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第五章:殺盗団を壊滅せよ

161:奥義・乱舞

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「時に巨滅の英雄殿。あんた名は何と言うんだ?」
「人に名をたずねる時は、自分から名乗るものだと思うのだがな?」
「あ~ら、これは失敬。俺はアニキッ! さすらいの用心棒さ!!」

 右手の親指をサムズアップしたアニキは、堂々と胸を張りそう主張する。
 流は奥のラーゼを見つめると、申し訳なさそうにこう続ける。

「いや、なんか……うちのアニキがほんと、スマン」
「そこ、謝らないで! アニキ泣いちゃう! しかも号泣だぞ!?」
「まぁお前が馬鹿だと言う事は分かった。俺は流、真っ当な商人だ」
「ほら! ほら、ほぉらぁ~。聞いたかラーゼ君? 英雄様もオレと同じようにギャグ言ってんじゃ~ん。オレだけが悪者? 否、断じて否だね!」
「マテイ! 俺は本当に商人なの! 隣から派遣されてゴミ掃除に来ただけの商人なの! お分かり?」

 流はバーツに渡された依頼書を見せる。

「あ~ら本当だった!? いや、ホントごめんね?」
「俺も言い過ぎたよ、悪かったな」
「あんたら、なに和んでるんだよ……」

 殺伐とした空間に、微妙な空気が漂い始め――たかのように見えたが、当の二人の目は笑っていなかった。

 そして――どちらからともなく、突然の剣戟が積み重なる。

 アニキは腰にいでいた剣を抜くと一筋の閃になり、大上段を経由して流の中心へと斬り込む。当然当たれば真っ二つになる勢いの一閃だ。
 それを美琴で左側へ受け流しながら、アニキの体制が内側に丸まった事による隙を逃さず、流は蹴りを入れる。

 しかしアニキは蹴りを食らった瞬間、自身も同じ方向へ回転して威力を受け流し、そのまま剣で斬り返す。
 が、流もそれに応えるように、アニキと逆回り方向へグルリと回り、美琴で同じように切り返す。

「ス、スゲェ……あのアニキと互角に斬り結んでいやがる……まるで踊っているみてぇだ……」

 そのまま剣戟が息も出来ないほどの、銀色の閃光を引き連れて積み重なる。
 やがて一部屋にとどまらず、双方ともに避けた攻撃が壁を壊し、その空いた穴へアニキが転がり込むと、それを追って流も飛び込む。
 そこでまた激しい剣戟が始まると、また壁を壊して別の部屋へと進み、いよいよ建物の強度も怪しくなって来た頃、アニキが流と距離を取る様に飛び退く。

「あ~らまぁ……随分と手癖の悪い商人だこと」
「おいおい、人聞きの悪い事を言うもんじゃないぜ? ゴキブリの用心棒さんよ」
「…………」
「…………」

「「コイツでキメるッ!!」」

 アニキは大上段に剣を構え、剣に魔力を流すと、剣に灼熱の業火が宿る。
 それを打ち払うため、流も美琴を高速納刀し、抜刀術の構えを取る。

「灼熱の業火に朽ち果てろ……奥義! 業炎ごうえん咆哮ほうこう!!」
「ならばそれを打ち払おう……奥義! 太刀魚・改!!」

 アニキは建物の事など微塵も考えずに、業火を具現化した斬撃を流へ飛ばす。
 それを見たラーゼは死を覚悟した。アニキの攻撃の意味を知っているから……そう、今いるこの場所は、「確実にマズイ」と分かるからこその反応。
 だからその「絶対攻撃範囲」を知っているからこそ、この世の見納めのように目を見開き、姉を強く、強く、抱きしめる。このままなら自分達も確実に焼け死ぬのだ、と。
 だがその目には悲壮はなく、覚悟と忠誠が宿っていた。
 
 その本気のアニキの攻撃に、流は冷や汗一つかかず、美琴を優しく撫でるように柄を持つ。
 迫る業炎の咆哮! その炎のアギトが流へ着斬・・する刹那、美琴の怪しく光らせた刀身を、その鞘を滑らせて彗星の如く煌めく斬撃を放つ。

 美琴の妖力を衣のように纏った太刀魚は、昇竜のように具現化し、業炎の顎を食い破る!
 その勢いはとどまる事を知らず、食い破った業炎を呑み込みながら、ついにはアニキの剣までとどくと強烈に押し合う。

「ウヌオオオオオオオオオオオ!! ナ・メ・ル・ナアアアアアアッ!!」

 アニキは裂帛の気合と共に、太刀魚を真下へ叩きつけ耐え切った――が。

「――お前がな?」

 目の前に迫る流に気が付かず、一瞬防御が遅れた事で隙を生む。

「ジジイ流活人術! 不殺閃・改!!」

 美琴の妖力をこれでもかと詰め込んだ不殺閃は、不殺とは言え奥義級一歩手前の威力をもった打撃業と昇華していた。

「あ~ら、アニキ一本とられなああああああゴッブアッツ!?」
「ア、アニキいいいいいいいいい!!」

 そのまま建物の壁をぶち破り、アニキはギルドの裏道側の外へと投げ出される。

「くっ!! この借りは必ず返すからな、覚えておけよ巨滅の英雄!!!!」
「あ! ちょっと待て!! それフラグだからなあああ」

 そう言うが早いか、ラーゼは姉を抱いたまま流が開けた大穴から外へ躍り出る。
 慌ててその穴から下を覗くが、ラーゼが蒔いたのか白い煙幕が立ち込めており、飛び降りてもいいものかが判断が付かずに眺めるだけであった。

「クソッ! 鑑定眼では視えずってなんだよ。俺では追えないか……失敗した。不殺閃がまさかここまで威力があるとは、まぁ何となく分かってたけど!」

 下は今だ煙幕が激しく、どうなっているかは不明だったが、気配が消えた事により最低ラーゼは逃げうせたと判断する。
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