然な言い方かしら。それが魔力以上の力になったと言うわけ?」
「さてね。魔力を使えない俺からすれば、それも怪しい話だが……フェリス、最初と同じ藁束を放り投げてくれ」

 手頃なものを見つけたフェリスは、すぐに戦極へとそれを蹴り上げる。
 数メートル高くあがった、直径五十センチほどの藁束は戦極へとまっすぐ向かう。
 
 戦極は腰を落とし、先程とは違い細身の剣を左腰の横に構えて、間合いに入った瞬間に動き出す。
 左下から斜め上に斬りあげた剣筋は、陽の光を受けて白銀に線を引きながら藁束へと吸い込まれる。

 つぎの瞬間、藁束が斜めに切り落とされてバサリと戦極の左右へと落ちた。
 あまりの見事な切り口に、フェリスは驚きの声をあげる。

「す、すごいわね! さっきまで半分しか斬れなかったのに、ここまで綺麗に斬れるなんて! これも気の力のおかげ?」
「と、思うだろう? そうじゃないんだよ。この剣の使い勝手がわかっただけさ」
「使い勝手?」
「そう。本来藁束は、薄く幅の狭い刀剣で斬るとすんなりと斬れるんだよ。だから斬る角度を変えれば、こんなふうになる」
「へぇ~そうなんだ」
「だからこの剣のような幅の厚いものだと、なかなか綺麗には切断できないが、使い方さえわかればそれなりに使える」

 フェリスは「なるほど」とうなずいたのち、疑問を聞いてみる。

「ところでさっきの気だけれど、なぜ初めから使わなかったの?」
「それな。まぁ二つ理由があってさ、俺は本来は気の力で強化して戦うんだが――」

 戦極の話はフェリスにはよく分からなかった。
 だが現在使っている力に大きく関係しているらしい。
 
 一つは〝妖気〟と呼ばれる力があり、それをメインとしている事で、本来使うはずの〝気〟が使いにくいとのことだ。

 そして二つ目が気を即座に使えない理由。
 妖気と気は本来は対局に位置するもの。だからそれを切り替えるため、あの剣舞が必要だという。

「えぇ? じゃあ変態さんは悪者なのね」
「悪者いうなし。闇属性の力ってだけだってばよ! それに俺の力が戻ったらそうだな……」

 戦極は右手に持つ剣で、近くにある大木をさすと不敵に口角をあげるのだった。
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