上 下
481 / 486
第九章:奪還作戦と、国の闇

481:森のようせいさん

しおりを挟む
 東の大門を抜けた氷狐王は、岩場地帯を走り抜ける。ゴツゴツした十メートルの巨石から、数十センチのものまで様々だ。
 それを器用に飛び跳ね、粉砕し、氷で道を作りながら最速で駆け抜ける。嵐影ならスマートにもっと早く駆け抜けただろうが、氷狐王としてはこれが最善だった。
 その走破力は人間なら耐えることが難しいだろう。だがそれを可能としたのが、人ではないこの三人である。
 
『もぅ、流様ぁ。話して通してもらえばよかったのに』
「そうですわ。おかげで指名手配犯ものですわよ。どうしてあんな強引な方法で?」
「どうしても、やらなければならない理由がある……」
「「『どうして?』」」
「一秒でも早いほうが、生存率も上がるだろう? それにこれが一番大事だ。助けに行く感を演出したかったから!」

 ガクリと肩を落とす二人。ただ一人は「完璧すぎますぅ!!」と歓喜していたが……。
 やがて岩場群を抜けると草原が広がる。その奥に鬱蒼と茂った森が見える。

「イルミス。あれが例の森か?」
「いえ、あの森の奥にあるもう一つの森が目的地、『蜜熊の宴会場』ですわ。この速さなら……あとニ時間もかからないくらいですわ」
「結構遠いな。その宴会場ってなんだ? はちみつで宴会でもしてんのかよ」
「ええ、そのまんまの意味ですわ。ま、行けばわかりますわ」
『なんだか可愛らしいね』
「響きだけはそうだよなぁ。どんな熊さんが出てくるのか楽しみですね」

 流は腕時計を確認しつつ、森を見つめる。現在の天気はいいが、遠くの山には雲がかかり始めている。どうやら天気が下り坂になるのかもしれない。

(雨雲か? 面倒だな……急がねぇとな)

 黒い雲を見つめながら、流は森へと突入するのだった。


 ◇◇◇


「みつけたゾ! ほら、あそこが蜜熊の宴会場だゾ!」
「ちょ、ちょっと。大きな声出さないでくださいよ。見つかったら事ですぜ?」

 鬱蒼としげった森を抜け、湖に囲まれた一角にそれはあった。
 周りの森よりも木々は明るく、まるで新緑が目覚めたばかりのようなフレッシュな黄緑色。
 美しく周りの湖と調和がとれた美しい光景に、褐色の肌の少女、シーラは歓声をあげる。
 褐色の肌によくあう金髪は、肩にかかるほどであり、そのクリっとした黒い瞳は楽しげに森を見つめる。
 美しい顔が可愛らしく見えるくらい、よほど嬉しいのか今にも踊りだしそうだ。
 その服装はこの湖によくあうような、露出度の高い白のアラビアンスタイルの服装に身を包む。
 
「昨日も森へ入る前のキャンプ地で、ひどい目にあったばかりだろ?」
「ん? ごめん。あまりにも美しい光景につい叫んだゾ」
「ハァ~カンベンしてくださいよ。これで何度目だと思ってるですかい?」
「そうだぜ嬢ちゃん。アンタは依頼主だが、俺らの命が最優先だ。不注意はこれっきりにしてくれよな?」
「ぉ、ぉぅ。すまなかったんだゾ。大丈夫だゾ! ぼくの魔法があれば、蜜熊なんて一撃だゾ!」
「だから叫ぶなつーの。ホントに頼むぜ? ったく、とんだ依頼主だな」

 冒険者たちはシーラの奔放さに振り回されながらここまで来た。たしかにシーラの魔法の威力は凄く、森にいたゴブリンやオーク。それに猿型の魔物、ロジャを駆逐した。
 だがあまりにも魔法を使いすぎ、すこし休憩が必要との事で蜜熊の宴会場を目前に控え休憩中である。

「もぅ早く行くんだゾ」
「アンタが考えなく魔法ぶっぱなすから、今こうして休んでいるのだがね?」
「そ、そうかも知れないんだゾ。うん、仕方ないからもう少し休んでから行くんだゾ」
「ったく……先が思いやられるぜ……」

