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第四章:凶賊と、人類最高の【ざまぁ】はこちらです

100:カワードさんと大甘なお菓子~ファン、死す

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 流が出発してから暫くした頃、幽霊屋敷を出る一台の馬車があった。
 荷台にはファンが村から持って来た緑色で、赤い紐で括られた特徴的な箱が積まれていた。

「それではファン様、荷物を『依頼主の元』までよろしくお願いします」
「ええ任せてください、シン殿もご壮健で。それでは依頼完了の『吉報』をお待ちください」
「お気遣い、ありがとうございます」

 参と正門前で挨拶を交わしたファンは、荷馬車に積んだ荷物を丁重に扱いながら幽霊屋敷を出る。
 荷馬車はサンポア貧民街と呼ばれる、この町で唯一の貧民街に差し掛かった頃にそれは起きた。
 突如ファンの馬車に衝撃が走る。

「な、何だぁ!? いくら何でも街中では襲われる事は無いよな……」
「……と、思うだろ? 甘いな~大甘だ~。バッサタルトにアルデットを塗したくらいにはなぁ?」
「ま、待て!? 僕は荷物を運んでるだけだ!! 荷物はやるから、こ、こ、殺さないでくれ!!」

 ファンの馬車周辺には、いつの間にか殺盗団と思われる男達が五人で囲んでいる。
 そしてリーダー格の男が、実にいい笑顔で無慈悲に一言言い放つ。

「み~んなそう言うんだ。殺れ」
「ちょま!! ギャアアアアアアア」

 ファンの右の腹、右胸、左頬、左脇腹にナイフが突き刺さる。
 断末魔の叫びをファンは放つと、そのまま前のめりに御者台からずり落ちて地面に転がる。
 
「ふひひ、いつ聞いても笑えるこって。さ~てお前達。荷物を開けて見ろ」

 手下が荷物を開封すると、中には真っ赤に熟したリンゴのような果物がビッシリと入っていた。

「屋敷に運び込まれた緑色の箱には間違いありやせんが、こいつぁ……」
「ハズレだな。やれやれ草臥れ儲けってやつか。このまま放置で撤収する」
 
 貧民街とは言え目撃者はそれなりに居るが、そこは裏の繋がりだからこうなる。

「あ~そこのお前ら、分かっているな? 何も無かった、そうだろう? おっと、それと早い者勝ちだ、この馬車とリンゴはくれてやる」

 貧民街の住民は目も合わせずその場を去る。

「よし撤収だ。駄賃にリンゴをかじりたい奴は持っていけ」
「ヘイ」

 男達が去ると路地裏から二人の人物が現れる。二人とも小汚いフードを被った、みすぼらしい人影が馬車を奪う。

「チッ、見ていて気分が悪い。おい! 行くぞ、あいつらがまた来るかもしれないからな」

 男達は奪った馬車の御者台から、転がっている死体を一瞥する。
 もう一人は無言で頷き、そのまま馬車に乗り込むと大急ぎで走り出すのだった。


◇◇◇


 ファンが襲われ暫くたった頃、殺された事を知らない流は、途中カワードが休憩を要求したので休む事とする。
 さらに少し進むとまた休憩を要求するのでそれに従うが、流石に三度目の休憩中に暇になった流はカワードを煽る。

「ふ~疲れたな。ま、ゆっくりと行こうぜ?」
「カワードさんは随分と貧弱でいらっしゃる。あ、俺も疲れているからいいんだよ?」
「てめぇ……」
「カワード、その辺にしないか。ナガレの言う事も分からなくもない。少し休みすぎだ」
「どうしちゃったのカワード? いつものなアンタなら休まず行くのに」
「……そう言う気分なんだよ。嫌な予感っつー感じがあってな」

 流がそんなカワードに援護射撃をする。

「流石カワードさんです! 俺達に出来ない事を平気でやってのける! シビレはしないけど、憧れもしませんのでご安心を!」
「あ゛あ゛あ゛!?」
「まあまあ。カワードも落ち着きなよ。もうすぐ着くんでしょ?」

 レイナがそう言うとカワードも少しは落ち着いたのか、休憩を終え目的地を目指す。

 流は鼻歌混じりで歩いているが、姉妹二人はどんよりとした感じで、カワードに至っては怒りで張り裂けそうな感じであった。

 出発してからすでに四時間。そんな一行も、いよいよ旅の終わりが迫って来る。
 
「着いたぜ、ここがトラフ草原だ。そして向こうに見える岩山があるだろう? そこにお目当てのトラフタイガーの巣がある」

(岩山ねぇ……ま、予想通りで何より)

 流はファンから聞いた通りの地形を確認すると、そのまま進む。

「カワード達はここへ来た事があるんだろう?」
「昨日聞いたろうが、ここへは俺だけだ。二人が休んでる時に別の依頼で組んだ奴らとな。そこで腕輪を落としたんだ」
「そう、かい……」

 流は気配察知を発動させる、すると――。

(うわ~いるいる、何人居るんだこれ? 数十人要るぞ!!)

「なぁ、カワード。あの岩山には探し物は無いようだが、それでも行くのかい?」
「ど、どういう意味だ!?」
「ん~? 何を焦っているんだ? 言葉のまま、トラフタイガーの気配が無い、もしくは腕輪は落ちていないって意味だが?」

 カワードは目を血走らせ、流に掴みかかる勢いで迫って来る。

「ド素人が! 分かったような口を叩いてるんじゃねーぞ!! あそこはトラフタイガーの有名な巣だ! ギルドの奴に聞いても全員がそう言う!! 巨滅兵を倒したか何だか知らねーが、俺の言う事は間違いねーんだ!」
「そうなのか? なら腕輪はどこにあるんだろうな?」

 カワードは一瞬詰まるが、またまくし立てるように答える。

「そ、それはあの岩場でトラフタイガーに囲まれた時に焦って落としたんだ!」
「あれれ~? カワードさんはそんなに貧弱なんですか~?」
「あ゛あ゛あ゛!? テメーに何が分かる!!」
「いや~。カワードさんは絶対無敵のレイナのナイトなんじゃ~ないの? そんなカワードさんがまさか『デカイ猫』如きに後れを取るなんて――ありえねぇ、ダロ?」

 流の雰囲気がガラリを豹変したのを見て、カワードは息を呑むのだった。
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