191 / 486
第六章:商いをする漢
191:恐怖の幽霊屋敷~再び
しおりを挟む
「壱:何を言ってるんや、この化け狐娘は。頭ぁグズグズに沸いとるんちゃうか」
「フム。鏡を見てから物を言って欲しいですな。頬を染め瞳を潤ませてるとか、不気味と言うか、不気味で気持ち悪いほど、不気味ですな」
「ナニカ、イッタカシラ?」
瞬間二人が氷に包まれると、そのまま氷柱になり閉じ込められる。
「悪は滅びました。さ、古廻様中へ行きましょう。嵐影もおいでなさい」
「……マ」
「お前が悪に見えるが……。まぁなんだ、お前らの死は無駄にしないぞ……さらば、壱と参」
「……マァ」
「おっとそうだったな、行こうぜ。しかしお前凄いなぁ、〆のあの迫力に全く動じないとは」
そんな話をしつつ、流が執務室へと入るのを柱の陰から見守る一人の影があった。
影がその姿を現すと、氷柱に丁寧に触れて優しく撫でる。
「御可哀そうに……。少しでも溶けるように日向へ移動しましょうか。おや、これは」
流達が去った後にセバスが現れ、氷柱を移動させようと柱の上部ふと見る。そこには瑞々しい果物が、二つ乗っていたのだった。
「――なるほど、では本日お客様がおいでになるのですか」
「ああ、セバスにも言ったがプレゼントに何が良いと思う?」
「そうですね……。そのバーツなる者には万年筆等はいかがでしょう?」
「お~それはいいな。事務仕事が多い人だし、ちょっと良いものなら喜ぶだろう」
「ご友人の方には金属製のタンブラー等はいかがでしょうか? 高級な品も良いですが、武骨な方とお見受けしたので、温度が変わりにくい物など良いかと」
「それもいいな! ファンならあちこちへ持って行って使いそうだし、めったな事では壊れないしな」
「最後は女性ですか……。別に何も差し上げなくてもよいのでは?」
〆は少しツンとした雰囲気になると、頬を膨らませて流れを見る。
よく見ると少し涙目のようだったが、流にはその理由は全く分からなかった。
「おいおい、そう怒るなよ。そいつにも世話になっているから選んでくれよな?」
「そうですか……。それでは髪飾りなどはいかがでしょうか。素材を厳選した鼈甲とプラチナで装飾した花をモチーフにした物などをご用意いたしましょうか?」
「それは凄そうだな。じゃあそれを頼む。セバスには俺から伝えとくから用意してきてくれ」
「承知しました……古廻様。その、あまりつまみ食いはいけませんよ?」
「? まぁ気をつけるよ?」
〆は「もう、仕方ありませんね」と言い残し、朧気に姿を消す。
その様子に首を傾げながらも、流は約束の時間まで空いた予定を少し考えてから行動に移す。
「さて、俺はやる事無くなったから、気合入れて訓練でもするか。美琴今日も頼むぞ!」
『…………』
「よし、じゃあアリスが寂しがってたから、今日は地下でやるか」
そう言うと流は、時間が来るまで地下室で特訓をしたのだった。
◇◇◇
――この時期の夜は遅い。
領主の館の陰に日が落ちる頃、一台の豪華では無いが、立派な馬車がお屋敷街へと滑り込む。
その車内には商業ギルドの主であるバーツと、その部下のメリサ。そして流の友人であるファンが乗っていた。
バーツは羽織っている物が膝まである、貴族風の落ち着いた藍色の衣服を着用しており、ファンも同じようなデザインの、貴族風な深いエメラルドグリーンの服を着ている。
メリサに至っては何時ものスーツ姿ではなく、こちらも美しい薄い紫を基調とした品が良いドレスで、緊張するように胸に手を当てていた。
「ふぅ。緊張しちゃいますね、私はまだ幽霊がいた頃に行ったきりですから」
「本当にどうなっているのか楽しみだな、俺も以前行った事があるが、幽霊に囲まれて逃げ帰って来たわ」
ヘタレな過去を豪快に笑い飛ばすバーツと、楽しみに心躍るメリサ。
「いや~幽霊がいた頃は半端じゃなかったからなぁ。俺も冒険者が幽霊を討滅するってんで、聖水やらの補給物資を積んで、庭に入った途端囲まれて冷や汗をかいたもんだ」
