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第八章:塔の管理者達と、新たな敵
336:悲恋と美琴
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美琴につねられながら周囲を見る。どうやら犬のような魔物の氷漬けの死体を見ると、それを行ったのがワン太郎だと分かったが、そのワン太郎がどこにもいない。それにしても頬が痛い。そろそろ離してくれないだろうかと思うと、涙目が加速する。
そんな事を思いながら魔物の死体を見ていると、遠くから流を呼ぶ声がする。
「ナガレ!! また随分とハデにやったもんだなぁ?」
「ナガレさん、ご無事ですか!?」
「って、ヴァルファルドさん? それにエルシアまでどうしたんだ!?」
見れば驚くことに、ヴァルファルドとエルシアが二人でこっちへと向かってくる。
さらにその後ろには黒い鎧を着た兵士達が、数十名付き従っている。どうやらヴァルファルドの配下のようであった。
「あの後すぐに領主様に呼ばれてな。そしてココへお前の援軍としてやって来たわけだ」
「そうだったのか、ありがとう。この後どうしたらいいか考えてたところだよ」
「どこもお怪我が無くてよかったです。あの、それでメリサは?」
「それなんだが……すまない。救出に失敗した。じつは――」
流は水塔内であったことを詳細に話す。だが妖人の事はヴァルファルドとエルシアだけならまだしも、その他の人間がいる前では話す事が戸惑われた。
だからその部分は、ぼかして話をすすめる。
「――と言うわけでメリサは、アルマーク商会に連れ去られてしまった……本当にすまない」
「そうですか……。でもナガレさんが無事で本当に良かったです! もしお怪我をしてたらどうしようかと心配で心配で……」
そう言うとエルシアは目尻に涙を浮かべる。それを見た美琴は「これを」と、流にハンカチを差し出す。
どこから出したのだろうと不思議に思いながらも、それを受け取るとエルシアへと差し出す。
「ほら、泣かないでくれ。心配してくれてありがとうエルシア」
「ぐすっ……ありがとうございます。えっと……その、そちらの方は?」
エルシアは素肌が雪のように美しいが、生気のない娘に魅入る。それはヴァルファルドは無論、ここにいる誰もが知らないとても美しい娘がいた。
その姿は遥か東の国にあるという民族衣装に身を包み、それは艶やかな色彩のキモノと呼ばれるものだとすぐに分かる。
髪は新月の夜空よりなお黒く、瞳は黒いのに透き通るような怪しげな魅力をはなつ。
鼻は高くはないものの美しい形であり、眉はほっそりとしつつも、気品さがある。
それだけならまだしも、唇がとくにいけない。なぜなら、ぷっくりとしていて瑞々しく、そこから放たれた「これを」と言う、たった一言の楽器のような音と錯覚する声に、全員が魅了されたのだから。
そんな美少女は目をほそめて、実に魅力ある微笑みでエルシアの問に答える。
「はじめましてエルシアさん。私は美琴と申します。流様がいつも大事にしてる日本刀に取り憑いているんだよ? これからよろしくね」
「は……へ? と、取り憑いてる??」
「そう、こんなふうにね?」
瞬間美琴はおぼろげな存在になり、悲恋へと吸い込まれていく。それを見た全員、ヴァルファルドですら驚愕する。
『ふふふ。どうかな、信じてくれた?』
「ひぅッ!? は、はい。驚きましたが理解しました……」
「ナガレ……お前のカタナが特別だとは思っていたが、ここまでとはな。正直、度肝を抜かれたぞ」
「まったく美琴。お前がいきなりやるから、みんな怖がってるぞ?」
『え~。どうせそのうち分かる事ですし、やるなら今でしょ! ってね?』
「どっからそういう知識を……はぁ、困った幽霊だよ。まぁこんなワケだから、みんなよろしくな?」
そんな流と美琴のやりとりに、恐る恐るだがエルシアはうなずく。
「えっと、ミコトさん。こちらこそ、よろしくおねがいします……」
「ハッハッハ! こいつはいいな。これはジェニファーすら驚くぞナガレ?」
「見た目は不気味だが、心根の優しい娘でとても頼りになるんだ。悪さはしないから、安心してくれ」
『ちょ!? 不気味とか言わないでくださいね? ね!?』
流と美琴の会話を聞いていると、どうやら本当に悪い霊ではないのだと全員が理解する。
そんなつかの間の恐怖が去ったと思った瞬間だった。突如、体感温度が下がる。その原因がゆっくりとだが、確実にこちらへと向かってくるバケモノを全員が目撃する。
「主!! ご無事でなによりでした!!」
「おお、氷狐王。お前も無事でよかった! それで姉弟はどうなった?」
「あぁそれなら――」
ワン太郎は氷狐王の体から抜け出ると、小狐になる。そしておもむろに右の前足を〝むにょ〟と氷狐王の外装へと当てると、それが甲高い音とともに砕け散った。
そして中から出てきたのは、顔を真っ青にして震える白豹の獣人の姉弟。そして――。
「ッ!? お、お前はシュバルツ!! どうして氷の棺の中にいるんだ!?」
ヴァルファルドは流に話は聞いていたが、まさかこんな形で再会するとは思いもしなかった。
そんなヴァルファルドを黙って見つめる流。
