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異世界の残酷な洗礼編

025:わん太郎の冒険🐾~お魚の章

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 ◇◇◇


 ――次の日の朝、わん太郎と美琴は小さな村の近くに流れる、小川の前に立っていた。

『……これはどういう事かな? 戦極様はどこなのかな?』
「こ、これはあれだワン。昔の人はよく言ったワンよ、犬も歩けば棒に当たると」
『つまり、適当に歩いていたって事かな? かなぁ?』
「ひぃ!? ち、ちがうワンよ。ん? ほらほらぁ、見て女幽霊。あそこに見たこともない、お魚が泳いでいるワン。もうお腹が減ったからね、アレを食べた後であるじぃの元へと向かうワンよ!」

 どうやら、わん太郎はお腹がへったらしく、そこにいる魚を狙っているようだ。
 そんなわん太郎にジト目を向けつつ、お腹が減ったら可愛そうだと美琴も思う。

『もぅ、仕方ないなぁ。これ食べたらちゃんと探すんだよ?』
「やった~! じゃあ早速いくワン」

 川べりに降り立つと、きれいな魚が沢山泳いでいる。
 それに狙いをつけ、わん太郎と美琴は緊張の一瞬を見逃すまいと、額に氷の汗を〝ぽろり〟と浮かべて一点を見つめていた。

『わん太郎……右下の岩なんだよ!!』
「まっかせるワン! えいっ!」

 わん太郎は、可愛らしい短い前あしで魚を狙う。
 が、哀れわん太郎。あまりにも足が短すぎて狙う魚に、申しわけ程度に生えた可愛らしいツメが届かない。
 
「ガーーン!? ワ、ワレの攻撃が通じないとは……さては異世界でも名うての魚だワンね!!」
『きっとそうなんだよ! あの動きはただものじゃないんだよ!』
「いんや、そったらことねぇべよ。その魚は子供でも取れるべよ。ほれ」

 隣で釣り針を垂らしている、農家のおじさんが二人にそう声をかける。
 見ればすぐそばで、子供が魚を手づかみで握っていた。
 その腰のカゴには沢山の魚がいるようで、たまに川の中へと逃げ出している。

「『異世界人おそるべし』」

 わん太郎は小さなお口をアングリと開け、美琴と二人で異世界人の凄さに驚く。
 そんな様子に魚釣りをしている男は、こてりと首をかしげ話はじめる。

「なんだぁ? けったいな動物だべなぁ。おーいヨサーク! この狐っ子にエサやるがら、魚もって来お~」
「ん? わがったでおどー! 今いぐべさ!」
「ごはーん!! やったワン!」
『よかったね、わん太郎♪』

 ヨサークが腰のカゴから、大きめの魚を取り出すと、わん太郎へと差し出す。
 うすい緑がかった魚体からは、アユのような妙にいい香りがする。

「はいよ。コイツは寄生虫もいないし、生でも食べられるから好きに食うといいだ。まぁ動物だから平気だどは思うげども」
「ありがとだワン! いい匂いがするんだワンよ~。が、ワレは動物じゃないんだワン! とってもエライんだワンよ。だから――」

 わん太郎は立ち上がると、悲恋美琴を抜刀する。相変わらずの不思議生物だ。
 次に何をするのかを察知した美琴が、悲鳴のように叫ぶのは当然だった。

『ちょ!? わん太郎! だめだよ、そんなものを斬ったら生臭くなちゃうじゃない!』
「今更だワン。変な緑のを斬って、変な匂いがついてるんだワン」
『うぅぅ、妖気が使えればいつでもキレイな体でいられるのにぃぃ』
「ってワケで、えいやー」

 美琴がショックを受けている間に、美琴を使い内蔵を処理。
 その様子に美琴が「ヤーメーテー」と泣くが、わん太郎の職人芸は止まらない。
 あっという間に、異世界初の刺盛りが完成したのだった。石の上だけど。

「「おおお!?」」
「ふふん、ワレの偉大さがわかったようで何よりだワン」
「おったまげた狐っ子だべさ~」
「おっどう、美味そうだべよ……」

 二人は見たことのもない美しい切り身に感動する。
 その色とツヤが親子の胃袋を刺激し、思わず口から欲求がこぼれる。

「あのよぅ、おら達にも作ってくれねぇだが?」
「うんうん! おらも食いてぇよ。なぁこれ全部やるから、おっどうと、おらにもくんろ」
「ふふん、それはやぶさかでもないワン」

 その後わん太郎の刺盛り芸はとどまることを知らない。
 葉っぱの上に牡丹の花に見立てた盛り付けや、悲恋美琴で斬り刻んだ木材を船にして、その上にも盛大に盛り付けたりもした。

 そのあまりの様子に、親子はただ呆然と見ているだけだったが、妖刀からは涙が流れていたという。
 やがて完成したその料理を食べた二人は……。

「な、なんだべさ!? おらたちが食ってだものどは全然違うべよ!」
「ふぁ~ウメェだべさ……おっどう、塩ぶっかけてでもいいが?」
「塩か、それはいいなぁ! ぶっかけでみろ」

 ふたりはそれに塩を振りかけると、恍惚こうこつとした表情になり空を見上げる。

「「いぎででよがっだ……」」
「な、泣くほどおいしかったワン? 異世界人は大げさだワンねぇ。どれどれ、ワレも……いぎででよがっだ」

 二人と一匹は空を見上げて涙を流す。
 その様子に美琴は「ハァ~」とため息を吐くと、妖刀からだにこびり付いた匂いにげんなりとするのであった。

 全ての魚を堪能した三人は、満腹となった事で別れの時がくる。
 さらさらと小川の流れる音が心地よく、このままここに住みたい。
 そんな風にわん太郎は思ったが、背中の妖刀がそろそろお怒り寸前なのでビクリと震える。

「お魚ありがとうー。また来ることがあったら、ゴチになるワンよ~」

 そう言うとわん太郎は風のように走り去る。
 元々が小さいのであっという間に見えなくなった事で、親子は我に返った。

「……いっぢまったなぁ」
「んだなぁ。それにしても何だったんだアリャ? 話す狐っ子なんて見だごどねぇべ」
「おっどお、それに剣を使っであんな料理とが、オラには狐につままれだどしか思えねぇだべ」
「ヨサークの言う通りだべ……」

 二人はわん太郎の去った方角を見て、先程の刺身の味を思い出してゴクリとのどをならす。
 そしてあの味をもう一度味わいたいと思う反面――。

「「オラたち……腹、ごわさねぇだべな」」

 と、腹の具合を心配するであった。
 後にこの村では、子狐盛りと言う刺身の料理が有名になり、観光客が押し寄せる事となる。
 そんな事になるとは思わない、わん太郎と美琴の旅は続くのであった。


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