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第四章:凶賊と、人類最高の【ざまぁ】はこちらです

095:親密なカワードさん

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 リリアンは話し終えると、大粒の涙を流し顔をおおってしまう。
 震える手でレイナがリリアンを抱きしめると、「そんな……」と呟き続ける。
 
「お、お姉ちゃん……まさかそこまで酷い事になってるなんて……」
「レイナすまない。お前と家族のためとは言え、保身に走ったと言われても仕方ない愚行だ。全てが終わったら、私はカワードを斬り捨てて自分も死ぬ」
「何を言っているのよお姉ちゃん!? お姉ちゃんは何も悪くないよ! 悪いのは全部カワードじゃない!!」

 姉妹の状況を冷静に見る流。すると頭上から一枚の短冊が、ヒラヒラと舞い落ちて来る。
 それを手に取り見た流は、ニヤリと口角を上げる。

「まあ少し落ち着け、話は分かった。それに『今現在の奴の動向』も分かった事だし、ついでだ、お前達の事も俺に任せておけ。悪いようにはしないから」

 普通だったら「大変だな」で片づけられてもおかしくない話だと言うのに、流はそれを自分に任せろと言った事に姉妹は顔を見合わせる。

「ほ、本当なんですか、ナガレさん!?」
「いや、レイナ。私はナガレなら信じられる。そして信じるしかない。頼むナガレ、私達に力を貸してください」

 二人はナガレに深々と頭を下げる。

「おいおい、そう言うのはやめてくれよ恥ずかしい。だから言ってるだろう、任せておけってな」
「「ありがとうナガレさん」」
「礼は全て片付いてからな。それとリリアン、お前は死ぬな。それは絶対に許さん。それがお前達の依頼たのみを受ける条件だ」

 リリアンとレイナは片手を握り合いながら、流に強く頷くのだった。

 丁度話が終わると、カウンターよりジェニファーが手招きをしているのが見える。

「じゃあ俺は行く。お前達は今言った話をアイツに悟られないように、明日何食わぬ顔で集合場所へ来てくれ」
「「分かった!」」

 そのまま二人と別れ、カウンターへと向かう。するとそこには馴染みの顔がもう一人いた。

「ようナガレ、探したぜ! もし暇なら俺の護衛を頼みたい。急ぎで近くまで行かなきゃならないんだが、先日の事もあって不安でな。夕方には戻れるはずだ」
「それは良いが、一体どこへ行くんだ?」
「ああそれはな――」

 流はファンの馬車に揺られながら、初めての風景に心躍らせる。その林道とは言えない広さの街道を走りながら、これまでの説明をするのだった。

「マジかよ、じゃあお前はこれから殺盗団を討伐するってのか? それも一人で?」
「まあそんな感じになった。でも組織自体は俺一人ではどこにあるのか掴めな……いや、出来るのか? まぁ出来るだけ汚物処理はするつもりだ」

 一人では組織の解明は無理と思ったが、三兄妹がいる事でそれも解決すると考える。

「相変わらず巨滅の英雄様はやる事が派手だねぇ~。で、いつやるんだ?」
「明日からを予定している。そしてもう一つ依頼と言うか、頼みを聞いてる事があってな。ファンの話が正しいなら、そろそろ見えて来るはずだ……」

 森を抜けるとそこは湖だった、向こう岸は霞んで見えない程広く、その中央から少し離れた所からは、巨大な一枚岩の大地が広がっている。

「ビンゴ♪ ここで間違いないだろうな。そしてこの先の村に行くんだろう?」
「ああそうだ。殺盗団のせいで物流が滞っていてな、至急生活物資を送ってくれと矢の催促なんだわ」
「どうやって町まで伝令を送るんだ? 殺盗団にやられるだろう?」
「あぁ~、それは……。チッ、ちょうどまた催促のお知らせか?」

 ファンが苦虫を噛みしめるように言うと、真上から木製の紙飛行機のような物がファンに向かって来るのが見える。
 それをヤレヤレと受け取ると、ファンは四角い金属製の魔具をその物体にかざす。
 すると魔具の中に文字が現れる。流はそれを横から覗き見ると、予想通り村長からの物資輸送の依頼だったようだ。

「って訳よ。登録した奴の間だけ使える連絡道具ってわけだな。この周辺だったらコレで大体は間に合う寸法よ」
「なるほどね、明日の遠足は楽しくなりそうだな」

 そう流は独り言ちると、実にいい笑顔で口角を上げる。村への返信を書いた後、通信魔具を飛ばしたファンは流へと向き直り呆れたように話す。

「お前、今すっごく悪い顔しているぞ?」
「そうか? 冒険者用の営業スマイルってやつだ」
「そんな顔して来たら、俺なら即お帰りいただくね」
「失礼な、俺ならお前が来ただけでお帰りいただくね」

 何がツボったのかは知らないが、二人は笑い合う。
 やがて村に付くと、流の思惑は確信に変わったのだった。
 村人からは熱烈な歓迎を受け、このまま村に一泊して欲しいと言う願いを何とか断り、流達は帰路につく。

 荷物を全て村へ届け、帰りの予定では空の馬車のはずだったが、そこには大きな荷物が一つ乱雑に転がっていた。
 その荷物は赤い紐で括られた緑色の大きな木箱で、乱雑な置き方の割には箱が傷付かないように藁が敷き詰められていた。

 急いで戻って来た甲斐があり、閉門前には馬車はトエトリーの町へと戻って来る。
 駆け込みで入って来る、商人や旅人を門番が慣れたように誘導している中に、ファンの馴染みである門番が片手を上げてやって来る。

「よう! ファンじゃないか。今日はもう終わりかい?」
「まあな、いつも門番ありがとうよ」
「なに、これも仕事さ。それでそっちの荷物は?」
「ああこれはな……ナガレ、いいか?」

 流は一つ頷くと、アイテムバッグから一通の手紙と「商業ギルドの刻印がある円形の金属」をファンに渡し、それを門番に見せる。

「お~、これはまた珍しい物を持っているな。はいよ、了解。商業ギルド専用の品とのお墨付きがあれば問題ないな」

 流が渡した物、それはバーツより貰った「商業ギルドの品に付き検品不要」の証だった。
 これは昨日商業ギルドへとメイドが届けた手紙を見たバーツが、使うか分からないが流の仕事に不便があってはならないと、発行した特別許可証である。

 馬車は正門を抜け、そのままお屋敷街へと向かう。
 途中から敵意を感じた流は、ファンと話しながら辺りを自然に探る。すると露天の店主、二階から見下ろす主婦、犬を連れた老人、酒場の外にあるテーブル席に座っている男……。等々、帰館までの道中は、流を監視する輩で溢れていた。


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