上 下
50 / 486
第二章:偉大なる称号

049:コトワリを体現する存在

しおりを挟む
「〆:それ以上の古廻様への暴言、万死に値するぞえ? 今より一言でも腐った言葉を発すれば、その矮小な存在を滅すると知れ――」

 そう〆が魂も凍てつく言葉を発した瞬間、店内は水を打ったように鎮まる。

「〆:古廻様、大変失礼をいたしました。まさかあのような愚かな事を言い出すとは思わず、私の落ち度にてございます……」
「い いや、気にするな。一番驚いたのはお前の変わりようだがな」
「〆:っ!! 恥ずか……しいです……」

 そう言うと〆は器用にひな人形の頭を下に向けた。
 するといつの間に復活したのか壱が同意する。

「壱:まったくや、つまらんミスしよってからに。だから言うとんやないか、兄より優れた妹などおらへ――ぎゃあああああ!!!!」

 見ると壱は口と脳天に金色の針が打ち込まれていた。

「まあなんだ、口は悪いが愛すべき骨董達じゃないか……たまらん! お前らもそのうち愛でつくしてやるから楽しみにしとけよ?」

 〆は遠い目をしたような口調で一言呟く。「口は災いの元」って言うのは本当なんですからと……。

「そう言えば〆。ふと思ったんだがお前はここの番頭なんだろ? じゃあ自由に解放条件を変更出来るんじゃないのか?」

 そう誰もが思う事を聞いてみるが、〆は折り紙の首を器用に横にふる。

「〆:はい、そう出来たら良かったのですが、異界を超えるには相応の神の力が必要になります。そしてそれらは一柱一つと『コトワリ』により定められています。ですので、私個人では他より大きいですが、一つの力しかありません。
「理? 以前も言っていたが、それは何なんだ?」
「〆:そうですね、例えば……てい」

 〆は一言「てい」と言いながらひっくり返っている壱を蹴り飛ばす。するとヒラヒラと下に落ちていった。

「〆:これが理にございます。重力に魅かれ落ちる魂もまた理、空を飛ぶ鳥も理、光があれば闇もまた同時にあるのも理、そしてそこの『無様にひっくりかえってるカエル』もまた理にてございます」

 それはお前がやったんじゃないか! と流は思ったが、口には出さない優しがある漢に隙は無かった。

「つまり自然の摂理や物理現象みたいなものか? そしてそれを無視したのが例の人形って訳か……」

 なるほど、と流は納得して確信に迫る。

「……と言うと、一つの物に対して一柱と言う事では無く、許可をするのに一人一票みたいな感じで、何かを持って行くには一定数の許可がいると?」

「〆:その通りでございます。異界を超えると言う理を無視した現象を、神の力の一つとして行使する事で可能となります。それを無視して渡る事は可能ですが、双方の世界に多大な被害が出る可能性があります。ですので、忌々しいのですが、この愚物ぐぶつ共の協力が必要になってしまうのです。

「まあ、別に〆のせいでは無いのだから仕方ないさ。それより、そこのひっくりカエルが痙攣けいれんしたままだけど、大丈夫なのか?」

 その後、復活した壱を交え、三人で打ち合わせをしてから異世界へと旅立つ用意をするのだった。
 今回持って行く荷物をまとめ、いざ異超門を開錠しようとすると、奥から因幡がトテトテと走って来る。

「お客じーん。もう行ってしまうのです? 寂しいのです……」
「またすぐに来るよ、今度あのニンジンを作っている村へ行く事になったから、その時にまた沢山買ってくるからな?」
「わ~本当なのです? 楽しみだな~」

 そう言うと因幡はピョンと一回跳ねた。

「あ、そうなのです。これを持って行って欲しいのです」
 そう言うと因幡は、背中に背負っていた唐草模様の風呂敷を流に渡す。

「これは?」
「ボクが作ったおにぎりなのです。温泉に入って、お腹減ってるかと思って作ったのです」
「お~! 因幡は気が利くうさぎさんですね。でも、よくそのモコモコのお手々で握れるなぁ」
「えへへなのです。ボクは直接握っているのではないのですよ? こんな風に作りたいな~って思うと作れる物が厨房にあるのです」
「そうなのか? 色々不思議すぎる場所だなここは……さてと」

 流は荷物を背負いなおすと、店内を見て挨拶をする。

「それじゃ行ってくる、皆またな!」
「〆:古廻様なら、必ず成し遂げると確信しております。ご武運を」
「お客人行ってらっしゃ~い。無事に帰って来るのですよ~」

 流は美琴を腰にき、片手を上げながら異界への門を超えて行く。




 新しく記憶したポイントは正常に認識したらしく、異超門は流が先程出発した屋敷の中に繋がっていた。
 落ち着いて良く見ると、この部屋は屋敷の食堂のようで、長いテーブルがそのまま置かれていた。

「さてと……今はまだ日も高いな。異怪骨董やさんと、こっちの世界では時間の流が違うのか……?」
 
 屋敷の出口へ向かう。行く前に放置したメリサの姿は無く、広々とした空間だけが広がっていた。
 そこで流は健康手帳の中の人? の言葉を思い出す。

「時間もまだ少しあるようだし、剣筋をもう一度浚っておくか。美琴、おかしな所があれば教えてくれよ?」

 腰の美琴はふるりと震えそれに答える。

「まずは受けからの三連っと……」

 これまで使った業を順にさらって行く。その見事な剣舞のような動きに、もし観客が居たら息を呑んだだろう。
 そのまま続けると、不思議とこのエントランスホールに立ち込めていた、雑草が手足に絡まるが如く、鬱蒼うっそうとした淀んだ気が吹き飛んだかのように感じる。

 そのまま他の業や他の型との連携を上げる練習をしてから、冒険者ギルドへと流は向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

S級スキル【竜化】持ちの俺、トカゲと間違われて実家を追放されるが、覚醒し竜王に見初められる。今さら戻れと言われてももう遅い

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
ファンタジー
 主人公ライルはブリケード王国の第一王子である。  しかし、ある日―― 「ライル。お前を我がブリケード王家から追放する!」  父であるバリオス・ブリケード国王から、そう宣言されてしまう。 「お、俺のスキルが真の力を発揮すれば、きっとこの国の役に立てます」  ライルは必死にそうすがりつく。 「はっ! ライルが本当に授かったスキルは、【トカゲ化】か何かだろ? いくら隠したいからって、【竜化】だなんて嘘をつくなんてよ」  弟である第二王子のガルドから、そう突き放されてしまう。  失意のまま辺境に逃げたライルは、かつて親しくしていた少女ルーシーに匿われる。 「苦労したんだな。とりあえずは、この村でゆっくりしてくれよ」  ライルの辺境での慎ましくも幸せな生活が始まる。  だが、それを脅かす者たちが近づきつつあった……。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!

桜井正宗
ファンタジー
 辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。  そんな努力もついに報われる日が。  ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。  日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。  仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。 ※HOTランキング1位ありがとうございます! ※ファンタジー7位ありがとうございます!

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。  応援していただけたら執筆の励みになります。 《俺、貸します!》 これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ) ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非! 「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」 この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。 しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。 レベル35と見せかけているが、本当は350。 水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。 あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。 それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。 リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。 その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。 あえなく、追放されてしまう。 しかし、それにより制限の消えたヨシュア。 一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。 その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。 まさに、ヨシュアにとっての天職であった。 自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。 生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。 目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。 元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。 そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。 一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。 ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。 そのときには、もう遅いのであった。

処理中です...