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異怪骨董やさんと、神喰の月蝕
039:宝ヶ池の攻防戦~八
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迫る馬の形をしたエスタンピーダ群。
それぞれが凶暴な顔と、土塊なのに唾液を撒き散きながら激しく躍動し、漆黒の津波となりて襲いかかる。
うねる馬群は、まさに黒蝶野郎の動きそのものであり、ここであいつらが出てきたのかと下唇を噛み締め悲恋を鞘へと納刀。
「美琴……今の俺の気力で何頭やれる?」
「さっきも言ったけど、戦極様のつたない気力では一撃で五頭だよ。無論あの泥田坊もどきと同じならって意味なんだよ」
「分かった、それで十分だ……とは言えねえが、残りの気力が不安だがやるしかねぇ。わん太郎、俺の肩にしがみついていろ」
「わかったワ~ン」
馬群が迫ること七メートル。強靭な足腰で赤松を蹴り砕き、大地を破走る。
腰を落とし、悲恋へと妖力を込め納刀したままの鞘へ最大限の気力を込めて待つ。
迫ること残り三メートル。
黒い馬津波が俺を半包囲した瞬間、悲恋を高速抜刀。
「まだ荒いがコイツで道を作る……ジジイ流・抜刀術! 奥義・太刀魚!!」
――抜刀術・太刀魚。
戦極が使える剣技で、奥義と呼ばれるモノの一つ。
鞘から高速で抜刀する事で剣速を最大まで高め、さらに大きく気力を込める事で放った瞬間、銀色で凶暴な太刀魚が出現する。
が、まだ中伝しか修めていない戦極は、その業も不完全である――。
気の力で具現化した太刀魚は、鞘から開放されたと同時に馬群へと突っ込む。
一頭めの首筋に絡みつき、そのまま背後へと直進。
直後、眼の前の黒馬は真っ二つに割れ、さらに直進して馬群を縦に割り進む。
その快進撃も美琴の予想通り、五頭を真っ二つにした時点で太刀魚が消失。
だが空いた隙間へと、わん太郎を肩に載せながら、悲恋を左斜横に下げながら突っ込む。
完全に周りを馬群に包囲され、それが閉じる前に目前の黒馬の頭へと悲恋を突き刺す。
悲鳴と共に頭を大きく振り上げた黒馬。その反動で俺の体は宙へと舞い上がる。
狙い通りの展開になり、この馬を作り出した首魁・文曲を探す。
この冗談みてぇな状況を作り出したのは、間違いなく神工兵機と呼んだ真鍮馬を生贄にし、咒術による召喚の一種だろう。
ならば止めるには、文曲を倒すしか無い。
「この先に猿面野郎はいるはずだ!」
そのまま近場の黒馬の背に飛び乗った先に文曲は居た。
やつも黒馬の背に立ち、左手を右肘につけ、右人差し指を顔の横へと置きながら指を揺らす。
「チッチッチ。甘いデスネェ~、いいですかぁ? 黒蝶は全てを見ていたのを忘れては困りマ~ス。ならば黒馬はどうデスゥ?」
全ての黒馬の目が俺を見ていたのに、言われている最中に気がつく。
それはありえない角度で首を動かし、無脊椎動物のようで不気味な光景だ。
「戦極様!!」
美琴がそう叫んだと同時に、足場にしていた黒馬が前のめりに倒れ込む。
咄嗟に隣を走る黒馬の首に一閃し、その背に乗ったまではよかった、が。
今度は前足を思い切り上げ、俺を跳ね飛ばしながら地面へと沈む。
だがそれでも諦めず、次々と足場を変えて文曲へと迫る。
その距離が徐々に縮まりかけた次の瞬間、一気に足元の黒馬が崩れ落ちた。
それもただ崩れ落ちただけじゃない。
足場になる近場の馬全てが同じように崩れ、さらに俺も前のめりに転げ落ちる。
咄嗟にわん太郎が氷で薄い板を複数作り出し、そこへと倒れることでダメージが最小限ですむ。
「くっ、次にどこへ移動するかを学習済みかよ!」
「あたりまえデェス! 全ての瞳は古廻戦極へと向いているのデスカラ。というより、ソコへおびき出された事が、分からないのが滑稽デスネェ?」
美琴が鬼気迫る声で、「戦極様、わん太郎! 斜め下へ防御態勢だよ!」と叫んだと同時に、地面より馬の顔が複数湧き出た。
馬のくせに〝ニチャリ〟と口角を歪ませ、そのまま土から這い出る姿がおぞましい。
