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異世界の残酷な洗礼編

034:自愛あふれる聖女様になろう

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「はぁ~着いたし。今日はあそこで、戦極アンタを調教するんだってさぁ」
「調教ねぇ……G1で走れるくらいにして欲しいね」
「ハァ? イミフな事いっていないで、人権ないんだから早く行けばぁ~」

 そう言うと真乃依は、右手首をプラプラと振りながら歩いて行く。
 どうやら戦極と話すもの嫌なようだ。
 諦めたように「困ったねぇ」と呟くと、戦極は桜と剛流へと向き挨拶をする。

「ここまで送ってくれてありがとうな。二人とも無事に一日がんばれよ」
「戦極さん、それはこっちのセリフですよ……」
「う、うん。僕もすごく心配です、本当にムリだけはしないでくださいね」

 まぁムリはしたくないが、強制だからしかたないんだが。
 っと、こんな事を言ったらまた心配かけちまうな。

「はいよ~、無理そうなら泣いて許しをこうさ」

 戦極は左眉をあげ、苦笑いをしつつ真乃依の後を追う。
 その姿に二人は不安を感じると同時に、無事に戻ってこれるようにと、この世界の知らない神様へ祈るのだった。


 ◇◇◇


「へぇ……こんな場所もあるんだな」

 戦極が到着した場所。
 そこは美しい水辺であり、人工池の中央から十メートルほどの水柱が見えた。
 中央には噴水が吹き出す塔があり、白亜はくあの柱と屋根だけの建物が人工池を囲む。

 こんな癒やしの空間・・・・・・だが、建物の一つに木製のガゼボがあり、そこでくつろぐ女――聖眼のエカテリーナを見て、それが間違いだと気がつく。
 明らかに楽しんでいるのが分かる、ジットリとした瞳で戦極を見つめていたのだから。

「しっしょ~連れて来たわ~。マジダルなんですけどぉ」
「ご苦労でしたわねマリエ。とは言え……何か匂いませんこと?」
「そらそ~っしょ。戦極サマは、バッチィ馬小屋住みだしぃ。マジくせぇ~」
「あらイヤですわね。そんな汚物は、本来は見たくもないのですが」

 熱烈な歓迎、嬉しい限りだねぇ。
 だが、馬小屋を悪く言うのは許さんぞ真乃依クン。
 最近あそこも気に入っているんだからな。多分。

「馬小屋臭も慣れればいいものですがね? 今日はよろしくお願いしますよ、センセイ」
「よろしくされたくないですわ。が、王命ですので仕方なく教えてあげましょう。とは言え、魔力が無いクズには何が出来るというのか……」

 ならとっとと帰りたいのですがね。
 つか、追い出してくれて構いませんのよ? って、真乃依……なんだその顔は。
 なに〝ぴこーん〟みたいな擬音が、背後に見えるようなんだが?
 カンベンしてくれよ、最悪な提案だけは。

「はいは~い、しっしょ~! アタシ思いついたかも~」
「なんですのマリエ、言ってごらんなさい?」
「えへへへ……ほら昨日やったっしょ? アレの変わりにみたいな感じぃ」

 おい、エカテリーナ。なに恍惚とした表情で身震いしている。
 真性の変態か? やめてくれよ、そんな目で俺をみるのは……照れる。

「流石は、わたくしの弟子ですわね。よろしくてよ、なら弟子の頼みを叶えるのも師のつとめと言うもの」
「甘やかすと後々ロクな事にはならないと思うぜ、センセイ」
「褒めて育てるのが、わたくしのスタイル。では始めましょうか……治療術を」

 チッ、やっぱりそうなるかよ! って――!?

「グゥッ! どこから攻撃をしやがった!?」

 チッ、左の上腕二頭筋が切られただと?
 一体どこから攻撃をしたんだ、一切なにも見えなかったし感じなかったぞ。

「あらイヤですわねぇ、いいこと下等種。アナタはそのまま動かないでジットしていなさい」
「しっしょ~、戦極コイツ避けたから切りかた甘くね?」
「本当に運がいい。まぁいいですわ、マリエ。昨日教えた通りやってみなさい」

 真乃依は「りょ」と言いながら右手で敬礼をすると、戦極へと右手を向けてスペルを唱える。
 右手に白い光が集約し、それが徐々に濃密な塊に変化した瞬間、マリエの口から聞き覚えのある言葉がつむがれた。

「癒やしの光よ、この手に集まりの者を癒せ――ライトヒ~ル~」

 そう、真乃依が唱えた呪文。桜が戦極を連日癒やしている回復魔法。ライトヒールを。
 だが桜のと違い、効果が薄い。
 その原因を師匠のエカテリーナが呆れ口調で話す。

「マリエ、最後の間の抜けた感じはなんですの? いいですこと、ヒ~ル~ではなく、ヒールですわよ?」
「えええ~? アタシちゃんと言ったつもりだしぃ」
「ええ~じゃありませんよ。マリエのスペルではよくて七割。見なさい、下等種の左腕が完治していないですわ」

 クソッ! 最悪な予想を引きやがったか。
 聖女=回復魔法。そんなイメージがあったが、その回復の実験体・・・にされるんじゃねぇかと思ったが、クリティカル大当たり。
 
 俺の感の良さが恨めしい。
 このままでは切り刻まれちまうぞ……何とか四肢が無事な状態でかわさねぇと。
 だが一体、どこからさっきの攻撃が来た? それを見極めねぇと、一応殺すなとはなっているが、事故って死ぬ事になるな。
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