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異世界の残酷な洗礼編

027:欠片もなし

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 この城の敷地は驚くほど広い。
 中央に城があり、それを囲むように兵舎・馬房・訓練場・兵器庫があり、その中に魔法研究棟というものがある。
 そして戦極と桜は、その魔法研究棟へと向かっているのだった。

「しかし広いよなぁ。日本の村レベルだったら余裕で入りそうだよな」
「ですよねぇ。私このステータスが無かったら、間違いなく移動すらできない自信がありますもん」
「そのステータスが羨ましいよ、ホント」
「アハハ……。あ、見えて来ましたよ。ほらアレが魔法研究棟です」
「おおおおお!! 見た目が面白いな」

 どう見ても石組みだよな? それがどうして十字の形の頂点に、三日月型のデカイオブジェがついているんだよ。
 あれか? あれも魔法の技術なのか? なんでもあり過ぎだろう。
 つか、使いにくそうな部屋だなぁ……。ジョル爺、色々と大丈夫かと心配になるレベルだぞ。
 おじいちゃん、ボケてないですか?

「戦極さん、どうしましたか?」
「いや、老後に自分は大丈夫かと心配になってな」
「大丈夫じゃろう、ワシもまだ元気じゃよ」

 突然声をかけられて驚く桜。慌てて周囲を見ても誰もいなく、首を傾げている。
 だが戦極は苦笑いをしつつ、上を見ると。

「覗き見とは趣味がよろしくありませんね、先生」
「ふぉふぉふぉ、そう睨むものではないよ若人わこうどよ」

 何が若人だよ、馬小屋からずっと空飛んで見ていたくせに。
 いつ脅かそうかと必死な感じ、痛いほど伝わりましたぜ、おじいちゃん。

「先生!? 上にいたんですか」
「ふぉふぉふぉ。サクラは気が付かなかったようだが、センゴクは気がついていたようじゃがな」
「たまたま先生の影が見えたからな」
「影も消してあるんじゃがなぁ……まぁよい。では研究棟の最上階で待っておるから、登ってきてくれ」

 そう言うとジョルジュは、そのまま研究棟へと飛び去ってしまう。
 驚く桜の肩を二度たたき、戦極は先を急ぐ。

「ま、そういう事もあるってことだ。行こうぜ桜、俺の時間もあまりないからな」
「あ!? 待ってくださいよ戦極さ~ん」

 やっと研究棟の真下まで来たが……下から見るとやっぱり異常な作りだと分かるな。
 なんであんな不安定な場所から、デカイ三日月が乗っていられる?
 魔法、か。この力を攻略しない限り、俺には後がないのは確かなようだ。
 
「どうしましたか?」
「いや、あまりの凄さに驚いていただけだよ。じゃあ桜、案内よろしくな」
「はい! では行きましょう」

 桜の案内で内部へと入る戦極。
 円形状のホールは白一色で統一されており、とても清潔感と観葉植物が品よく配置されている場所だ。
 そこには誰もいなく、変なカカシのような魔法生物が、中央の受付にいるだけだった。

「いらっしゃようございます。本日のご予定は二名様ですね?」
「はい、先生のところまでお願いします」
「りょかしました。では円の中でジットしやがれ」
「なんだコイツ?」
「あはは、なんか魔法生物って言うらしいです」

 戦極は「へぇ」と頷くと同時に、床が光りあっという間に最上階へと転移する。
 次に気がついた時は、禁魔のジョルジュが目の前に楽しそうに立っていたのだった。

「うおッ!? マジかよ……転移とかするのか」
「驚きますよねぇ、私も昨日驚きましたもん」
「ふぉふぉふぉ。良い反応じゃなぁ、これを見るのが楽しいんじゃて」
「それは驚くさ。さてジョル爺先生、今日はよろしくお願いします」

 戦極は言葉とは裏腹に、実に正しい姿勢で頭を下げる。
 それを見た桜も同じように頭をさげるのであった。
 思わぬ二人の行動にジョルジュも一瞬驚くが、その後ニコニコと微笑むと口を開く。

「うむうむ。最近は態度がなっとらん若いものがおおいでなぁ、こういうのは気持ちがいいわい」
「うちのクソジジイから、そう言うのは・・・・・・これでもかと仕込まれたからな。それで……単刀直入に聞きたいんだが、俺に魔力が使える可能性は?」

 ジョルジュはその質問が来ることが分かっていたように、重々しくため息を吐くと白髭しろひげをしごく。

「うむ……。はっきり言おう。センゴク、お前に魔法の才能はかけらもない」
「ハァ~やっぱりか。そんな気はしていたんだよなぁ」
「そんな!? 先生なんとかならないんですか!」
「無いこともない。が……ついて来なさい」

 ジョルジュは広い部屋をあるく。
 そこは色々な魔具が置いてあり、何かを研究している物や、スクロールの山が綺麗に整頓されていた。
 そんな珍しい風景を楽しみながら、戦極は部屋をあるく。
 やがてお茶が用意してある、職人のこだわりが分かるテーブルへとつくと、ジョルジュはそこへ二人を座らせた。
 
「かけなさい。まずは魔力について話そう」

 そう言うと、ジョルジュは青く柑橘系のお茶をすする。
 一呼吸おいた後、ゆっくりと魔力が発生する仕組みを語る。
 その内容は戦極にとって致命的なものだった。

「……つまり、魔力とは生まれた時から備わるものであり、それが使えないのはありえない、と?」
「そうじゃ。だからセンゴクよ、お前にはこくだが今後も発現する見込みは薄いと言えるじゃろう」
「が、抜け道もある。そうだろう?」
「ふぉふぉふぉ。ほんにきもわっとる。普通ここまで聞いたら絶望し、生きることも難しいとなげくものじゃろうが……」

 ジョルジュはそう言うと、もう一口茶を飲みカップを元に戻すと同時に戦極へと話す。

「ある。だが命がけじゃ」
「それはどうしたらいいんだい?」
「うむ。それはセンゴク、お前が瀕死ひんしになる事で、たどり着けるかもしれん。マナの源泉へとな」
「マナの源泉?」
「そうじゃ、お前はマナの源泉へとつながる門が閉じている。そこをこじ開けるしか方法はない」
「そ、そんな瀕死だなんて!? 戦極さんが死んでしまいますよ先生!」

 なるほどね、よくあるあるなパターンねぇ……。
 でもさ、俺ばかり苦労しすぎじゃね? まぁ死ぬよりはいいが……ツラミ。
 とはいえ、どうせ明日からの修行で死ぬ寸前まで追い込まれるの確定だから、別にいまさらかもね!

 マジで、切実に、泣きたい。
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