上 下
62 / 70
明日香お嬢様の楽しい日常

061::鴨川と亀

しおりを挟む
「で、善次。説明してくれるんだろうな?」
「そうですね……立ち話もなんですので、お嬢様散歩がてら話しをいたしましょうか」
「ちょっと悪魔執事。私を散歩するような言い方やめてくれる?」
「分かった。んじゃ、コイツを散歩しながら話そうぜ」
「もっとダイレクトに言われたし!? 貴方達ねぇ、言い方ってものがあるでしょう! ……たく、いいわよ。散歩してあげるから付いておいでなさい」
「「負けず嫌い……」」
「五月蝿いです。さ、行くわよ!」

 善次と顔を見合わせヤレヤレと肩を上げながら歩く。
 このあたりは高級住宅街らしく、閑静な空間が続くがお嬢様は気に入らないらしい。

「……また見ている。右の壁の向こうの飾り窓の影。それに左前方の植え込みの影。前方の家の監視カメラからも視線を感じる。ハァ~嫌になるよホント」

 正解だ。確かにそこから確実に見られている。が、覗いているのは素人のものだ。
 とは言え、普通なら偶然見つけることも出来るかもだが、カメラの向こう側までは分かるわけがねぇ。

 唯一分かるとしたら、電子機器だろうが漏れ出る〝気配〟という、俺らクラスじゃねぇと分からない、カメラの向こう側にいる生命の微弱な波動を感じることだが……。

「……よくわかったな。しかしカメラまでは気のせい・・・・じゃねぇのか?」
「ふん。貴方みたいな変態さんでも分からない事があるの?」
「変態さんはよけいだが、ゼヒご教授ねがいたいものだね」

 明日夏は得意げに「ふふん」と言った後、すぐに顔を曇らせて話す。

「ここでドヤって話せれば気持ちがいいのでしょうけれど、それがさ……よく分からないのよ」
「分からない? それはどういう事だよ」
「言葉どおりよ。ある日突然、そういうのが感じられるようになったの」

 そう言いながら、その言葉を否定するように首を数度振りながら続ける。

「いえ違うかな。変態さんも知っての通り、あの〝禍々しい生きている鳥居に触れた〟時からかな」

 次の言葉を続けず、下を向いたまま口を閉ざす明日夏。
 やがて閑静な住宅街を抜けると、まるで別世界と思える人の往来を目にする。
 古都を愛でるためにやって来た観光客が楽しげに歩き、修学旅行生はしおりを片手に予定をこなす。

 そんな空間に一歩足を踏み入れた瞬間、明日夏の硬かった表情はしっとりと柔らかくなる。
 丁度正面に雰囲気のいいカフェが見えた。
 楓の木が真っ赤に染まった下にオープンテラスがあり、店員が片付けているテーブルが一つだけあるようだ。
 それを見た明日夏は先程ほどの陰鬱いんうつな表情から一転し、くるりと振り向くと楽しげに話す。

「ねぇ変態さん。あそこでお茶しましょうよ! いいでしょ善次?」
「承知いたしました。それではお席を準備させていただきますので、少々お待ちを」

 流れる二人の行動に思わず「お、ぉぅ」とうなずく。
 それがおかしかったのか、「変態さんかわいい」とクスクス笑いやがる。
 
「ったく、何がおかしいんだよ……って、待てどこに連れて行くんだよ!?」
「いいから早く! 善次あいつが来ないうちに、ね?」

 突然右手を引かれ、旅行者達の間へと引き込まれる。

「お、おい。どこへ行くんだ?」
「いいからいいから。さ、行こうよ」

 仕方ねぇと思いながら、左手で懐へと手を滑らす。
 軽く印を切り、式神を起動させたと同時に胸元から滑り落ちる人形ひとがた
 それを尻目に明日夏に腕を引かれ、そのまま人の波を軽快に進む。
 
 流石は京娘といったところか。
 人混みの避け方が、まるで清流を流れる笹のように人をヌルリと避け進む。

「へぇ……やるじゃん。それにしても」

 先程とは違い、いきいきとした表情と息遣い。
 まるで羽でも生えたんじゃないかと思うほど、生命力に満ち溢れた背中に思わず見惚れてしまうほどだ。

「ふぅ~。つ~いたっと! さ、ここなら邪魔は入らないわ! 変態さん、あんた・・・の事を教えてちょうだい!!」
「猫被ってたうえに、口調まで変わりやがって……。それに質問していたのは俺の方だったはずだんだけどな」

 ここは鴨川の上流にある、〝鴨川デルタ〟と呼ばれるちょっとした公園だ。
 岸と岸を〝出町の飛び石〟といわれるモノで渡れるようになっており、そこにある亀の形をした大石の上に、なぜかふんぞり返える明日夏。
 右人差し指をビシリと向け、俺へと左眉を上げながら質問し始める。困ったものだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

護国神社の隣にある本屋はあやかし書店

井藤 美樹
キャラ文芸
【第四回キャラ文芸大賞 激励賞頂きました。ありがとうございますm(_ _)m】  真っ白なお城の隣にある護国神社と、小さな商店街を繋ぐ裏道から少し外れた場所に、一軒の小さな本屋があった。  今時珍しい木造の建物で、古本屋をちょっと大きくしたような、こじんまりとした本屋だ。  売り上げよりも、趣味で開けているような、そんな感じの本屋。  本屋の名前は【神楽書店】  その本屋には、何故か昔から色んな種類の本が集まってくる。普通の小説から、曰く付きの本まで。色々だ。  さぁ、今日も一冊の本が持ち込まれた。  十九歳になったばかりの神谷裕樹が、見えない相棒と居候している付喪神と共に、本に秘められた様々な想いに触れながら成長し、悪戦苦闘しながらも、頑張って本屋を切り盛りしていく物語。

ま性戦隊シマパンダー

九情承太郎
キャラ文芸
 魔性のオーパーツ「中二病プリンター」により、ノベルワナビー(小説家志望)の作品から次々に現れるアホ…個性的な敵キャラたちが、現実世界(特に関東地方)に被害を与えていた。  警察や軍隊で相手にしきれないアホ…個性的な敵キャラに対処するために、多くの民間戦隊が立ち上がった!  そんな戦隊の一つ、極秘戦隊スクリーマーズの一員ブルースクリーマー・入谷恐子は、迂闊な行動が重なり、シマパンの力で戦う戦士「シマパンダー」と勘違いされて悪目立ちしてしまう(笑)  誤解が解ける日は、果たして来るのであろうか?  たぶん、ない! ま性(まぬけな性分)の戦士シマパンダーによるスーパー戦隊コメディの決定版。笑い死にを恐れぬならば、読むがいい!! 他の小説サイトでも公開しています。 表紙は、画像生成AIで出力したイラストです。

【完結】死に戻り8度目の伯爵令嬢は今度こそ破談を成功させたい!

雲井咲穂(くもいさほ)
恋愛
アンテリーゼ・フォン・マトヴァイユ伯爵令嬢は婚約式当日、婚約者の逢引を目撃し、動揺して婚約式の会場である螺旋階段から足を滑らせて後頭部を強打し不慮の死を遂げてしまう。 しかし、目が覚めると確かに死んだはずなのに婚約式の一週間前に時間が戻っている。混乱する中必死で記憶を蘇らせると、自分がこれまでに前回分含めて合計7回も婚約者と不貞相手が原因で死んでは生き返りを繰り返している事実を思い出す。 婚約者との結婚が「死」に直結することを知ったアンテリーゼは、今度は自分から婚約を破棄し自分を裏切った婚約者に社会的制裁を喰らわせ、婚約式というタイムリミットが迫る中、「死」を回避するために奔走する。 ーーーーーーーーー 2024/01/13 ランキング→恋愛95位  ありがとうございます! なろうでも掲載⇒完結済 170,000PVありがとうございましたっ!

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

『別れても好きな人』 

設樂理沙
ライト文芸
 大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。  夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。  ほんとうは別れたくなどなかった。  この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には  どうしようもないことがあるのだ。  自分で選択できないことがある。  悲しいけれど……。   ―――――――――――――――――――――――――――――――――  登場人物紹介 戸田貴理子   40才 戸田正義    44才 青木誠二    28才 嘉島優子    33才  小田聖也    35才 2024.4.11 ―― プロット作成日 💛イラストはAI生成自作画像

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

あやかし居酒屋「酔」

キャラ文芸
|其処《そこ》は人に似て、人とは異なる者たちが住まう世界。ある日、気づくと|其処《そこ》にいた。 “綾”という名前以外、自身の記憶を全て失くして。記憶も、|還《かえ》る場所も失くした綾を鬼の統領・|羅刹《らせつ》は「異界の迷い人」とそう呼んだ。恐ろし気な肩書と裏腹に面倒見のいい羅刹に保護され、なんだかんだですっかり世界に馴染んだ綾は店をはじめた。その名も あやかし居酒屋「|酔《すい》」。個性豊かでギャップ強めのあやかしたち相手に今日も綾は料理を振る舞う。◆料理はおつまみ、ガッツリごはん系メイン。繋がりのある話もありますが、単体でもサクっと読めるのでお好きなメニュー部分だけでもお読み頂けます!ひとまず完結です。……当初の予定まで書ききったのですが、肉祭りや女子会も書きたいのでストックができればいつか復活する、かも?(未定)です。

イケメンが好きですか? いいえ、いけわんが好きなのです。

ぱっつんぱつお
キャラ文芸
不思議な少女はとある国で大きな邸に辿り着いた。 なんとその邸には犬が住んでいたのだ。しかも喋る。 少女は「もっふもっふさいこー!」と喜んでいたのだが、実は犬たちは呪いにかけられた元人間!? まぁなんやかんやあって換毛期に悩まされていた邸の犬達は犬好き少女に呪いを解いてもらうのだが……。 「いやっ、ちょ、も、もふもふ……もふもふは……?」  なろう、カクヨム様にも投稿してます。

処理中です...