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第八章:塔の管理者達と、新たな敵

313:最上階

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 流が命名したロボ二号、通称ピエロ型ゴーレムの破壊された映像を見て商人の男は「ハァ」と溜息を吐きつつ、シュバルツへと向き直る。

「やれやれですね。対人ゴーレム『殺戮さつりくちゃん十八号』まで壊されてしまうとはね。あれ、開発に王貨五十三枚使ったんですよ? 大赤字ですよ。しかも弱点たる、魔核の同時破壊とか、普通出来ませんよ」
「あ~ら、それは良いことを聞いちゃったぞ? バラされたくなければ報酬を倍にしてください、切実にお願いします」
「「アニキ!!」」
「いや、だって。俺たち怪我してて、ずっとお休み中だったからさぁ。支払いが溜まってるのよ」
「それはアニキが怪我してるのに、毎日飲み歩いているからでしょ!? しかも可愛い子まで連れて……大体なによ、お酒の相手なら私がするのに(ボソ)」
「そうだぜアニキ。しかも毎日いい女を見繕いやがるから、そのせいだっつーの」
「あ~ら!? ラーゼ、そんな事を言っていいのかなぁ? お前にもキレイな娘を紹介してやったろう? そんな事を言うとイリスにばらすぞ?」
「チョ!? アニキ! 隣に姉貴がいるのに!!」
「ラーゼ、あんたって野郎はぁ……」
「ひぃ!? あ、姉貴ご解だ! アニキが無理やり俺に――」

 そんな姉弟の仲睦まじい姿に感動を覚えつつも、シュバルツはエスポワールへと問う。

「だが、一般兵や二つ星ダブルクラス冒険者には、魔核の同時破壊は難しい話だな。お前達アルマーク商会は何をたくらんでいやがるんだ?」
「ふ~む……たくらむだなんて人聞きの悪いですねぇ。需要があるから供給を満たす……。これ、商人の基本だと思いますがねぇ?」
「あ~ら、つまり自分たちは戦争に興味がないと?」
「いえいえ、つねに私達アルマーク商会は、戦争の犠牲になられた方々に哀悼の意を示すと共に、この不幸な戦争自体を無くすために日々努力を惜しみません。その結果出来たのがあのゴーレムです」
「あ~らまぁ、そのわりにはステキなネーミングですこと」
「ふ~む。で、ございましょう? 我が国の敵は、『生まれたてから死ぬ寸前の老略男女』問わず、人にあらず、ゆえに皆殺し……それ、即ち『王命』でございますれば」

 シュバルツはその言葉に、ピクリと右眉が微妙に動く。だがいつものように飄々とした態度を崩さず、逆に楽しげに続ける。

「あ~ら……アニキには関係ない世界で怖い怖い。オレ達は今日が楽しければそれでいいのさ」
「ふ~む……そうですか。傭兵の本分、お忘れになりませぬように」

 その言葉にヒラヒラと右手を振り、シュバルツ達は部屋を出ていく。それをジットリとした視線で見つめるエスポワールは、魔具の映像をを背景に吐き捨てるように言う。

「我らの崇高な使命を理解できぬ、マヌケな将軍如きが……あの時死んでいればよかったものを……」

 そんなエスポワールを震える視線で見つめる男、アルレアン子爵は、この後どうなるか不安で仕方なかった。


 ◇◇◇


「ワン太郎! そっちは片付いたか?」
「終わったワンよ~。それで少し分かったんだワン」
「何が分かった?」
「まずコイツらは『個別でまともに動けない』と言うことで、司令役たる魔核の持ち主が壊れると、とたんに動きが鈍くなるんだワン」
「マジカヨ、お前遊んでたわけじゃないんだな!?」
『ワンちゃん偉いです!』
「失礼なあるじと、女幽霊だワンねぇ。ちゃんとワレは色々と実験してたワンよ! もう一つは、魔核にナンバーがふってあるんだワン」
「ナンバー? あぁ本当だ……なんだこれは」