「それをよくもまぁナガレは討滅したものだな。本当に凄い男だ」
「ナガレ様はお強くて、商才もあって最高ですよね! しかもかっこいいし……」
「ん? 最後何か言ったか?」
「い、いえ何も!」
「お? そろそろ流の屋敷が見えて来たぜ」
車窓から顔を覗かせるファンは、流の屋敷へ到着した事を二人に伝える。
屋敷の前に来ると、自動で門が開閉し、馬車はそのまま奥へと進む。
やがて馬車が止まると、御者が馬車のドアを開け、そこには使用人達が勢ぞろいで三人を迎える。
「「「いらっしゃいませお客様」」」
「ほぉ。ナガレは何時の間にこんな使用人達を」
「凄いお出迎えですね、一糸乱れぬとはこう言う事を言うんでしょうね」
「だろう? 俺も度肝を抜かれたさ」
そんな話をしていると奥の扉が開き、幽霊屋敷の主がやって来る。
流は子供のような笑顔で「実に楽しそう」に、両手を広げながら三人を出迎えた。
「フム。鏡を見てから物を言って欲しいですな。頬を染め瞳を潤ませてるとか、不気味と言うか、不気味で気持ち悪いほど、不気味ですな」
「ナニカ、イッタカシラ?」
瞬間二人が氷に包まれると、そのまま氷柱になり閉じ込められる。
「悪は滅びました。さ、古廻様中へ行きましょう。嵐影もおいでなさい」
「……マ」
「お前が悪に見えるが……。まぁなんだ、お前らの死は無駄にしないぞ……さらば、壱と参」
「……マァ」
「おっとそうだったな、行こうぜ。しかしお前凄いなぁ、〆のあの迫力に全く動じないとは」
そんな話をしつつ、流が執務室へと入るのを柱の陰から見守る一人の影があった。
影がその姿を現すと、氷柱に丁寧に触れて優しく撫でる。
「御可哀そうに……。少しでも溶けるように日向へ移動しましょうか。おや、これは」
流達が去った後にセバスが現れ、氷柱を移動させようと柱の上部ふと見る。そこには瑞々しい果物が、二つ乗っていたのだった。
「――なるほど、では本日お客様がおいでになるのですか」
「ああ、セバスにも言ったがプレゼントに何が良いと思う?」
「そうですね……。そのバーツなる者には万年筆等はいかがでしょう?」
「お~それはいいな。事務仕事が多い人だし、ちょっと良いものなら喜ぶだろう」
「ご友人の方には金属製のタンブラー等はいかがでしょうか? 高級な品も良いですが、武骨な方とお見受けしたので、温度が変わりにくい物など良いかと」
「それもいいな! ファンならあちこちへ持って行って使いそうだし、めったな事では壊れないしな」
「最後は女性ですか……。別に何も差し上げなくてもよいのでは?」
〆は少しツンとした雰囲気になると、頬を膨らませて流れを見る。
よく見ると少し涙目のようだったが、流にはその理由は全く分からなかった。
「おいおい、そう怒るなよ。そいつにも世話になっているから選んでくれよな?」
「そうですか……。それでは髪飾りなどはいかがでしょうか。素材を厳選した鼈甲とプラチナで装飾した花をモチーフにした物などをご用意いたしましょうか?」
「それは凄そうだな。じゃあそれを頼む。セバスには俺から伝えとくから用意してきてくれ」
「承知しました……古廻様。その、あまりつまみ食いはいけませんよ?」
「? まぁ気をつけるよ?」
〆は「もう、仕方ありませんね」と言い残し、朧気に姿を消す。
その様子に首を傾げながらも、流は約束の時間まで空いた予定を少し考えてから行動に移す。
「さて、俺はやる事無くなったから、気合入れて訓練でもするか。美琴今日も頼むぞ!」
『…………』
「よし、じゃあアリスが寂しがってたから、今日は地下でやるか」
そう言うと流は、時間が来るまで地下室で特訓をしたのだった。
◇◇◇
――この時期の夜は遅い。
領主の館の陰に日が落ちる頃、一台の豪華では無いが、立派な馬車がお屋敷街へと滑り込む。
その車内には商業ギルドの主であるバーツと、その部下のメリサ。そして流の友人であるファンが乗っていた。
