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第七章:新たな力を求めるもの

289:三人の不安

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 壱はふと思い出す、先程の「変人」って一体何なんだと。

「そう言えば古廻はん、さっきのあの『けったいな』ポーズは何ですの?」
「さぁ? 俺より美琴に聞いてくれ」
「え!? それはあの傾奇者の変な男に言われたんだよ。流様はプレゼントをあげると、あの男が言った事を覚えてます?」
「プレゼ……ッ!? そうだった! あの野郎、プレゼントをやるから手を出せとか言っておきながら、何か攻撃されたのは覚えている。でも魂だったからかそれがどこかは分からん」
「なんか人中を攻撃してましたよ。両手の人差し指だけでこう『グリッ』と」
「あんの野郎、次会ったらぶん殴ってやる!」

 〆はその話を聞いて思い出すと、可愛らしく〝ぽん〟と両手を合わせる。

「あの手帳がなぜそんな事を言ったのかは分かりませんが、そのツボを突く事で確かに人と妖の切り替えは出来るようになりますね。すでに効力も発揮されているようですので、次からは頭の中で思うだけで変化できます。それと変なポーズと宣言は必要ありません」

 その言葉に流達、漢三人は目を見開く。

「オイ、壱と参よ由々しき事態だ」
「ですな。まずは宣言とポージングですかな」
「そうやな、宣言は『ヘン~シンッ、トゥッ』とかはどうや?」
「ダメだなベタすぎる。もっとこう魂を掴まれるリビドーってのが無い」
「フム。それならば――」

 何やら三人でおかしな事を話し始めるのを見て、〆と美琴はガクリを肩を落とす。

「はぁ~。またおかしな事を考え始めましたね……。時に美琴、流様との魂の繋がりはどの程度出来たのです?」
「私の中では完全体になったよ! もうね、幸せすぎて気絶しちゃったんだ……ふふふ」
「ゆ、幽霊が気絶ですか……。怪奇な現象ですね。でもまあそれは良かったですね、これで古廻様が悲恋に取り殺される事も無くなった訳ですから……」

 二人はまだ馬鹿みたいな話で盛り上がっている三人を、生暖かい目で見ながら溜め息を吐きつつ、優しい表情で見守るのだった。

 その内飽きたのか、適当な話になって来たところで〆が三人の話題に入って行く。

「古廻様、そろそろ良いでしょうか?」
「ああ、どうかしたか?」
「まずはそのお力についてなのですが、どの位高まったのかを知りたいと思いまして」
「フム。確かにそれは知りたいですな」
「そやったな! で、どうするつもりや?」
「そうですね、氷狐王を相手にしていただこうかと思います」
「「なッ!?」」
「え、そいつはそんなにヤバいの?」

 壱と参の顔が引きつったのを見て流も不安になる。どう見てもドン引いているからだった。

「そらヤバイでっせ、善吉より遥かに強いでっからな」
「フム。対峙した瞬間に善吉が氷付けにされる程には」
「こわ~。なにその氷像の悪魔」
「うふふ、大丈夫ですよ。もしもの時は私達が付いていますからね」

 そう言うと、〆は袖の中から扇子を取り出すと〝ぱさり〟と開き氷狐王を呼び出す。

「おいでなさい、リデアル氷原の支配者よ」

 〆の左横に青白い光が迸った瞬間、黒い空間が出来てそこから青白い大狐が出て来る。
 背の高さは五メートル程で、二本足で立ったらその倍は確実にいくであろう巨体だった。

 体はとても不思議な感じのもので、獣と氷が融合したような外見である。
 足先は氷で出来ているが、その上からは毛皮があり、横に見た胴体の下半分は氷だが、上は青白い毛皮に覆われていた。
 そしてその顔は口の中は氷だったが、それを覆うのは毛皮で、目は真っ赤なクリスタルのようでもあった。

 そのバケモノが出てきた瞬間、空気が氷る。この極寒で何もかも凍てつく場所であっても、それが濃密に分かる程に凶悪な妖気を放っていた。

「うぉ! 寒くなって来たぞ。何だこのバケモノは」
「うふふ、これが『凍付きの化身・氷狐王ひょうこおう』です。見た目は怖いですが、中身も怖いですよ♪」
「どっちも怖いじゃねーかよ! で、こいつと戦えばいいのか?」
「はい。勝つ事は難しいと思われますので、善戦して頂ければ……と」
「そんなに強いのか? まあいい、美琴ちゃん頼むよ~」
「はーい、冷凍庫みたいな狐さんを退治しましょ!」

 これだけの存在を見ても気負う事無く、準備運動でもするかのように首を〝コキリ〟と鳴らしつつ流は少し離れた場所へと移動する。
 その様子を見ている三人は少し……いや、かなり不安になった。

「……あかんかもな」
「フム。あれの存在の力が、分かっておられないようですな」
「古廻様……。一度真の強敵と対峙して、その覚悟とお力を見せて頂きたかったのですが……」

 心配する三人をよそに、流は変な鼻歌を歌いながら腰に美琴を佩いて歩いて行く。
 氷狐王もそれを追うように、王者の貫禄を見せながらゆっくりと後に続き、一定の距離を置くといよいよ戦いが始まる。
 
 それを〆を始めとした三人は、どうしようもなく不安げに見つめるのだった。
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