上 下
124 / 486
第五章:殺盗団を壊滅せよ

123:三兄妹の制約

しおりを挟む
「ず……随分とリアルな鬼と、命懸の追いかけっこデスネ」
「壱:古廻はん、違いまっせ? それ、本当の鬼ですねん。愚妹が地獄へ落としたんでっせ」
「お前そんな事も出来るのか!?」
「いえ!! あの……はぃ……」

 〆は消え入りそうな声で恥ずかしがっている。

「壱:何でそこで顔を真っ赤にしとんねん!?」
「もう何でもありだな、お前達は……」
「フム、古廻様! 私もですか!?」
「壱:僕はまともでっせ!」
「少なくても兄達よりは数千段まともです」
「お前達……俺の目を見てもう一度言ってみろ? ん?」

 流がそう言うと〝すうっ〟と視線を逸らす三人組。
 そんな三人に呆れる流だったが、メイドが食事を持って来たので食べる事とする。

「お待たせ致しました。簡単な物との事でしたので、アメリカンクラブハウスサンドをご用意致しました」
「お? 美味そうだな。ありがとうよ」

 メイドは嬉しそうに頭を下げると、四人分のお茶を入れて退出する。

「さて、それでどこまで話したか? ああ、そうそう。〆が賊を地獄へ落とした所までか」
「それは忘れていただければ……」

 なぜか恥ずかしそうにしている〆を見ながら、ふと思う事を聞いてみる。

「なぜ恥ずかしそうに頬を染める!? それで〆、お前達の事だから地獄へは何時でも行けるのだろう?」
「はい、何時でも行く事は可能です」
「やはり行けるのかよ……で、戻る事も可能なんだろう?」
「人を送る事は比較的に簡単なのですが、そこから連れ出す事はかなり大変ではありますね」
「つまり条件がある、と? まあ当然だわな。地獄からの帰還となると……あれか、金だな? 地獄の沙汰も何とやらってやつで」

 〆はその発想に驚く、何故ならそれは当たっているからだ。

「よ、よくお分かりで。はい、実はお金と言うか、帰還者が持っていた財の全てを差し出せば帰還可能な事もあります」
「可能な事もある……か。するとそれ以外にも条件があると?」
「はい、地区の管理者と交渉して、了承を得られれば戻る事が可能です。ただし今回私が『賊達を生きたままの状態で』送ったように、対象が生者である事が条件になります」

 なるほどと、静かに頷くと流は少し考える。

「〆達は自由に出入り出来るのだろう?」
「はい、私達クラスならば問題無く。ただ古廻様は右手の紋章が覚醒すれば、私達が同伴すれば自由に行き来出来ます」
「そうなのか……」

 流は右手にある、未完成の紋章を見つめる。紋章は最初より、心持ち形が

「近いうちにコイツも何とかしないとな」

 その言葉に〆達三人は無言で頷く。

「それで地獄送りは何時でも可能なのか?」
「出入りできるのは私達三名なら問題なく行えますが、古廻様以外の生者を送る事が出来るのは私だけで、現在は行動範囲に縛りがありますので、この屋敷の敷地が限界ですね。また、送れる対象は脆弱な魂を持つ者のみとなります」
「なるほどなぁ……とりあえずその事は分かった。ああ、そう言えば捕えた賊達はどうなっている?」

 参は窓へ向かい、その下を一瞥してから答える。

「フム。屋敷の中へ置いておくのも、はばかられますので、庭の隅にまとめて捨ておきました。ただ……精神的に疲弊はしているようですが」
「お前達もやらかしたのか……」
「フム。申し訳ありません、私の監督不行き届きです」
「? まあいいさ。相手は殺盗団だしな」

 参は疑問に思っていた事を流に聞く。

「フム。古廻様、屋敷に侵入した賊をなぜ生け捕りに?」
「ああ~ それはな、あいつ等は裏の顔だろ? 先日の打ち合わせで、お前達の行動限界を聞いてたからな。だからお前達がいかに能力が高いとはいえ、行動範囲が限定されているのは痛い。特に〆と参はこの屋敷限定みたいなものだし、壱は健康手帳を媒体としての活動だから、戦闘参加は今のところはダメだって言っていたろう? だからある程度、こちらの人員も必要かと思ってさ。裏の奴らで使える者が居たらいいなって、思いつきで頼んだんだよ」

 その答えに三人は頷く。

 異世界へ自由に行き来できる程の神格を持っているとは言え、行動が無制限に出来る訳ではなかった。

 まず〆だが、彼女は異怪骨董やさんの道具が反乱を起こさない様に、店から長時間離れる事は出来ない。

 次に壱だが、彼は大昔からしている健康手帳の管理者として、流にどこまでも付いて行く事が可能だが、攻撃的な戦闘行為をするには手帳の管理者をやめる必要がある「万物の理」がある。
 理を破る実力はあるが、相応のペナルティも発生するために、これは最後の手段となる。

 最後に参だが、拠点防衛としてこの屋敷に力を注いでいるために、式神の制御で力をかなり割いている。
 一度その制御を解いてしまうと、拠点としての結界術が消えてしまい、新しく構築するためには、長時間屋敷が無防備になってしまうのと、現在行っている屋敷の「この世界では無理」な改装が出来なくなるデメリットがあった。

 無理をすれば〆と参は屋敷から離れて戦闘も出来るので、流が来る前に敵のアジトを壊滅しようかと思ったが、それはリスクが大きいので今に至る。
 ただしこの縛りは絶対不変と言う訳では無く、流の紋章が解放されれば、次第に緩和されると〆達は考えていた。
 そして何より流の成長する糧としての経験と、異世界の全てを「自分の目で見て欲しい」と言う思いがあるのも、〆達の自重の理由になった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!

桜井正宗
ファンタジー
 辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。  そんな努力もついに報われる日が。  ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。  日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。  仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。 ※HOTランキング1位ありがとうございます! ※ファンタジー7位ありがとうございます!

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

S級スキル【竜化】持ちの俺、トカゲと間違われて実家を追放されるが、覚醒し竜王に見初められる。今さら戻れと言われてももう遅い

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
ファンタジー
 主人公ライルはブリケード王国の第一王子である。  しかし、ある日―― 「ライル。お前を我がブリケード王家から追放する!」  父であるバリオス・ブリケード国王から、そう宣言されてしまう。 「お、俺のスキルが真の力を発揮すれば、きっとこの国の役に立てます」  ライルは必死にそうすがりつく。 「はっ! ライルが本当に授かったスキルは、【トカゲ化】か何かだろ? いくら隠したいからって、【竜化】だなんて嘘をつくなんてよ」  弟である第二王子のガルドから、そう突き放されてしまう。  失意のまま辺境に逃げたライルは、かつて親しくしていた少女ルーシーに匿われる。 「苦労したんだな。とりあえずは、この村でゆっくりしてくれよ」  ライルの辺境での慎ましくも幸せな生活が始まる。  だが、それを脅かす者たちが近づきつつあった……。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。  応援していただけたら執筆の励みになります。 《俺、貸します!》 これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ) ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非! 「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」 この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。 しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。 レベル35と見せかけているが、本当は350。 水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。 あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。 それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。 リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。 その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。 あえなく、追放されてしまう。 しかし、それにより制限の消えたヨシュア。 一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。 その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。 まさに、ヨシュアにとっての天職であった。 自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。 生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。 目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。 元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。 そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。 一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。 ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。 そのときには、もう遅いのであった。

処理中です...