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第四章:凶賊と、人類最高の【ざまぁ】はこちらです

094:青天の霹靂

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 その日、リリアンは何時ものように畑の雑草を取り除いていた。空はどこまでも高く、晴れわたり心地よい風が吹く。
 少し休憩しようと、リリアンは空を気持ちよさげに見上げていた時だった。そんなリリアンの元へ、凶報を届けにカワードがやって来る。
 その瞳は凶報を届けに来た者ではなく、むしろ楽しんでいるようでもあった。

「おい、リリアン! お前のせいで俺のカレリナはゴブリン共に拉致られたぞ!」
「な、なんだって!? それは本当の事なのか!!」

 カワードにリリアンは掴みかかり、それをカワードは強く払い退けた。
 リリアンは思わずその行動で転びそうになるが、即体制を立て直しカワードへと迫る。

「チッ、本当の事だ。この目でシッカリと見たからな。俺は『たまたま』神隠しの森にいたんだが、遠くで悲鳴が聞こえたんだよ。それで急いで駆けつけると、リリアンがゴブリンの集団に担がれ森の奥へ消えていく所だった。その中には一際デカイ奴もいてな、武器も何も無い俺は呆然と見ているしかなかった訳だ」

 その話を聞き表情が真っ青になり焦るリリアンは、即座に村長の所へと向かおうとする。

「待て! 早まるな! なぜ俺が最初にお前の所へ来たか分かるか?」

 そうカワードは言いながら、リリアンの肩を強く掴み実に卑しく笑いかける。

「……何故だ?」
「お前、湖でカレリナにありえない『依頼をした』な? 丁度そこの岩陰で釣りをしていた俺は全て聞いている」
「依頼? って、妖精の息吹の事か? 馬鹿な、あれは冗談で言っただけの事だろう!!」
「かもしれない。だが現実はお前の戯言のせいで、カレリナはゴブリンに攫われて、今頃は肉奴隷にされているだろう」
「お、お前っ!!」

 走り出そうとするリリアンを、カワードはまたしてもその肩を掴む。

「だから待てと言っている! いいか? お前の真意はどうあれ結果はこのザマだ。この事が村や村長に知られたら、お前は無論、妹や家族まで良くて追放。最悪縛り首だ」
「なッ!? そ、そんな事がある訳が――」
「無いとは言えないだろ? カレリナは村長の一人娘だ。その娘をそそのかして、一人であの危険な森へと向かわせたのは事実。なぁ~そうだろう、リリアン?」
「クッ……」

 リリアンは目の前の状況に、どう対処していいか分からなかった。
 いっそ、目の前にいる下劣げれつな男を、持っている鎌で刺し殺してやろうかと思う程に、混乱と恐怖が胸いっぱいに広がる。
 自分だけなら縛り首になっても良い。ただ家族が、妹がそんな目に合うのだけはどうしても我慢が出来なかった。

「…………どうすればいい?」
「ハハハ、良く理解してるじゃねーか。実を言うと、俺はもうカレリナはどうでもいい。あんな俺の魅力が分からないバカ女は、ゴブリン相手がお似合いだ」
「お前ッ……」
「そう怖い目でイキるな。それで、だ。前々から思っていたんだが、俺はお前の妹のレイナがとても気に入っている、もう我慢できない程になぁ」

 カワードがそう言うが早いか、リリアンはカワードの胸倉をガッツリと掴み持ち上げる。

「だからそういきり立つな。それでここからが本題だ。取引をしよう、俺はレイナを気に入っているが、強引な事はしないと約束しよう。それで俺は俺の実力でレイナを惚れさせてみせる」
「それの何処が取引なんだ?」
「これだから脳筋は嫌だねぇ~。いいか? 俺は『お前がそそのかした事実』を誰にも言わない。その代わりレイナを俺の物にする。ただし『卑怯な手を使わず堂々』とだ。本来なら俺がお前にこんな気を使わなくてもいいんだろうが、いつもお前が傍にいるから邪魔で仕方なかった訳だよ。だから邪魔をするなって話だよ」

 リリアンはカワードを、思いっきり突き放す。

「どの口が言う!!」
「お~痛てぇ、ったく馬鹿力め。それにだ、このままカレリナが肉奴隷のままで良いのか? 噂では最後は殺されて食べられるらしいじゃないか? 今ならまだ体は無事だ。助けてやりたいとは思わないのか?」
「そ、それは勿論当たり前だ! 今すぐにでも行って助けてやりたい!」
「だろう? でも現実は不可能だ。俺とお前で行っても、あの数のゴブリンには敵わない。そこでだ、レイナも入れて三人で実力を付けながら、カレリナを救出しないか? 肉奴隷になっても、カレリナなら長く持つだろう」

 リリアンは葛藤する。そして決断した。
 何があっても「家族を守り親友を助ける道」を。

「……分かった。レイナにも協力を頼んでみる。ただ約束は守れ、もし力ずくでレイナを物にしようとしたら――殺す!!」
「おーおー怖いねぇ~。じゃあ取引は成立だ。出発は早い方が良い、明日の朝ここで会おう」

 カワードはそう言うと誰もいないかと周囲を確認し、足早に去って言った。
 その様子を呆然と眺めながらも、リリアンの頬を熱い涙がとめどなく流れ落ちる。

「何と言う事になってしまったのだろう……すまないカレリナ、すまないレイナ。全てが終わったらケジメはつけるッ!!」

 リリアンはそう言うとガクリと膝から崩れ落ち、地面に両手を付けて泣き始めるのだった。
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