その勢いが止まらず八つの首が勢いよく伸び、わん太郎が張った氷の盾を勢いよく壊しながら押し上げた。
「ぐああああああッ!!」
あまりの衝撃で一瞬息がとまりかけるが、さらに勢いは止まらずに三メートル程打ち上げられてしまう。
それぞれが凶暴な顔と、土塊なのに唾液を撒き散きながら激しく躍動し、漆黒の津波となりて襲いかかる。
うねる馬群は、まさに黒蝶野郎の動きそのものであり、ここであいつらが出てきたのかと下唇を噛み締め悲恋を鞘へと納刀。
「美琴……今の俺の気力で何頭やれる?」
「さっきも言ったけど、戦極様のつたない気力では一撃で五頭だよ。無論あの泥田坊もどきと同じならって意味なんだよ」
「分かった、それで十分だ……とは言えねえが、残りの気力が不安だがやるしかねぇ。わん太郎、俺の肩にしがみついていろ」
「わかったワ~ン」
馬群が迫ること七メートル。強靭な足腰で赤松を蹴り砕き、大地を破走る。
腰を落とし、悲恋へと妖力を込め納刀したままの鞘へ最大限の気力を込めて待つ。
迫ること残り三メートル。
黒い馬津波が俺を半包囲した瞬間、悲恋を高速抜刀。
「まだ荒いがコイツで道を作る……ジジイ流・抜刀術! 奥義・太刀魚!!」
――抜刀術・太刀魚。
戦極が使える剣技で、奥義と呼ばれるモノの一つ。
鞘から高速で抜刀する事で剣速を最大まで高め、さらに大きく気力を込める事で放った瞬間、銀色で凶暴な太刀魚が出現する。
が、まだ中伝しか修めていない戦極は、その業も不完全である――。
気の力で具現化した太刀魚は、鞘から開放されたと同時に馬群へと突っ込む。
一頭めの首筋に絡みつき、そのまま背後へと直進。
直後、眼の前の黒馬は真っ二つに割れ、さらに直進して馬群を縦に割り進む。
その快進撃も美琴の予想通り、五頭を真っ二つにした時点で太刀魚が消失。
だが空いた隙間へと、わん太郎を肩に載せながら、悲恋を左斜横に下げながら突っ込む。
完全に周りを馬群に包囲され、それが閉じる前に目前の黒馬の頭へと悲恋を突き刺す。
悲鳴と共に頭を大きく振り上げた黒馬。その反動で俺の体は宙へと舞い上がる。
狙い通りの展開になり、この馬を作り出した首魁・文曲を探す。
この冗談みてぇな状況を作り出したのは、間違いなく神工兵機と呼んだ真鍮馬を生贄にし、咒術による召喚の一種だろう。
ならば止めるには、文曲を倒すしか無い。
「この先に猿面野郎はいるはずだ!」
そのまま近場の黒馬の背に飛び乗った先に文曲は居た。
やつも黒馬の背に立ち、左手を右肘につけ、右人差し指を顔の横へと置きながら指を揺らす。
「チッチッチ。甘いデスネェ~、いいですかぁ? 黒蝶は全てを見ていたのを忘れては困りマ~ス。ならば黒馬はどうデスゥ?」
全ての黒馬の目が俺を見ていたのに、言われている最中に気がつく。
それはありえない角度で首を動かし、無脊椎動物のようで不気味な光景だ。
「戦極様!!」
美琴がそう叫んだと同時に、足場にしていた黒馬が前のめりに倒れ込む。
咄嗟に隣を走る黒馬の首に一閃し、その背に乗ったまではよかった、が。
今度は前足を思い切り上げ、俺を跳ね飛ばしながら地面へと沈む。
だがそれでも諦めず、次々と足場を変えて文曲へと迫る。
その距離が徐々に縮まりかけた次の瞬間、一気に足元の黒馬が崩れ落ちた。
それもただ崩れ落ちただけじゃない。
足場になる近場の馬全てが同じように崩れ、さらに俺も前のめりに転げ落ちる。
咄嗟にわん太郎が氷で薄い板を複数作り出し、そこへと倒れることでダメージが最小限ですむ。
「くっ、次にどこへ移動するかを学習済みかよ!」
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美琴が鬼気迫る声で、「戦極様、わん太郎! 斜め下へ防御態勢だよ!」と叫んだと同時に、地面より馬の顔が複数湧き出た。
馬のくせに〝ニチャリ〟と口角を歪ませ、そのまま土から這い出る姿がおぞましい。
その勢いが止まらず八つの首が勢いよく伸び、わん太郎が張った氷の盾を勢いよく壊しながら押し上げた。
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