95 / 486
第四章:凶賊と、人類最高の【ざまぁ】はこちらです
094:青天の霹靂
しおりを挟む
その日、リリアンは何時ものように畑の雑草を取り除いていた。空はどこまでも高く、晴れわたり心地よい風が吹く。
少し休憩しようと、リリアンは空を気持ちよさげに見上げていた時だった。そんなリリアンの元へ、凶報を届けにカワードがやって来る。
その瞳は凶報を届けに来た者ではなく、むしろ楽しんでいるようでもあった。
「おい、リリアン! お前のせいで俺のカレリナはゴブリン共に拉致られたぞ!」
「な、なんだって!? それは本当の事なのか!!」
カワードにリリアンは掴みかかり、それをカワードは強く払い退けた。
リリアンは思わずその行動で転びそうになるが、即体制を立て直しカワードへと迫る。
「チッ、本当の事だ。この目でシッカリと見たからな。俺は『たまたま』神隠しの森にいたんだが、遠くで悲鳴が聞こえたんだよ。それで急いで駆けつけると、リリアンがゴブリンの集団に担がれ森の奥へ消えていく所だった。その中には一際デカイ奴もいてな、武器も何も無い俺は呆然と見ているしかなかった訳だ」
その話を聞き表情が真っ青になり焦るリリアンは、即座に村長の所へと向かおうとする。
「待て! 早まるな! なぜ俺が最初にお前の所へ来たか分かるか?」
そうカワードは言いながら、リリアンの肩を強く掴み実に卑しく笑いかける。
「……何故だ?」
「お前、湖でカレリナにありえない『依頼をした』な? 丁度そこの岩陰で釣りをしていた俺は全て聞いている」
「依頼? って、妖精の息吹の事か? 馬鹿な、あれは冗談で言っただけの事だろう!!」
「かもしれない。だが現実はお前の戯言のせいで、カレリナはゴブリンに攫われて、今頃は肉奴隷にされているだろう」
「お、お前っ!!」
走り出そうとするリリアンを、カワードはまたしてもその肩を掴む。
「だから待てと言っている! いいか? お前の真意はどうあれ結果はこのザマだ。この事が村や村長に知られたら、お前は無論、妹や家族まで良くて追放。最悪縛り首だ」
「なッ!? そ、そんな事がある訳が――」
「無いとは言えないだろ? カレリナは村長の一人娘だ。その娘をそそのかして、一人であの危険な森へと向かわせたのは事実。なぁ~そうだろう、リリアン?」
「クッ……」
リリアンは目の前の状況に、どう対処していいか分からなかった。
いっそ、目の前にいる下劣な男を、持っている鎌で刺し殺してやろうかと思う程に、混乱と恐怖が胸いっぱいに広がる。
自分だけなら縛り首になっても良い。ただ家族が、妹がそんな目に合うのだけはどうしても我慢が出来なかった。
「…………どうすればいい?」
「ハハハ、良く理解してるじゃねーか。実を言うと、俺はもうカレリナはどうでもいい。あんな俺の魅力が分からないバカ女は、ゴブリン相手がお似合いだ」
「お前ッ……」
「そう怖い目でイキるな。それで、だ。前々から思っていたんだが、俺はお前の妹のレイナがとても気に入っている、もう我慢できない程になぁ」
カワードがそう言うが早いか、リリアンはカワードの胸倉をガッツリと掴み持ち上げる。
「だからそういきり立つな。それでここからが本題だ。取引をしよう、俺はレイナを気に入っているが、強引な事はしないと約束しよう。それで俺は俺の実力でレイナを惚れさせてみせる」
「それの何処が取引なんだ?」
「これだから脳筋は嫌だねぇ~。いいか? 俺は『お前がそそのかした事実』を誰にも言わない。その代わりレイナを俺の物にする。ただし『卑怯な手を使わず堂々』とだ。本来なら俺がお前にこんな気を使わなくてもいいんだろうが、いつもお前が傍にいるから邪魔で仕方なかった訳だよ。だから邪魔をするなって話だよ」
リリアンはカワードを、思いっきり突き放す。
「どの口が言う!!」
「お~痛てぇ、ったく馬鹿力め。それにだ、このままカレリナが肉奴隷のままで良いのか? 噂では最後は殺されて食べられるらしいじゃないか? 今ならまだ体は無事だ。助けてやりたいとは思わないのか?」
「そ、それは勿論当たり前だ! 今すぐにでも行って助けてやりたい!」
