上 下
91 / 486
第四章:凶賊と、人類最高の【ざまぁ】はこちらです

090:招かれざる者

しおりを挟む
 流は風呂で汗を流し三階へ戻ると、そこには大きなモニターのような物が正面に置かれている。
 このモニターのような物は、こっちの世界で仕入れた絵を拡大表示する魔具を、参が自前の式神と術式を使い、モニターのように改造した物だった。
 現在は屋敷の外を映しており、向かいの建物の影からこちらを伺う賊の姿がハッキリと見えるのがなんとも滑稽で笑える。
 
 それを食事をしながらゆったりと、今後の計画書を見ながら鑑賞をする事とする。

「本日メインは、異世界産の舌平目に近い味の岩魚のムニエルと、その後は赤色鳥の燻製の良いのが手に入りましたので、そちらのソテーを合わせてお楽しみください」

 一口食べると、流の目が〝クワッ〟と見開く。

「ふむ……シェフを呼んでくれたまえ」

 メイドが厨房へ赴き、まもなくしてシェフが入室する。

「旦那様お呼びでしょうか?」
「実に……いい仕事だ。シェフの熱い拘りを感じるこのソース。そして燻製された香を素材に合う様に実によくマイルドに抑えつつ、肉本来の旨味が凝縮されたこの鶏肉を合わせたのは妙技とも言えよう。見事だ! 私専属のシェフに任命する」
「ハッ、ありがたき幸せ」

(なぁ、シ~ンちゃん。僕ら何時までこれに付き合わないかんの?)
(フム。飽きるまで、じゃないでしょうか……)
((…………))

 元々流の専属シェフを、さらに専属認定した悪者ロールプレイに、壱と参がちょい引きながら見守っていると、賊に動きが出る。
 どうやら五人で屋敷に侵入するようだった。

「フム。古廻様、お食事中失礼致します。賊に動きがあったようです」
「クックック、ついに来たか。モニターを回せ!」

(目の前に大きいのがあるんやけど……)
(……それは言わない約束かと)

 流はおもむろに「リー〇ルのブラックシリーズ」のワイングラスに、異世界産のスパイシーな赤ワインを三分の一程を入れた物を片手に持って、一際豪華な黒い革張りの椅子へと座る。
 無論膝の上には猫が……いなかったので、代わりのモフモフを乗せている所が抜かりが無い。

「あの~お客人? なぜボクを膝の上に乗せて、撫でながらワインを飲んでいるのです?」

 見ると猫の代わりに、因幡が膝上サイズになっており、どこかの垂れてる「ぬいぐるみ」のような恰好で乗っかっていた。

「そこはニャ~、もしくはゴロゴロと喉を鳴らすんだぞ?」
「良く分からないけど、分ったのです。にゃ~」

 ウサギなのに猫の声を出す因幡に、愕然と見守るメイド達。

(因幡……おまえっちゅう奴はウサギのプライドが無いんかい!?)
(フム。にゃ~ってあんた……)

 そうこうしていると、賊は壁を乗り越え窓際に到着する。
 仕草は素人丸出しだが、斥候として使い捨てならばこんなものかと思いながら、全員画面を見守る。


◇◇◇


「おい、窓の向こうにメイド達が荷物を運んでいるぞ……」
「あれは……マジかよ。透明なガラス? 製品を運んでいるぞ」
「それだけじゃねぇ、見ろよ。見た事もない綺麗な柄の大きな壺もある」
「待て、それにあれは……金か!? 全部金貨かあれは……」

 メイドが二階へ運んでいた物は、賊から見たら財宝の類であった。

「今すぐ奪いてえ……」
「まてまて、今日は下見だけだ、が……」

 そんな時だった、近くの窓が開け放たれて中の声が聞こえて来る。

「空気の入れ替えはこまめになさい。それでは貴重品は全て、二階と三階へ移動が終わりましたら報告を」
「はい、承知しましたセバス様。大量の金貨は如何しましょう?」
「そちらは旦那様が常にお持ちになるとの事でしたので、この都市で入手した魔具の鞄に入れておきなさい」
「承知しました」

 魔具の鞄――説明するまでも無く、この鞄は見た目の数十倍は余裕で物が入る鞄である。
 それは容量が小さくてもとても高額で取引される夢アイテムだった。

「聞いたか? 魔具の鞄アイテムバッグまであるそうだぜ?」
「とんでもねぇ野郎だな、ますますぶっ殺したくなってきた」
「そう、はやるな。それにせっかくのお誘いだ」

 偵察隊のまとめ役が親指で開いた窓を指す。
 セバス達使用人は全員上階へと行ったのか、姿が見えない。

「誰もいない今がチャンスだろ? 少しばかり頂いて行くぞ。見張りに二人、後は付いて来い」

 賊は窓を超えて屋敷に侵入をすると、奥の部屋が異様に明るいのを確認する。
 侵入に成功した賊達が好奇心に駆られ近づくと、そこには溢れんばかりの金塊の山が三つあった。

「すっげぇ……」
「並みの金持ちってレベルじゃねーぞ……」
「お、お前ら正気に戻れ。まずは俺達の分で五本確保して、アジトに一本持って行くぞ。これを見ればキルトさんも信じるだろう」

 偵察部隊は金のインゴッドを六本確保すると、暗闇に紛れて転げるように逃走するのだった。
 それが自分達の最後の仕事とも知らずに、その目は欲に塗れ、館の主が無残に死ぬ未来を想像して心が躍る。

 そんな「圧倒的に優位」な自分達が、これで最後の仕事だなどと思わずに……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

S級スキル【竜化】持ちの俺、トカゲと間違われて実家を追放されるが、覚醒し竜王に見初められる。今さら戻れと言われてももう遅い

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
ファンタジー
 主人公ライルはブリケード王国の第一王子である。  しかし、ある日―― 「ライル。お前を我がブリケード王家から追放する!」  父であるバリオス・ブリケード国王から、そう宣言されてしまう。 「お、俺のスキルが真の力を発揮すれば、きっとこの国の役に立てます」  ライルは必死にそうすがりつく。 「はっ! ライルが本当に授かったスキルは、【トカゲ化】か何かだろ? いくら隠したいからって、【竜化】だなんて嘘をつくなんてよ」  弟である第二王子のガルドから、そう突き放されてしまう。  失意のまま辺境に逃げたライルは、かつて親しくしていた少女ルーシーに匿われる。 「苦労したんだな。とりあえずは、この村でゆっくりしてくれよ」  ライルの辺境での慎ましくも幸せな生活が始まる。  だが、それを脅かす者たちが近づきつつあった……。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!

桜井正宗
ファンタジー
 辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。  そんな努力もついに報われる日が。  ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。  日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。  仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。 ※HOTランキング1位ありがとうございます! ※ファンタジー7位ありがとうございます!

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。  応援していただけたら執筆の励みになります。 《俺、貸します!》 これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ) ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非! 「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」 この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。 しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。 レベル35と見せかけているが、本当は350。 水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。 あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。 それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。 リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。 その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。 あえなく、追放されてしまう。 しかし、それにより制限の消えたヨシュア。 一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。 その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。 まさに、ヨシュアにとっての天職であった。 自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。 生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。 目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。 元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。 そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。 一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。 ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。 そのときには、もう遅いのであった。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

処理中です...