バーツは羽織っている物が膝まである、貴族風の落ち着いた藍色の衣服を着用しており、ファンも同じようなデザインの、貴族風な深いエメラルドグリーンの服を着ている。
メリサに至っては何時ものスーツ姿ではなく、こちらも美しい薄い紫を基調とした品が良いドレスで、緊張するように胸に手を当てていた。
「ふぅ。緊張しちゃいますね、私はまだ幽霊がいた頃に行ったきりですから」
「本当にどうなっているのか楽しみだな、俺も以前行った事があるが、幽霊に囲まれて逃げ帰って来たわ」
ヘタレな過去を豪快に笑い飛ばすバーツと、楽しみに心躍るメリサ。
「いや~幽霊がいた頃は半端じゃなかったからなぁ。俺も冒険者が幽霊を討滅するってんで、聖水やらの補給物資を積んで、庭に入った途端囲まれて冷や汗をかいたもんだ」
「それをよくもまぁナガレは討滅したものだな。本当に凄い男だ」
「ナガレ様はお強くて、商才もあって最高ですよね! しかもかっこいいし……」
「ん? 最後何か言ったか?」
「い、いえ何も!」
「お? そろそろ流の屋敷が見えて来たぜ」
車窓から顔を覗かせるファンは、流の屋敷へ到着した事を二人に伝える。
屋敷の前に来ると、自動で門が開閉し、馬車はそのまま奥へと進む。
やがて馬車が止まると、御者が馬車のドアを開け、そこには使用人達が勢ぞろいで三人を迎える。
「「「いらっしゃいませお客様」」」
「ほぉ。ナガレは何時の間にこんな使用人達を」
「凄いお出迎えですね、一糸乱れぬとはこう言う事を言うんでしょうね」
「だろう? 俺も度肝を抜かれたさ」
そんな話をしていると奥の扉が開き、幽霊屋敷の主がやって来る。
流は子供のような笑顔で「実に楽しそう」に、両手を広げながら三人を出迎えた。
0
お気に入りに追加
274
あなたにおすすめの小説
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!
桜井正宗
ファンタジー
辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。
そんな努力もついに報われる日が。
ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。
日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。
仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。
※HOTランキング1位ありがとうございます!
※ファンタジー7位ありがとうございます!
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
S級スキル【竜化】持ちの俺、トカゲと間違われて実家を追放されるが、覚醒し竜王に見初められる。今さら戻れと言われてももう遅い
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
ファンタジー
主人公ライルはブリケード王国の第一王子である。
しかし、ある日――
「ライル。お前を我がブリケード王家から追放する!」
父であるバリオス・ブリケード国王から、そう宣言されてしまう。
「お、俺のスキルが真の力を発揮すれば、きっとこの国の役に立てます」
ライルは必死にそうすがりつく。
「はっ! ライルが本当に授かったスキルは、【トカゲ化】か何かだろ? いくら隠したいからって、【竜化】だなんて嘘をつくなんてよ」
弟である第二王子のガルドから、そう突き放されてしまう。
失意のまま辺境に逃げたライルは、かつて親しくしていた少女ルーシーに匿われる。
「苦労したんだな。とりあえずは、この村でゆっくりしてくれよ」
ライルの辺境での慎ましくも幸せな生活が始まる。
だが、それを脅かす者たちが近づきつつあった……。
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる