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明日香お嬢様の楽しい日常
061::鴨川と亀
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「で、善次。説明してくれるんだろうな?」
「そうですね……立ち話もなんですので、お嬢様を散歩がてら話しをいたしましょうか」
「ちょっと悪魔執事。私を散歩するような言い方やめてくれる?」
「分かった。んじゃ、コイツを散歩しながら話そうぜ」
「もっとダイレクトに言われたし!? 貴方達ねぇ、言い方ってものがあるでしょう! ……たく、いいわよ。散歩してあげるから付いておいでなさい」
「「負けず嫌い……」」
「五月蝿いです。さ、行くわよ!」
善次と顔を見合わせヤレヤレと肩を上げながら歩く。
このあたりは高級住宅街らしく、閑静な空間が続くがお嬢様は気に入らないらしい。
「……また見ている。右の壁の向こうの飾り窓の影。それに左前方の植え込みの影。前方の家の監視カメラからも視線を感じる。ハァ~嫌になるよホント」
正解だ。確かにそこから確実に見られている。が、覗いているのは素人のものだ。
とは言え、普通なら偶然見つけることも出来るかもだが、カメラの向こう側までは分かるわけがねぇ。
唯一分かるとしたら、電子機器だろうが漏れ出る〝気配〟という、俺らクラスじゃねぇと分からない、カメラの向こう側にいる生命の微弱な波動を感じることだが……。
「……よくわかったな。しかしカメラまでは気のせいじゃねぇのか?」
「ふん。貴方みたいな変態さんでも分からない事があるの?」
「変態さんはよけいだが、ゼヒご教授ねがいたいものだね」
明日夏は得意げに「ふふん」と言った後、すぐに顔を曇らせて話す。
「ここでドヤって話せれば気持ちがいいのでしょうけれど、それがさ……よく分からないのよ」
「分からない? それはどういう事だよ」
「言葉どおりよ。ある日突然、そういうのが感じられるようになったの」
そう言いながら、その言葉を否定するように首を数度振りながら続ける。
「いえ違うかな。変態さんも知っての通り、あの〝禍々しい生きている鳥居に触れた〟時からかな」
次の言葉を続けず、下を向いたまま口を閉ざす明日夏。
やがて閑静な住宅街を抜けると、まるで別世界と思える人の往来を目にする。
古都を愛でるためにやって来た観光客が楽しげに歩き、修学旅行生はしおりを片手に予定をこなす。
そんな空間に一歩足を踏み入れた瞬間、明日夏の硬かった表情はしっとりと柔らかくなる。
丁度正面に雰囲気のいいカフェが見えた。
楓の木が真っ赤に染まった下にオープンテラスがあり、店員が片付けているテーブルが一つだけあるようだ。
それを見た明日夏は先程ほどの陰鬱な表情から一転し、くるりと振り向くと楽しげに話す。
「ねぇ変態さん。あそこでお茶しましょうよ! いいでしょ善次?」
「承知いたしました。それではお席を準備させていただきますので、少々お待ちを」
流れる二人の行動に思わず「お、ぉぅ」とうなずく。
それがおかしかったのか、「変態さんかわいい」とクスクス笑いやがる。
「ったく、何がおかしいんだよ……って、待てどこに連れて行くんだよ!?」
「いいから早く! 善次が来ないうちに、ね?」
突然右手を引かれ、旅行者達の間へと引き込まれる。
「お、おい。どこへ行くんだ?」
「いいからいいから。さ、行こうよ」
仕方ねぇと思いながら、左手で懐へと手を滑らす。
軽く印を切り、式神を起動させたと同時に胸元から滑り落ちる人形。
それを尻目に明日夏に腕を引かれ、そのまま人の波を軽快に進む。
流石は京娘といったところか。
人混みの避け方が、まるで清流を流れる笹のように人をヌルリと避け進む。
「へぇ……やるじゃん。それにしても」
先程とは違い、いきいきとした表情と息遣い。
まるで羽でも生えたんじゃないかと思うほど、生命力に満ち溢れた背中に思わず見惚れてしまうほどだ。
「ふぅ~。つ~いたっと! さ、ここなら邪魔は入らないわ! 変態さん、あんたの事を教えてちょうだい!!」
「猫被ってたうえに、口調まで変わりやがって……。それに質問していたのは俺の方だったはずだんだけどな」
ここは鴨川の上流にある、〝鴨川デルタ〟と呼ばれるちょっとした公園だ。
岸と岸を〝出町の飛び石〟といわれるモノで渡れるようになっており、そこにある亀の形をした大石の上に、なぜかふんぞり返える明日夏。
