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第七章:新たな力を求めるもの

293:〝もにょ〟とするヤツ

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「わあああああああ!?」

 突如マヌケな声が頭上よりすると、流の頭に〝もにょ〟っとっした柔らかい物が落ちてくる。
 それを左手でツマミながら、自分の顔の前に持ってくる。

「こ、古廻様!? ご無事で!!」
「フム、一体何が……なぜデコピン一撃で崩壊したのですか?」
「ハァ~、肝が冷えましたでぇ! って、それよりその小狐はなんですの?」

 全員、流が左手でツマんでいる存在に注目する。それはどう見てもアイスブルーの瞳に、モフっとした毛並みが美しい、全長三十センチほどの銀色の小狐だった。

「何って……なぁ美琴?」
「うん、自称王様なワンちゃんです」

 いつの間にか悲恋から抜け出た美琴は、流の後ろから覗き込むように銀キツネを見ている。

「え? 氷狐王なのですかその子!?」
「うっそやろ……」
「フム……それがあの氷狐王の中身とは」

 驚く三人を見て呆れる流は、氷狐王を三人の前へとぶら下げる。

「ほら、よく見てみろよ。アイツの妖気を感じるだろう?」
「こ、コラァァ!! ワレをつまむな! 今すぐ離すがよい! 命だけは助けてやろう、だからは~な~す~の~だ~!」
「本当ですね、間違いなく氷狐王のソレです……」
「フム、意味が分かりませんな」
「そうなのか? コイツ、はじめから俺たちには視えていたぞ。な?」
「はい、頭の中にいたよ」
「ホンマかいな……」

 驚く三人を不思議そうに見る流と美琴。それに不満なのか、短い足をパタパタ動かして必死の抵抗をする氷狐王。はたから見ればとても滑稽だが、それが今の現状だった。

「驚きましたが理解しました。それで最後はどうやって、この子の頭を砕いたのですか?」
「あぁ。クビを切り落とした時に、鑑定眼でコイツのつなぎ目を見つけたから一撃入れといたんだよ。だからチョットした外部からの衝撃・・・・・・・で壊れたのさ」
「そ、そこまででっか!?」
「フム。驚きを通り越して、驚愕ですな」
「えぇ……。実は私達は、古廻様が勝てるとは思っていなかったのです」
「そやで、良くてギリギリ戦えるかどうかと言う予想やったから。それがどうですかいな、まさかの余裕勝ちや! しかも氷狐王の本体があるなんて、誰も知らなかったものを見つけるなんて、一体全体どういうことやねん!? と思いますわぁ」

 そう言うものなのか? と流は疑問に思いながらも、首の後ろの皮をつまみながら〝ぷらり〟と氷狐王をまじまじと見つめる。

「まぁなんだ、おいワンコ」

 氷狐王はビクリとすると、涙目でプルプル震えながら必死に抵抗の意思を示す。

「だ、誰がワンコだ! ワレは氷狐お――」
「ワ・ン・コだよな?」

 流が被せるように氷狐王の言葉を遮る。一縷いちるの望みをかけ、周りに助けを求める視線を送る……が。

「ええ、犬ですね。異論は認めません」
「フム。間違いなく犬ですな」
「せやな、犬っころで間違いないわ」
「今度は可愛いですから、ペット枠で飼ってもいいね♪」

 氷狐王は絶望した。自分を召喚した凶悪な神ばかりか、同等の存在にまでそう言われてしまい、妖刀にまでバカにされる始末にさらに絶望した。

「ほら……」

 流は氷狐王の眼前へ右手を差し出す。つまり――

「はぃ……お手です…………ワン」

 氷狐王は泣いた、心の中っでたくさん泣いた……だからこそ、こう思う。
 
(クソッ! クソッ! クソッ! この氷狐王たるワレになんと言う真似を!! 必ず復習してやるッ!! 必ず氷漬けにした後に八つ裂きにしてやるのだ!!)

 そんな風に、決意も固く復習に仄暗い炎を燃やしていたが、憎き人間モドキが何かを言った。

「よしよし、じゃあ今日からお前は『ワン太郎』だ!」

 その瞬間、突如氷狐王もとい「ワン太郎」の体が白く光りだす。

「これは!! 古廻様、ワン太郎に『汝と契約を結ぶ』と仰ってくださいまし!」
「お、おう分かった」

 氷狐王は「やめてぇぇぇ!!」と悲痛な叫び声を上げるが、誰も聞いていない。哀れだ……。

「こうか? コホン……我、古廻流は珍獣・ワン太郎『汝と契約を結ぶ』ものなり!!」
「いえ、そこまで言わなくても……」

 そう流が右手のひらを〝バッ!〟と開き宣言した瞬間、白い光が集まりだしてワン太郎を包み込む。光の中から「ギィャアアアア」と何かの悲鳴が聞こえたが、気のせいなのだろう。
 やがて光が収まり、それが収束する。そしてその中から出てきた氷狐王の首には、紅白の注連縄しめなわが巻かれており、紙垂しでと言われる白い紙をよじった三つの紙の中央には『いぬ』と書かれていた。

「ワン太郎……お前……」
「ぅ……何だ? ワレの首を見て何だと言うのだ?  ん? って!? アーーーーーッ!!」
「ワンちゃん可愛い♪」
「ブハッ! おい、氷狐王! お前なんやねん『いぬ』って」
「フム。キツネなのに犬『いぬ』とは滑稽ですなッ! プッ」
「氷狐王、今日から堂々と名乗れますね……『いぬ』と……ぷふ」

 絶望でもう言葉が出ない氷狐王。そこにこの原因たる漢がとどめを刺す。

「良かったな、これで俺が飼い主になったようだから、毎日お手の練習をしてやるぞ? 明日は犬かきの練習だ」
「…………ふっ!! ふざけるヴぁギャアアアアアアアアアアッ!?」

 突如首の紅白の注連縄しめなわが、えも言われぬ苦痛を氷狐王へとぶち流す。
 思わず悶絶した氷狐王は、転げ回りながら自分を召喚した邪神を見ると、うすく微笑んでいた。
 それは「もう絶対に逃しはしない」と言うような、冷酷で無慈悲な表情に魂からゾっとするのだった。
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