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異怪骨董やさんと、神喰の月蝕

042:ぼく……イキ……マス

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「どこを見ているのデース! あと数秒でキサマの首を千切ってやるデスッ!!」

 水面を叩き走る数え切れない蹄の轟音。
 それを見た文曲は、「恐怖で動けないとは愚かデス」と言いながら、馬上で腕を組む。
 あっという間に周囲を黒馬に包囲され、そのまま押しつぶす勢いで一気に迫る。

 赤黒い歯肉から草食とは程遠い牙を二本剥き出し、大口を開けて襲いかかって来た。
 最初は鈍く〝がヴぉ゛〟と、肉が弾け飛ぶ音がし、次に〝いぢぃ゛〟と筋繊維が断裂。
 それを聞いた周りの黒馬群は興奮を増し、だらしなく口元を歪め頭から突っ込む。

「ア~ッハッハッハ!! 黒馬の食欲には勝てませんネェ~。さて、この目でクソガキの骨を――ッ!?」

 文曲が無惨な死体を確認しようと、黒馬をどかそうとした次の瞬間、黒馬が一斉に弾け飛ぶ。
 その隙間から銀色の光が激しく光り、鞘へと妖刀・悲恋が納刀された音がした。
 と、同時に、覆いかぶさった黒い波は馬頭が十個ほど宙に舞い上がり、さらに断末魔の叫び声をあげ倒れ沈む。

 まるで水面に咲いたドス黒く醜悪な花が、神喰の月蝕の光に照らされ咲き誇る。
 それを見た文曲は、数瞬我を忘れ見入ったが、黒馬が水面へ沈むのを見て状況を理解。
 
「な、なぜ生きている!?」
「うっせぇよ。だから言ったろう、負けねぇって? 真鍮馬だった馬野郎ならともかく、ちょっと硬い程度の土馬野郎じゃ俺には勝てねぇ」
「くッ、舐めるなクソガキイイイイイ!!」

 文曲はさらに足元の黒馬へと咒術を施す。
 苦しそうに黒馬が声を上げ、さらに水面を走る速さが加速。
 俺を中心に左回りに囲みながら、渦の中心へ引かれるように、黒馬が秩序だって攻撃しだす。

「やはり……戦極様、この黒馬群は司令塔の猿面さんの咒術によって、統制されているみたいだよ」
「らしいな。すると生きてはいるが、自分の意思はない。つまり自立型じゃないから動きも単調って感じか」
「だと思うんだよ。黒蝶さんの動きは真似ているけれど、彼らほど自我が無い……なら正面だよ」
「あぁ、そうだな。機動力があるとは言え、水面じゃ馬野郎の動きも鈍い。まずは一点突破からいくか。頼むぜペロキャン!」
『ぅ……うん。ぼくを……えへへ、バックから乗っていい……ょ?』
「うっさいわぼけえええ!! ったく、行くぞ……反撃開始だ!」

 足元の水面が盛り上がる。
 そこから現れたのは、俺を乗せれるほどの巨大なアメンボだった。
 そのアメンボウは、異怪骨董やさんから持ってきたペロペロキャンディの真の姿だ。

 アメンボは正式には〝飴棒〟と言う。
 その由来は、アメンボ自体が飴のような香りがするという事からだ。
 それを本体の付喪神が気に入り、珍しいアメンボの干物に取り憑いたのが始まりだとか。

 ちなみにコイツの力を借りるには、尻からあの拷問を味わなくていけないらしい。
 当然、歴代の俺の先祖達には評判が悪く、見た目を変えようと努力した結果、ペロペロキャンディになったとか……。クソッ!! 騙しやがって!!

「うおッ!? コイツぁ快適ってやつだ」

 水面を音もなく疾走する飴ん棒・もといペロキャンは、正面の馬群へと突っ込む。
 まさかこっちから来るとは思ってなかったらしく、赤く濁った瞳が大きく見開いたと同時に、前足を斬り落とす。

 前かがみになりながら水面へとのめり込み、そのまま背後の黒馬も巻き込まれ水中へとなだれ込む。
 それが連鎖的に始まり、目の前の馬群の一部はドミノが水へ飲み込まれるように消えていく。

『ぼく……かい……かん』
「妙な性癖に目覚めてる暇はねぇぞ。次は左斜め後ろ!」

 面白いように水面を滑りながら、くるくると回転しながら黒馬群へと突っ込む。
 さっき黒馬に包囲された時に、一気に討滅できたのはコレがあったからだ。
 水面をワルツを踊るように動き、それに合わせて黒馬を討滅し続ける。

 さらにペロキャンは水面を縦横無尽に滑り、俺を包囲していた馬群も半数程減らした後、黒馬が一斉に引いた事で状況が変わるのを感じた。
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