右人差し指をビシリと向け、俺へと左眉を上げながら質問し始める。困ったものだ。
「そうですね……立ち話もなんですので、お嬢様を散歩がてら話しをいたしましょうか」
「ちょっと悪魔執事。私を散歩するような言い方やめてくれる?」
「分かった。んじゃ、コイツを散歩しながら話そうぜ」
「もっとダイレクトに言われたし!? 貴方達ねぇ、言い方ってものがあるでしょう! ……たく、いいわよ。散歩してあげるから付いておいでなさい」
「「負けず嫌い……」」
「五月蝿いです。さ、行くわよ!」
善次と顔を見合わせヤレヤレと肩を上げながら歩く。
このあたりは高級住宅街らしく、閑静な空間が続くがお嬢様は気に入らないらしい。
「……また見ている。右の壁の向こうの飾り窓の影。それに左前方の植え込みの影。前方の家の監視カメラからも視線を感じる。ハァ~嫌になるよホント」
正解だ。確かにそこから確実に見られている。が、覗いているのは素人のものだ。
とは言え、普通なら偶然見つけることも出来るかもだが、カメラの向こう側までは分かるわけがねぇ。
唯一分かるとしたら、電子機器だろうが漏れ出る〝気配〟という、俺らクラスじゃねぇと分からない、カメラの向こう側にいる生命の微弱な波動を感じることだが……。
「……よくわかったな。しかしカメラまでは気のせいじゃねぇのか?」
「ふん。貴方みたいな変態さんでも分からない事があるの?」
「変態さんはよけいだが、ゼヒご教授ねがいたいものだね」
明日夏は得意げに「ふふん」と言った後、すぐに顔を曇らせて話す。
「ここでドヤって話せれば気持ちがいいのでしょうけれど、それがさ……よく分からないのよ」
「分からない? それはどういう事だよ」
「言葉どおりよ。ある日突然、そういうのが感じられるようになったの」
そう言いながら、その言葉を否定するように首を数度振りながら続ける。
「いえ違うかな。変態さんも知っての通り、あの〝禍々しい生きている鳥居に触れた〟時からかな」
次の言葉を続けず、下を向いたまま口を閉ざす明日夏。
やがて閑静な住宅街を抜けると、まるで別世界と思える人の往来を目にする。
古都を愛でるためにやって来た観光客が楽しげに歩き、修学旅行生はしおりを片手に予定をこなす。
そんな空間に一歩足を踏み入れた瞬間、明日夏の硬かった表情はしっとりと柔らかくなる。
丁度正面に雰囲気のいいカフェが見えた。
楓の木が真っ赤に染まった下にオープンテラスがあり、店員が片付けているテーブルが一つだけあるようだ。
それを見た明日夏は先程ほどの陰鬱な表情から一転し、くるりと振り向くと楽しげに話す。
「ねぇ変態さん。あそこでお茶しましょうよ! いいでしょ善次?」
「承知いたしました。それではお席を準備させていただきますので、少々お待ちを」
流れる二人の行動に思わず「お、ぉぅ」とうなずく。
それがおかしかったのか、「変態さんかわいい」とクスクス笑いやがる。
「ったく、何がおかしいんだよ……って、待てどこに連れて行くんだよ!?」
「いいから早く! 善次が来ないうちに、ね?」
突然右手を引かれ、旅行者達の間へと引き込まれる。
「お、おい。どこへ行くんだ?」
「いいからいいから。さ、行こうよ」
仕方ねぇと思いながら、左手で懐へと手を滑らす。
軽く印を切り、式神を起動させたと同時に胸元から滑り落ちる人形。
それを尻目に明日夏に腕を引かれ、そのまま人の波を軽快に進む。
流石は京娘といったところか。
人混みの避け方が、まるで清流を流れる笹のように人をヌルリと避け進む。
「へぇ……やるじゃん。それにしても」
先程とは違い、いきいきとした表情と息遣い。
まるで羽でも生えたんじゃないかと思うほど、生命力に満ち溢れた背中に思わず見惚れてしまうほどだ。
「ふぅ~。つ~いたっと! さ、ここなら邪魔は入らないわ! 変態さん、あんたの事を教えてちょうだい!!」
「猫被ってたうえに、口調まで変わりやがって……。それに質問していたのは俺の方だったはずだんだけどな」
ここは鴨川の上流にある、〝鴨川デルタ〟と呼ばれるちょっとした公園だ。
岸と岸を〝出町の飛び石〟といわれるモノで渡れるようになっており、そこにある亀の形をした大石の上に、なぜかふんぞり返える明日夏。
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