「だろう? でも現実は不可能だ。俺とお前で行っても、あの数のゴブリンには敵わない。そこでだ、レイナも入れて三人で実力を付けながら、カレリナを救出しないか? 肉奴隷になっても、カレリナなら長く持つだろう」
リリアンは葛藤する。そして決断した。
何があっても「家族を守り親友を助ける道」を。
「……分かった。レイナにも協力を頼んでみる。ただ約束は守れ、もし力ずくでレイナを物にしようとしたら――殺す!!」
「おーおー怖いねぇ~。じゃあ取引は成立だ。出発は早い方が良い、明日の朝ここで会おう」
カワードはそう言うと誰もいないかと周囲を確認し、足早に去って言った。
その様子を呆然と眺めながらも、リリアンの頬を熱い涙がとめどなく流れ落ちる。
「何と言う事になってしまったのだろう……すまないカレリナ、すまないレイナ。全てが終わったらケジメはつけるッ!!」
リリアンはそう言うとガクリと膝から崩れ落ち、地面に両手を付けて泣き始めるのだった。
少し休憩しようと、リリアンは空を気持ちよさげに見上げていた時だった。そんなリリアンの元へ、凶報を届けにカワードがやって来る。
その瞳は凶報を届けに来た者ではなく、むしろ楽しんでいるようでもあった。
「おい、リリアン! お前のせいで俺のカレリナはゴブリン共に拉致られたぞ!」
「な、なんだって!? それは本当の事なのか!!」
カワードにリリアンは掴みかかり、それをカワードは強く払い退けた。
リリアンは思わずその行動で転びそうになるが、即体制を立て直しカワードへと迫る。
「チッ、本当の事だ。この目でシッカリと見たからな。俺は『たまたま』神隠しの森にいたんだが、遠くで悲鳴が聞こえたんだよ。それで急いで駆けつけると、リリアンがゴブリンの集団に担がれ森の奥へ消えていく所だった。その中には一際デカイ奴もいてな、武器も何も無い俺は呆然と見ているしかなかった訳だ」
その話を聞き表情が真っ青になり焦るリリアンは、即座に村長の所へと向かおうとする。
「待て! 早まるな! なぜ俺が最初にお前の所へ来たか分かるか?」
そうカワードは言いながら、リリアンの肩を強く掴み実に卑しく笑いかける。
「……何故だ?」
「お前、湖でカレリナにありえない『依頼をした』な? 丁度そこの岩陰で釣りをしていた俺は全て聞いている」
「依頼? って、妖精の息吹の事か? 馬鹿な、あれは冗談で言っただけの事だろう!!」
「かもしれない。だが現実はお前の戯言のせいで、カレリナはゴブリンに攫われて、今頃は肉奴隷にされているだろう」
「お、お前っ!!」
走り出そうとするリリアンを、カワードはまたしてもその肩を掴む。
「だから待てと言っている! いいか? お前の真意はどうあれ結果はこのザマだ。この事が村や村長に知られたら、お前は無論、妹や家族まで良くて追放。最悪縛り首だ」
「なッ!? そ、そんな事がある訳が――」
「無いとは言えないだろ? カレリナは村長の一人娘だ。その娘をそそのかして、一人であの危険な森へと向かわせたのは事実。なぁ~そうだろう、リリアン?」
「クッ……」
リリアンは目の前の状況に、どう対処していいか分からなかった。
いっそ、目の前にいる下劣な男を、持っている鎌で刺し殺してやろうかと思う程に、混乱と恐怖が胸いっぱいに広がる。
自分だけなら縛り首になっても良い。ただ家族が、妹がそんな目に合うのだけはどうしても我慢が出来なかった。
「…………どうすればいい?」
「ハハハ、良く理解してるじゃねーか。実を言うと、俺はもうカレリナはどうでもいい。あんな俺の魅力が分からないバカ女は、ゴブリン相手がお似合いだ」
「お前ッ……」
「そう怖い目でイキるな。それで、だ。前々から思っていたんだが、俺はお前の妹のレイナがとても気に入っている、もう我慢できない程になぁ」
カワードがそう言うが早いか、リリアンはカワードの胸倉をガッツリと掴み持ち上げる。
「だからそういきり立つな。それでここからが本題だ。取引をしよう、俺はレイナを気に入っているが、強引な事はしないと約束しよう。それで俺は俺の実力でレイナを惚れさせてみせる」
「それの何処が取引なんだ?」
「これだから脳筋は嫌だねぇ~。いいか? 俺は『お前がそそのかした事実』を誰にも言わない。その代わりレイナを俺の物にする。ただし『卑怯な手を使わず堂々』とだ。本来なら俺がお前にこんな気を使わなくてもいいんだろうが、いつもお前が傍にいるから邪魔で仕方なかった訳だよ。だから邪魔をするなって話だよ」