 冒険者たちは油断なく森を警戒する。そして鼻歌を歌いながら、奥の美しい森を見ている少女に、冒険者たちは嘆息するのだった。


 ◇◇◇


 その頃、流たち一行は森の中程までに到達する。遠くからこちらを伺うゴブリン等がいたが、氷狐王を見て一目散に逃げ出す。
 どうやら身の程はわきまえているようだ。しかし……。

『何だと思います?』
「バカなんじゃありませんこと?」
「バカなんだろうなぁ~」
「我を恐れぬとは、見どころのあるバカです」
「不遜……八つ裂き確定です」

 Lはそう言うと氷狐王の背から勢いよく飛び上がり、目の前の巨体へと宝槍・白で斬りかかる。
 その勢いは目の前の巨体を真っ二つにしたと思ったが、突如現れた巨大な棍棒でそれを弾かれてしまう。
 マジックショーのように現れた棍棒に、Lは「チッ」と一言吐き捨てると、巨体を睨みつける。

 その巨体はトロールと呼ばれる魔物で、森に生息するタイプのものだった。
 身長は四メートルほどで、全身から草が生い茂り、顔は人のそのものだ。その不気味さが異様で、ヒゲ顔の男は不思議な言葉で唸る。

「ルヴヴヴヴヴヴテ!!」
「気持ち悪いなぁ。イルミス、あれはなんだ?」
「トロールの上位種ですわ。棍棒を召喚しましたでしょ? あれは魔法をつかえる希少種ですわ」
「希少種かぁ……そう聞くと、コレクターの性として見逃してあげたい」
「なんですのそれは。まぁ、人間を見つけたら食べるような魔物ですので、駆逐するのをオススメしますわ」
「うん、L。倒しておしまいなさい!」
「ハイ! マイ・マスターのおおせのままにぃぃ」

 Lはトロールの足を槍で払う。だが、トロールはそれを予想していたように飛び上がると、槍を飛び上がり躱す。
 そのまま上部から棍棒でLを打ち下ろし潰す! 一瞬流たちもドキリとする。なぜなら……。

「ばっかじゃないの? 見くびらないでほしいねぇ。あたしをそんな棒きれ一つで、どうこうなるとでも思ったのか、ばーっか!!」

 Lは自分の背丈もほどもある、マンガ肉のような棍棒を槍で受け止めると、そのまま払いのける。
 さらにトロールのデップリとした腹へと蹴りをいれ吹き飛ばすのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

S級スキル【竜化】持ちの俺、トカゲと間違われて実家を追放されるが、覚醒し竜王に見初められる。今さら戻れと言われてももう遅い

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
ファンタジー
 主人公ライルはブリケード王国の第一王子である。  しかし、ある日―― 「ライル。お前を我がブリケード王家から追放する!」  父であるバリオス・ブリケード国王から、そう宣言されてしまう。 「お、俺のスキルが真の力を発揮すれば、きっとこの国の役に立てます」  ライルは必死にそうすがりつく。 「はっ! ライルが本当に授かったスキルは、【トカゲ化】か何かだろ? いくら隠したいからって、【竜化】だなんて嘘をつくなんてよ」  弟である第二王子のガルドから、そう突き放されてしまう。  失意のまま辺境に逃げたライルは、かつて親しくしていた少女ルーシーに匿われる。 「苦労したんだな。とりあえずは、この村でゆっくりしてくれよ」  ライルの辺境での慎ましくも幸せな生活が始まる。  だが、それを脅かす者たちが近づきつつあった……。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!

桜井正宗
ファンタジー
 辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。  そんな努力もついに報われる日が。  ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。  日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。  仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。 ※HOTランキング1位ありがとうございます! ※ファンタジー7位ありがとうございます!

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。  応援していただけたら執筆の励みになります。 《俺、貸します!》 これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ) ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非! 「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」 この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。 しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。 レベル35と見せかけているが、本当は350。 水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。 あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。 それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。 リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。 その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。 あえなく、追放されてしまう。 しかし、それにより制限の消えたヨシュア。 一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。 その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。 まさに、ヨシュアにとっての天職であった。 自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。 生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。 目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。 元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。 そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。 一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。 ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。 そのときには、もう遅いのであった。

処理中です...