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異世界の残酷な洗礼編

022:闇の始まり

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「そうだな、それがまず聞きたい」

 ライオスは周囲を見回し、闘技場から離れた場所に監視者がいることを確認すると、軽く舌を打つ。
 その後、ゆっくりと口を開くと声を低くして、静かに話し始める。

「うむ、タケルもよく聞いてくれ。オレ様とジョル爺の関係は知っているな?」
「昨日の感じでは、協力者という感じだったが」
「ぼ、僕もそんな感じだと思いました」
「まぁそんなところだ。この話をする前に、まずはこの国の状況を語らねばなるまい――」

 そうライオスは言うと、そっと目を閉じさらに周囲を警戒するように話し始める。
 この国、デュロック王国は〝西の大陸〟でも最西端にあり、海産・農業・海運が盛んな場所であったらしい。
 さらに〝誰もが笑顔であるべし〟と、前国王が善政を敷いてきた結果、毎年他国から人口が流入していたほどだという。

 もっとも、それが元で戦争をふっかけられた事もあったらしいが、前国王の人柄と手腕でそこも平穏におさめたのだとか。
 そんな楽園のような国が狂い出したのは、現国王であるセルドが王位についてからとの事と聞いて、戦極も剛流も納得の表情。
 
「なるほど……まぁ、上品に肥え丸くなられたデブ・・らしいな」
「せ、戦極さん最後で台無しです」
「ほめるなよ照れる。それで続き、あるんだろう?」

 ライオスは「うむ」と重く頷くと、また語りだす。

 セルドが王位に付いてからと言うもの、全ての法がセルドが楽しむため・・・・・に変わったと言う。
 悪法は色々作られ、税率はむろん住民の移動制限からはじまり、その中でも極めつけだったのが――。

「――国民総王物こくみんそうおうぶつ? なんだよそれは」
「読んで字の如くという言うやつよ。全ての国民は王の所有物なりとな」
「く、狂っていますよそんなの……」
「オレ様もそう思う。逆らうものには、お前らと同じような首に縄をつけられて縛る。だからこの国から脱出した瞬間」

 ライオスは右親指を横に引くと、首を跳ねる仕草をする。
 ぞっとする剛流とうらはらに、戦極は得心とくしんしたという顔つきであった。

「なるほどねぇ……それで大体は読めたよ。だから剛流たちを喚んだってワケか」
「ああ。うまく小競り合いが起きた時に王にご注進して、〝このままなら隣国が攻め込んでくる〟ってな」
「やるねぇ。だが問題もあったって顔だな」
「あぁそうだ。宰相は反対だったが、戦場の様子を詳細に伝えた結果、王が危機感を感じて召喚を命じたんだ。実際弱った国力と、王の暴走を機と見た隣国は狙っているのも事実だ」
「で、本題と行きたいが……動いたか」
「あぁ、オレ様たちがあまりに話が長いから、警戒しているのだろう。そこで次の手を打ちたいんだが?」

 戦極は嘆息たんそくすると、まっすぐ武器庫とも言える石壁へと歩き出す。
 武器を素早く選択し、強度が強そうな長さ一メートル程の鉄の棒を選ぶ。

「剛流も選べよ。話はこの後だ」
「わ、分かりました。えっと……じゃあ僕はこれで」
「ほぉ! うむ! タケルには似合いの武器じゃないか、やはりクラスが大戦士ともなれば大剣が似合うのものだな!!」

 へぇ、内気なやつだと思っていたが、意外と大胆な性格なのか?
 桜を守ろうとしていたり、意外と男気があるタイプなのかもな。
 さて……問題はこのバカでかい鉄の板を、非力な俺がどうやって凌ぐかだ。

 相手は素人とはいえ、ステータスと言うチートがある。
 まともに戦えば、最悪死ぬ……が、昇司とは違うところに期待だな。
 いや、期待したい。というかさせてください、いやマヂで!

「では双方、まずは好きなように動いてみせよ! センゴクは死なぬようにな!」
「は、はい!」
「まともなアドバイスをくれよライオンマン。たく……お手柔らかにな剛流」
「は、はい頑張ります!」
「いや、気合入れなくてもいいんだけどね? ホントダヨ?」

 ライオスは闘技台の中央へ来ると、ラインに二人を並ばせる。
 そしてコッソリと二人に話を始める。

(いいか、監視者のいないオレ様の後ろの方へと行って決着をつけろ)
(そ、そんな無理ですよ僕には)
(そこは俺に任せろ、お前は俺を攻撃するだけでいい)

 その話を聞いた剛流とライオスは軽く頷くと、そのまま戦いの準備に入る。
 双方武器を構えると、ライオスが本日のルールを宣言。

「今日は昨日と違い、武器の持ち方を覚えるためのものとする! 本気で当てず、感覚をつかむ事を第一とせよ! はじめ!!」
「い、行きますよ! えい!」
「ぐわあああこいつはきついぜえええ」

 剛流は大剣を左横から薙ぎ払う。
 それに戦極もキツソウ・・・・に背後へと飛び退くが。

(ちょ、戦極さん。それじゃいかにも嘘くさいですって!)
(え~? 名演技だと思ったんだが……まぁいい、どんどん来てくれ)
(は、はい!)

 剛流は日本人の平均的な大人が持つことが難しく、さらに振り回すなど不可能なほどの大剣を自在に振り回す。
 その様子はまるで、〝プラスチックのオモチャ〟で遊んでいるかのようであった。

「うそ、僕がこんな鉄の塊を自由自在に扱えるなんて」
「うそってのは俺がいいたいね! 避けるだけで精一杯だっつーの」

 やはり鉄の棒にして正解だった。
 魔力が流せないとただの鉄くずも同然で、同じ武器同士でも強度は圧倒的に不足しやがる。
 できるだけ大剣みたいなのとは打ち合いたくはねぇが、今後のこともある剛流を信じて打ち込んでみるか。

「剛流、少し攻撃をするからビビるなよ? 今のお前ならば、当たっても大したダメージにはならん」
「わ、分かりました。頑張ってみます!」
「ありがとよ。じゃぁ、セイッ!」

 戦極は右横からの大剣をかいくぐり、そのまま剛流の左スネを鉄棒で強打。
 その振動・・に剛流は驚き、そのまま尻餅をつく。
 
「う、うわッ!? って、痛く……ない? ウソでしょ……」
「だから言ったろう、痛くないってな。ほら立てよ、監視者おきゃくさまが大注目だ」

 剛流はハッとすると、勢いよく立ち上がり落とした大剣をひろう。
 そのまま戦極を縦に斬りつけようと、大きく振りかぶる、が。

「胴がガラ空きだぜ?」

 右手に持った鉄棒を左肩につけながら、頭を低くして剛流の左側へ抜け、戦極は鉄棒を振り抜くのであった。
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