上 下
29 / 486
第二章:偉大なる称号

028:小さなバッグ

しおりを挟む
 メリサがお茶を用意してから退出する。仕事が早く卒がないのが有能だと分かる振る舞いだった。
 紅茶のような香りと味がするお茶を一口飲み、その後でまずは新潟の燕三条でも有名な包丁セットを取り出す。

「これは……なんと言う美しいナイフだ……」

 ファンも横で「すげぇ」と絶句してる。

「そちらは普段使いの使用に適した物ですね。堅い物じゃなければかなり切れますよ」
「そうだろう、これは凄い出来だ。芸術品としても通用しそうだ。それを普段使いとはな」
「それにこれは柄も金属と言うか、全て一つの金属から削って出来ているのか? 刃に浮かぶ切り株のような模様も凄いの一言だ」
「さらに言うと錆びませんよ、それ」
「なんだと!? そんな事が出来るのか……最早飾っておくのが正しい使い方としか思えないぞ」

 いやそこまでは、と思う流だったが、この世界の技術水準を知らない事を思い出し黙っている事する。

「次は伊万里焼の器と皿になりますね。この艶やかな色使いと模様が特徴で、このタイプなら魚料理等を盛るのがオススメですね。この伊万里の特徴は――」

 伊万里焼の特徴を得意げに語る機会にウキウキしつつも、今は商談の最中なので自重した……と、思っているのは本人だけだったが、ここにはそう言うのが好きな者ばかりなので問題なかった。
 説明を聞き終わったバーツは早速皿を手に取って観察し始める。

「これは陶器か? 絵具でも塗ってある……違う! 皿自体に絵が焼き付いてるのか!! 器にこれほど精工な模様が書けるなんて驚きだ。今ウチと言うか、この国で扱っている殆どの陶器は灰色っぽいのが普通でな、それが白い程高級品として扱われる。それがこれはどうだ……絵が書いてあるぞ」
「俺もナガレと会った時は行商の帰りだったんだけどよ、その俺もあちこち行商して回ってるが、これほどの品は見た事がねーぜ」

(お! 意外と反応がいいぞ。この手の技術はまだ無いのか? あまり最初から色々出すのも考え物だしな。なら次ので今回は終わりにするか)

「因みにガラスと言うのを知ってますか?」
「うむ、知っとるぞ。あれだろ?」
 
 ギルドマスターが指した方向を見ると確かにソレはあった、窓にはめたガラス。つまり窓ガラスが。
 しかしそのガラスは外の景色は良く見えるものの、濁っていて気泡まであり、透明さとはかけ離れていた。

(よっし! あれが基準だな、ふはは、驚けよ~)

「ではギルドマスター、これを見て下さい」

 流は一つの箱を取り出すと、中からクリスタルガラス製品を取り出す。

「なっ!? なんだこれは!! おい、こ、これは……まさかッ!!!!!!」
「嘘だろ……なんつー透明さだよ……」

 二人とも狼狽しているようで、その後固まっていた。
 箱を開け中から出て来たのは、全体的に細めのワイングラスで、バラの蕾がすりガラス状に加工された職人技が光る一品だった。

「これはクリスタルガラスと言ってですね、特殊な方法で加工した物なんですよ。それで作ったのがこのワイングラスですね。どうです、特にステムとボウルの間の部分の……ココ、バラの蕾が開く寸前のような形がまたいい出来でしょう?」
「いい出来か、だと? 冗談ではないぞ! こんな物は王宮でも持ってないはずだ! 凄まじい、凄まじすぎる透明さと意匠だ!! 国宝選定に選ばれても不思議じゃあない」

(いやいやいや、そこまで大げさな~ははは……え……マジで?)

「ナガレ……お前はマジでスゲー奴だったんだな……」

(ファン、お前もかよ!)

 あまりの食いつきに、流石の流も引き気味になる。

「ど、どうでしょうかね。こんな感じのを売りたいと思うんですが?」
「売れるも何も是非売ってくれ!! これは凄い事になるぞ!!」

 飄々ひょうひょうとした印象だったが、どうやらギルドマスターは熱い人だったらしい。

「三点共に精工な作りと形は圧巻だな、ナガレの国ではこんな物が普通に使われているのか?」
「ええ、少し値が張りますが結構流通はしている感じですね」
「むぅ……恐ろしい技術力の国だな。戦になったら勝てる気がせんわ」
「いやいや、海の向こうのとても遠い国ですから、それは絶対に無いので安心してください。寧ろ戦を嫌う国ですから、戦より交易による経済的な繋がりを大事にする感じですね」
「平和が文化を育てる……か。まあ戦ばかりしているこの国や、周辺国とは大違いだな」

