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第六章:商いをする漢

230:凹凸な研究者と、新しいパン

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 屋敷を出た販売車は夜の街を進む。
 夕方の騒ぎなど無かったかのように、いつも通りの楽し気な雰囲気と、雑多な露天の中を進むと、先程の死闘が嘘のように感じる。

「ふぅ~。俺……さっき死にかけたんだよな……。なんか現実感がねぇなぁ~」
『…………』
「ああ、美琴のお陰で助かったよ。そう言えば飛ばした鞘には驚いたぞ? 流石に傷でもあるかと思ったが、無傷ってお前どんだけだよ」
『………………』
「それだ! お前が言う天女! 今更だけど、あの天女はやっぱりお前か!?」

 流は美琴を抜くと、刀身に描かれている天女を見る。

「何故照れている……」

 そこには袖で口元を隠し、目だけ出している天女が恥ずかしそうにしている。

「相変わらず意味不明の刀だよ、お前達は。でもお陰で助かったよ、まさかあそこで未習得の業があそこまでの威力、そして天女の召喚とかもうファンタジーすぎて何が何だか……はぁ。でも、本当に助かった。ありがとうな」
『…………』
「一心同体か。そう言ってくれると嬉しいよ。あ! それより美琴、お前さっき話さなかった?」
『…………』
「え~? 気のせいじゃないだろう? 話したよな?」
『――』
「美琴?」

 そう美琴に何度も聞くが、その後全く答えてくれなくなってしまう。
 その様子を不思議に思いながらも、さっき死にそうになった時に聞いた美琴の声は、とても美しかったと思い出す。

 まるで魂が体から引き抜か――。
 
「……マ。…………マ?」
「ん? あ、ああ悪い、ちょっと考え事をしていたよ。っともう着いたか。嵐影はその辺りのお店で何か食べてな」

 嵐影へ銀貨数枚を愛用の大きな、がま口財布へ入れてあげ、流は倉庫の中へと消えていく。

 中に入ると新しい顔が二人増えており、その二人は見るからに学者風の男と女がいた。
 その二人は何か言い合いをしているようだった。

「しかし教授、これは貴重な研究資料ですよ!?」
「ジェームズ~。あたしはこれって~チョ~、やヴぁ~いと思うのよ~」
「それは見れば分かります! でも、こんな貴重な品は二度と出て来ないかもしれない!」
「だね~。でも~、これを研究所へ持ち帰って~誰が安全を保障してくれるの~? キミ、またオークキングが出たら~倒してくれる~?」
「ぐっ、そ、それは……」
「でっしょ~? だから~あたしは~現時刻より四十八時間で破棄をするッ!!」
「くぅ。分かりました、従います」

 教授と呼ばれた女性は、年の頃十代後半くらいに見える、金髪を背中まで伸ばした、瞳がエメラルドグリーンの実に美しい娘だった。
 そして助手と思われる男、ジェームズも女性と似たような容姿であったが、違いは短髪と、顔はこっちの方が堅物そうという感じであった。

 ただどちらも共通して「耳が長い」と言う事から、同じ種族なのだろうと流は思う。
 どうやら二人はこのアイテムボックスの危険性から、今後の事で揉めているようだった。

「戻ったぞ~って何かトラブルか?」
「あらん? ボーイお帰りなさい。まぁ当然と言えば当然の事で揉めてただけよん」
「それよりナガレ! その食べた事が無いと言うのは、持って来てくれたのか!?」
「あはは、ちゃんとあるよ。ヴァルファルドさんも目いっぱい食べてくれ。無論他の人も、そこの学者さんもな」
「「「おおお!」」」

「ナガレ様お手伝いしますね! 箱で椅子やテーブルを簡単に作っておきましたので、ここへお願いします」
「いい仕事するじゃないのメリサちゃん」
「えへ」
「メリサが『えへ』って言った……」
「!? も、もうギルドマスターたら!!」
「さ~てナガレ。俺も手伝おう、早く食べたいからな、アレを」
「助かりますバーツさん」

 学者二人はこちらを気にする事無く、一心不乱にアイテムボックスの解析をしている。
 そして販売車で温めたアツアツのカレーを鍋ごと持って来て、皿に振る舞う。
 それを並べると、周囲に何とも言えないカレーの良い香りが漂いはじめる。

「んま♪ これは美味しそうな香だわん!」
「あ、ああ。見た目はアレだが、腹が減る匂いだ」
「ん? ナガレ。今日はコメでは無いのか?」
「そうなんですよ、ウチの料理長が新しく開発したパンらしく、カレーにあうみたいなんですけど、俺もまだ食べた事ないんですよ」
「それは楽しみですね、ナガレ様♪」

 早速実食する面々。すると安定の驚きに満ち、その後無心で食べ始める。
 それも落ち着くと、今度は驚きを口に出す。

「これは美味しいわん! 凄くスパイシーで……何これん!?」
「ナガレ、お前 (ハグハグ)戦いだけじゃなく (ゴクン)こんな才能まで (ハグッ)」
「い、いやヴァルファルドさん。食べてから話してよ」
「まぁ無理からぬ事よな。俺も最初お前の館で食べた料理は、正にこんな感じだったからなぁ」
「ええ。あの時の私達は、まるで食欲に支配された獣のようでしたよ。今思うと恥ずかしいです……」

 それを聞いた二人は目を剥いて驚く。

「「そんなに!?」」

「は、はい。それ程の衝撃と美味しさでしたから」
「確かにあれは俺も今思えば恥ずかしいな。はっはっは。それはそうと、このパンだが……。流石あの料理を作った人物の作品だな。外は『カリっ』としているのに、中身は『ふわり』としつつも、重みがある生地で、腹持ちがとても良い」
「本当ですね。これもまた売れそうですよねぇ」
「うむ、売れるだろうな」
「ははは、料理長に伝えときますよ。きっと喜ぶでしょう」

 そんな会話をしながらカレーを楽しんでいると、アイテムボックスの方から奇声が聞こえる。
 一体何事かと思い、全員の視線はその方向へと集まる。




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