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第九章:奪還作戦と、国の闇

358:上級魔法

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「セリア様、トカゲ共に動きがあります! 龍人が落ちた逆側の陣の動きが活発になっており、再編成が始まりました!」

 近衛の一人がそう報告する。見れば確かに動きが鈍かったリザードマン共が、陣を組み始めたように見える。
 それは円形状陣形である〝方円陣〟を組み、その中央の何かを守るようにコチラへと進軍してくる。
 元々リザードマンは陣は組まず、個々の獰猛さと武力を競い合うような連中であり、強者に従うのがヤツらの流儀。
 
「方円陣……ルーセントこれはやはり?」
「そうですな、あの中心にいるのでしょう。トカゲ共を従える事が出来る強者が」

 セリアは焦る。ここまでの活路は開いたものの、まだ商隊の避難が始まったばかりのこの状況はまずい。
 さらに統制がとられてしまう事で、その鈍かった動きが元に戻れば近衛隊二十騎ですら突破は難しいだろう。

「お嬢様……隊を半分に分割し、お嬢様は戻られよ。ここはワシが引き受けますわい」
「何を言うのルーセント!? 私は誰も見捨てないわ! それが貴方で――」
「お言葉の途中しつれい。お嬢様、時間がありません。ここで躊躇すれば全員討ち死にします。ですが今なら私の部下、十名の命が助かるのです。あぁ、ついでにお嬢様の命もおつけしましょう。なに、お嬢様はついで・・・・・・・ですからお気になさらず」

 ルーセントはそう言うと、セリアの不安な顔を笑い飛ばす。周りを見渡せば、残される兵はニヤリと頷く。さらにキャラバン隊の者たちまで、覚悟を決めた表情で頷く。

「クコロー様には、ここまで来ていただいた事に感謝を。なに、まだ心強い方々が十名もいる。何とか逃げ切ってみせますとも!」
「あなた達まで……分かったわ、みんなありがとう。でも、だからこそ逃げない!! ここで逃げたらクコロー家の名がすたる!! 私が死んでも兄がいる!! 兄のためにも民間人を放り捨て、逃げ出したと言う不名誉を背負うわけにはいかないの!!」

 セリアはそう宣言すると、馬上へとまたがる。それをルーセントは困った顔で見るが、こうなるとテコでも動かない娘だと知っているから、苦笑いで応じる。

「まぁそうなるとは思っていましたが……お覚悟を決められよ」
「今更ね。私は後悔などしないわ! さぁ、敵に備えて馬車をバリケードにして! 荷物は全て捨て去る覚悟で、出し惜しみ無しで行くわよ!!」

 その言葉でルーセントをはじめ近衛隊や、冒険者・商人まで熱く気合を入れる。
 セリアは今できることを最大にすることで、後顧の憂いをなくす。ただ……。

(ナガレ……結局会えなかったな。もう一度会ってお礼が言いたかったなぁ。さようならナガレ。多分、好きだったよ……)

 セリアは指示を出しながらも、トエトリーの方向を数瞬見ながらそんな事を考える。
 やがて無情にもリザードマン共は、方円陣を前進させてこちらへと進軍してくるのが見えた。

「セリア様! 敵、急襲部隊が方円陣の左翼より切り離されて襲ってきます! 距離・六十……早い!? 残り三十! 来ます!!」
「総員防御態勢!! 敵急襲部隊の一撃をしのいだ後、攻撃に反転!!」
「「「オウ!!」」」

 セリアは号令をかけると、商人から譲り受けた弓でリザードマンを射殺す。
 続けて弓に自信のある者が矢を放ち、次々と駆逐していく。
 それを見た商人達は、自分が扱う商品の質の高さに満足する。

「やったぞ! リザードマンをかなり倒したんじゃないのか!?」
「まだだ! 気を抜くな、これからだぞ!!」

 ルーセントがそう商人たちを叱責すると、その予想通りに倒れたリザードマンを回避するように、別の個体が蛇のように蛇行しながら倒した馬車へと襲いかかる。
 商品と馬車で壁を作ったセリアたちは、隙間から矢を撃ち込み、槍で突き刺す。

「いいぞ! このまま耐えろ、時期に限界点に達する!」
「ルーセント、冒険者の準備は?」
「まもなく終えます。トカゲ共の攻撃の限界点に合わせます」

 セリアは無言で頷くと、敵陣から次の急襲部隊が攻め込んでくるのを見据える。
 やがて最初のリザードマンが体力と、損害の限界に達し、後方の急襲部隊と合流するために一時引く。
 そして後方の急襲部隊と重なった瞬間――!?

「放てええええええええええええ!!」
「任せておけ!! ≪ザーム・エリアシス!!≫」

 護衛にいた冒険者達は魔法をいつでも放てるように、詠唱を済ませておく。
 魔法の詠唱後はあまり長くその状態を保ってはいられないが、ルーセントから指示が出るとすぐに放てるように、タイミングを見計らって詠唱を完了しておく。
 それが今、二人の魔法師により放たれた。

 魔法師の男が魔法、≪ザーム・エリアシス≫を放つ。リザードマンの合流地点の地面が盛り上がると、中から白い腕が生えてくる。いや、腕は腕でも「骨の腕」だった。
 それが勢いよくあちこちから沸き出てきたかと思えば、次々と体そのものが出てくる。
 つまり――スケルトンだった。その手には錆びた剣を持っており、それを手にリザードマンへと襲いかかる。
 突然の事に驚くリザードマンだったが、すぐに対処して攻撃にうつる、が。

「グギャ!?」

 リザードマンがそう短く叫ぶ。腕に不快な軽い痛みを感じ、見れば錆びた剣が肌をかすっていた。
 直後スケルトンはバラバラに崩れ去り、何事かと思った瞬間、リザードマンは恐慌状態におちいる。
 隣でスケルトンと戦っている仲間を抑え、そのリザードマンもスケルトンに斬られると、また同じように恐慌状態におちいり錯乱する。
 そんな状況がいたる所で起こって、動きが完全に止まった状態で、ダメ押しとばかりにもう一撃襲いかかる。

「ここッ!! ≪インフェルノ・アスディ!!≫」

 冒険者の女が打ち合わせどおりに、動きが止まった中心めがけて≪インフェルノ・アスディ≫を放つ。
 それは直径二十メートルの円形状の炎の柱が、十メートルの高さまで吹き上がり、中のリザードマンを完全に焼き尽くす。
 粗末な防衛拠点の隙間から炎の柱が消えるのを、期待を込めて見るセリア。
 やがてすぐに鎮火すると、多数のリザードマンの死体が転がっていたのだった。
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