そして――。
「ワン太郎、そろそろいいか?」
「う~ん、もういいかなぁ? 花も散っていないし、まず成功かなぁ。じゃあ開けるワンよ~」
ワン太郎はそう言うと、生蒼薔薇の棺へと向かうのだった。
そんな事を思いながら魔物の死体を見ていると、遠くから流を呼ぶ声がする。
「ナガレ!! また随分とハデにやったもんだなぁ?」
「ナガレさん、ご無事ですか!?」
「って、ヴァルファルドさん? それにエルシアまでどうしたんだ!?」
見れば驚くことに、ヴァルファルドとエルシアが二人でこっちへと向かってくる。
さらにその後ろには黒い鎧を着た兵士達が、数十名付き従っている。どうやらヴァルファルドの配下のようであった。
「あの後すぐに領主様に呼ばれてな。そしてココへお前の援軍としてやって来たわけだ」
「そうだったのか、ありがとう。この後どうしたらいいか考えてたところだよ」
「どこもお怪我が無くてよかったです。あの、それでメリサは?」
「それなんだが……すまない。救出に失敗した。じつは――」
流は水塔内であったことを詳細に話す。だが妖人の事はヴァルファルドとエルシアだけならまだしも、その他の人間がいる前では話す事が戸惑われた。
だからその部分は、ぼかして話をすすめる。
「――と言うわけでメリサは、アルマーク商会に連れ去られてしまった……本当にすまない」
「そうですか……。でもナガレさんが無事で本当に良かったです! もしお怪我をしてたらどうしようかと心配で心配で……」
そう言うとエルシアは目尻に涙を浮かべる。それを見た美琴は「これを」と、流にハンカチを差し出す。
どこから出したのだろうと不思議に思いながらも、それを受け取るとエルシアへと差し出す。
「ほら、泣かないでくれ。心配してくれてありがとうエルシア」
「ぐすっ……ありがとうございます。えっと……その、そちらの方は?」
エルシアは素肌が雪のように美しいが、生気のない娘に魅入る。それはヴァルファルドは無論、ここにいる誰もが知らないとても美しい娘がいた。
その姿は遥か東の国にあるという民族衣装に身を包み、それは艶やかな色彩のキモノと呼ばれるものだとすぐに分かる。
髪は新月の夜空よりなお黒く、瞳は黒いのに透き通るような怪しげな魅力をはなつ。
鼻は高くはないものの美しい形であり、眉はほっそりとしつつも、気品さがある。
それだけならまだしも、唇がとくにいけない。なぜなら、ぷっくりとしていて瑞々しく、そこから放たれた「これを」と言う、たった一言の楽器のような音と錯覚する声に、全員が魅了されたのだから。
そんな美少女は目をほそめて、実に魅力ある微笑みでエルシアの問に答える。
「はじめましてエルシアさん。私は美琴と申します。流様がいつも大事にしてる日本刀に取り憑いているんだよ? これからよろしくね」
「は……へ? と、取り憑いてる??」
「そう、こんなふうにね?」
瞬間美琴はおぼろげな存在になり、悲恋へと吸い込まれていく。それを見た全員、ヴァルファルドですら驚愕する。
『ふふふ。どうかな、信じてくれた?』
「ひぅッ!? は、はい。驚きましたが理解しました……」
「ナガレ……お前のカタナが特別だとは思っていたが、ここまでとはな。正直、度肝を抜かれたぞ」
「まったく美琴。お前がいきなりやるから、みんな怖がってるぞ?」
『え~。どうせそのうち分かる事ですし、やるなら今でしょ! ってね?』
「どっからそういう知識を……はぁ、困った幽霊だよ。まぁこんなワケだから、みんなよろしくな?」
そんな流と美琴のやりとりに、恐る恐るだがエルシアはうなずく。
「えっと、ミコトさん。こちらこそ、よろしくおねがいします……」
「ハッハッハ! こいつはいいな。これはジェニファーすら驚くぞナガレ?」
「見た目は不気味だが、心根の優しい娘でとても頼りになるんだ。悪さはしないから、安心してくれ」
『ちょ!? 不気味とか言わないでくださいね? ね!?』
流と美琴の会話を聞いていると、どうやら本当に悪い霊ではないのだと全員が理解する。
そんなつかの間の恐怖が去ったと思った瞬間だった。突如、体感温度が下がる。その原因がゆっくりとだが、確実にこちらへと向かってくるバケモノを全員が目撃する。
「主!! ご無事でなによりでした!!」
「おお、氷狐王。お前も無事でよかった! それで姉弟はどうなった?」
「あぁそれなら――」
ワン太郎は氷狐王の体から抜け出ると、小狐になる。そしておもむろに右の前足を〝むにょ〟と氷狐王の外装へと当てると、それが甲高い音とともに砕け散った。
そして中から出てきたのは、顔を真っ青にして震える白豹の獣人の姉弟。そして――。
「ッ!? お、お前はシュバルツ!! どうして氷の棺の中にいるんだ!?」
ヴァルファルドは流に話は聞いていたが、まさかこんな形で再会するとは思いもしなかった。
そんなヴァルファルドを黙って見つめる流。
そして――。
「ワン太郎、そろそろいいか?」
「う~ん、もういいかなぁ? 花も散っていないし、まず成功かなぁ。じゃあ開けるワンよ~」
ワン太郎はそう言うと、生蒼薔薇の棺へと向かうのだった。
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