 ワン太郎がくわえてきた魔核を見ると、中心部分に文字が書いてあり、ナンバーが刻まれている。どうやら何かの制御術式かなにからしい。

「まぁこれは後で調べるとしよう。よし、じゃあ上に行くぞ!!」

 流たちはそのまま水塔を攻略していく。途中の敵やワナはこれまでと変わらず、矢・落とし穴・吊り天井などがあったが、それらを難なく攻略し、途中にある怪しげな部屋を捜索しながら最上階へと着いたのだった。

「ここが最上階……か? これまでと違い、随分と広いな」
『でも中央部分に、小さな塔みたいなのがあるよ?』
「その上から人の気配がするワン。きっと目的の娘もそこにいるワン」

 最上階は窓が無いが、内部の壁が一切なく魔具の光りで薄暗く見える場所であった。
 中央にある直径十数メートルほどの塔の中間から、勢いよく吹き出している水が、下へと落下している。どうやらコレが水柱の源流らしく、轟々と音を立て下へと水の柱が続く。
 その周辺を歯車や、水を満載したゴンドラが忙しそうに動いているのが見える。

「おお……すごい眺めだ。いつまでも見てたい、が……」
『見られていますね、しかもこれって……』
「……この気配、もしかしてアイツらか? ワン太郎、もしかして顔見知りかもしれない。パワー型の獣人の男と、スピード型の獣人の女だ。二人共殺さないようにいけるか?」
「う~ん。殺していいなら簡単なんだけど……あるじの命ならがんばるワンよ~」
「なら頼む。お前なら大丈夫だと思うが、好きに戦っていいからな」

 その言葉でワン太郎の尻尾は嬉しそうに揺れる。そんなワン太郎の鼻の付け根をコリコリ撫でてから、流は歩き出す。
 ワン太郎は自分の役割を理解しているらしく、流に先行して〝ぽむぽむ〟歩きだす。
 中央の塔に近づくに連れ、殺気が刺さるように向かってくる。だがそれは流にではなく、ワン太郎へと向けられていることから、背前の合わせ鏡は機能していると確信しながら近づく。

 中央塔の上部はグルリと窓があり、イメージ的には灯台といった感じのものだった。
 そこから視線を感じるが、真上から見られると効果が消失してしまう欠点があるこの道具は、これ以上近づくのは得策ではないと判断し、ワン太郎と真逆の方向へと向かう。

 そのワン太郎が中央塔の階段へとさしかかると、白い陰がワン太郎の上部から襲いかかる!
 見れば予想通りで白豹の獣人の女、イリスがワン太郎の頭を真っ二つに破壊したところだった。

「やったよ!! なによ、大暴れしていたから凶暴な犬かと思ったら――違う!? これは……氷の像?」
「姉貴、危ない!!」

 そうラーゼが言いながら、イリスの前へと滑り込むように上から降ってくると、魔力を込めた拳でワン太郎の残骸へとガードを固める。
 その氷の残骸から伸びる、氷の槍を魔力全開で防ぐラーゼ。だが無情にもその盾を貫通し、その先端が「狐の顔が彫刻された丸まった」先でイリスごと吹き飛ばされる。

「姉貴大丈夫か!? チッ……なんだこの犬っころは……」
「油断した、助かったよラーゼ。舞激で殺るよ!!」
「オウヨ!!」

 その様子をワン太郎は〝ぽけ~っ〟と見ている。それにムカついたラーゼは魔力を両拳に纏うと、思いっきりワン太郎へと叩きつけるが、同じ質量の氷の拳が目の前に現れ相殺される。
 その氷の拳が出た瞬間、イリスはラーゼの陰から出ると、四肢に魔力を纏わせ刃のようにし、さながら回転するコマのように無軌道にワン太郎へと襲いかかる――が。 

「フハハハハ!! ワレをそんなんで倒せると本気で思ったのかワン? 甘い、甘いなぁ~クックック……ハァ~ッハッハッハ!! やっぱりワレは強いんだワン! そうだ、あるじやその保護者達がおかしいだけだワンよ……うん、うん! なんだか自信が出できたワン!!」

 イリスの攻撃を一歩も動かず、キツネ顔の氷の盾で全て防ぎきったワン太郎は、実に楽しげである。ちょっぴりカワイイ。
 そんな楽しそうにしているワン太郎を微笑ましく見ていた流は、本命の男を探すが見当たらなかったのだった。
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