(この世界は戦が多いのか? それは気を付けて立ち回らないとな)

「ところでナガレの国は何と言うんだ? それに海外から来たと言っていたがこの近くならオルドラの港か?」

 適当に設定を考えて居た流は、その問いに内心冷や汗を流す。
 そしてこれまた適当に、真実と嘘の虚実を混ぜて話すのだった。

「国の名前は日本と言います。海洋国家で島国なんですよ。場所は多分見つける事は困難ですね。特殊な方法でしか場所が分からないので、私は道具があるので行けますが、それが無いと海で迷子になりますね。そんな俺の故郷は色々な品を他国と取引していましてね、それをこちらの国とも交易出来たらいいなと思い、海を渡って来たんですよ。俺が着いた港は多分そのオルドラと言う処だと思うのですが、ちょっとしたトラブルがありましてね。急遽その町を出たから良く分かっていないんですよ」

「なるほど、ドーレ伯か……あそこで商売をしようと思ったら何を要求されるか分かったものでは無いからな。こちらへ来て正解だったぞ? ウチとしてもナガレのような商人と繋がりが出来て本当に良かったと思っておる」

(よく分からんが、ドーレ伯ナイスアシスト! でもそんな所へ行かなくて良かったな)

「それはありがとうございます。ではお近づきの印として、クリスタルガラスのこのワイングラスをセットでギルドマスターへプレゼントしますよ」

 その言葉を聞いたバーツは、目を見開き飛び上がる勢いで立ち上がる。

「それは本当か!! こんな凄い物をしかも二つもだと!? うおおお生きてて良かった!!」
「やったなバーツのオヤジ! 羨ましいぜ~」

 バーツはウットリとワイングラスを見つめたまま「素晴らしい、美しい」とブツブツ言いながら動かなくなった。
 知らない人が見れば通報待ったなしの、怪しいオヤジがそこにいた。憲兵さんアイツです!

「ファンにはそのうち面白い物が手に入ったら何かやるよ」
「マジかよ! 楽しみにしてるからな!」

「さて、ギルドマスター。そろそろ戻って来てくださいよ」
「お? おお、悪い悪い。あまりの出来事に我を忘れてしまったようだ……」
「それで今回のこの品なんですが、どの位で売れますかね?」
「うーむ。売れるのは確実なんだが、このような出来の品は初めてだから少し待ってくれないか? 担保金としてセット物を含め、三点で金貨十枚を出そう」

(確か金貨一枚で十万円相当だったか? って事は百万円!? うそーん)

「何を驚く? それでも買い手は恐らく山のように出るはずだ。それでも全く少ない程だぞ? 一応形にしただけだからな。それとこれを持っていてくれ」
「オヤジ、それはまた思い切った物を……」

 バーツが出した物は黒い革製で、縦・横十センチの小さなバッグだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!

桜井正宗
ファンタジー
 辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。  そんな努力もついに報われる日が。  ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。  日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。  仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。 ※HOTランキング1位ありがとうございます! ※ファンタジー7位ありがとうございます!

平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。  応援していただけたら執筆の励みになります。 《俺、貸します!》 これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ) ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非! 「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」 この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。 しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。 レベル35と見せかけているが、本当は350。 水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。 あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。 それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。 リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。 その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。 あえなく、追放されてしまう。 しかし、それにより制限の消えたヨシュア。 一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。 その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。 まさに、ヨシュアにとっての天職であった。 自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。 生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。 目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。 元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。 そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。 一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。 ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。 そのときには、もう遅いのであった。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

S級スキル【竜化】持ちの俺、トカゲと間違われて実家を追放されるが、覚醒し竜王に見初められる。今さら戻れと言われてももう遅い

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
ファンタジー
 主人公ライルはブリケード王国の第一王子である。  しかし、ある日―― 「ライル。お前を我がブリケード王家から追放する!」  父であるバリオス・ブリケード国王から、そう宣言されてしまう。 「お、俺のスキルが真の力を発揮すれば、きっとこの国の役に立てます」  ライルは必死にそうすがりつく。 「はっ! ライルが本当に授かったスキルは、【トカゲ化】か何かだろ? いくら隠したいからって、【竜化】だなんて嘘をつくなんてよ」  弟である第二王子のガルドから、そう突き放されてしまう。  失意のまま辺境に逃げたライルは、かつて親しくしていた少女ルーシーに匿われる。 「苦労したんだな。とりあえずは、この村でゆっくりしてくれよ」  ライルの辺境での慎ましくも幸せな生活が始まる。  だが、それを脅かす者たちが近づきつつあった……。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

処理中です...