リリアンはカワードを、思いっきり突き放す。
「どの口が言う!!」
「お~痛てぇ、ったく馬鹿力め。それにだ、このままカレリナが肉奴隷のままで良いのか? 噂では最後は殺されて食べられるらしいじゃないか? 今ならまだ体は無事だ。助けてやりたいとは思わないのか?」
「そ、それは勿論当たり前だ! 今すぐにでも行って助けてやりたい!」
「だろう? でも現実は不可能だ。俺とお前で行っても、あの数のゴブリンには敵わない。そこでだ、レイナも入れて三人で実力を付けながら、カレリナを救出しないか? 肉奴隷になっても、カレリナなら長く持つだろう」
リリアンは葛藤する。そして決断した。
何があっても「家族を守り親友を助ける道」を。
「……分かった。レイナにも協力を頼んでみる。ただ約束は守れ、もし力ずくでレイナを物にしようとしたら――殺す!!」
「おーおー怖いねぇ~。じゃあ取引は成立だ。出発は早い方が良い、明日の朝ここで会おう」
カワードはそう言うと誰もいないかと周囲を確認し、足早に去って言った。
その様子を呆然と眺めながらも、リリアンの頬を熱い涙がとめどなく流れ落ちる。
「何と言う事になってしまったのだろう……すまないカレリナ、すまないレイナ。全てが終わったらケジメはつけるッ!!」
リリアンはそう言うとガクリと膝から崩れ落ち、地面に両手を付けて泣き始めるのだった。
0
お気に入りに追加
274
あなたにおすすめの小説
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!
桜井正宗
ファンタジー
辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。
そんな努力もついに報われる日が。
ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。
日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。
仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。
※HOTランキング1位ありがとうございます!
※ファンタジー7位ありがとうございます!
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
S級スキル【竜化】持ちの俺、トカゲと間違われて実家を追放されるが、覚醒し竜王に見初められる。今さら戻れと言われてももう遅い
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
ファンタジー
主人公ライルはブリケード王国の第一王子である。
しかし、ある日――
「ライル。お前を我がブリケード王家から追放する!」
父であるバリオス・ブリケード国王から、そう宣言されてしまう。
「お、俺のスキルが真の力を発揮すれば、きっとこの国の役に立てます」
ライルは必死にそうすがりつく。
「はっ! ライルが本当に授かったスキルは、【トカゲ化】か何かだろ? いくら隠したいからって、【竜化】だなんて嘘をつくなんてよ」
弟である第二王子のガルドから、そう突き放されてしまう。
失意のまま辺境に逃げたライルは、かつて親しくしていた少女ルーシーに匿われる。
「苦労したんだな。とりあえずは、この村でゆっくりしてくれよ」
ライルの辺境での慎ましくも幸せな生活が始まる。
だが、それを脅かす者たちが近づきつつあった……。
スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる
けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ
俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる
だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる