14 / 70
異怪骨董やさんと、神喰の月蝕
013:暗殺者
しおりを挟む
その声でわん太郎は「あふぁわわ」と、妙なリズムで盛大に震える。
普段から冷たい体温の奴だが、今はもっと冷たい。
もふもふの小さな体を震え上がらせ、今にも頭の上で粗相をしないかと心配になるほどだ。
「で……何ですか、わん太郎? ん?」
「ワ、ワレは偉いからして、大権現様が美貌だけで国を堕とす、ヤバ~イ女だなんて言った事無いんだワンよ!!」
「なるほど。つまり……わん太郎、早死にたいんですか? ワカリマス」
「はわわわ!? ち、違うんだワン! これでも褒め言葉だワンよ!!」
「それで褒めているとか、語るに落ちているぞ子狐め。で……珍しいじゃないか、お前が何処かへ出かけるとはな、〆」
牛車の中に居る女、〆は俺の言葉を聞くと、ざわりと空気が震えた。
常人ならその空気に耐えられず、下手をしたらあの世へ旅立つ視線が、若草色のすだれの向こうから放つのを感じた瞬間にそれは起こる。
突如〆の気配が消えたかと思い、とっさに上空を見上げたと同時に背後に気配を察知。
とっさに躱そうとするが、時すでに遅し。
背後から現れた腕に絡め取られる。
まずは左手で首筋からあごへと、ゾっとするほどの快楽がほとばしり、さらに右胸より鳩尾へ同様の感覚が襲う。
それに気がついた時にはすでに手遅れであり、天上の蜘蛛の糸に絡め取られた感触に苦虫を噛み締め吐き出す。
「チッ、まだまだお前には敵わねぇか〆」
「まさか私に敵う……と、でも?」
刹那が一瞬となり、それが永遠に続くかと錯覚した次の瞬間、背後の女狐が恐ろしい――いや、感知出来ない速さで俺の前へと出現。
さらに両手を広げ、左右より襲いかかる。
「古廻様ああああああん! やっと、やっと! この〆の元へとお帰りになっていただけたのですね!! あぁぁあん♪ もう死んでもいいかも~」
突如、俺の顔面が意味の分からない柔らかさと、白檀の快楽成分だけを数千倍濃厚にした、気が狂いそうな天上の香りが襲う。
気がつけば呼吸困難になり、陸に打ち上がった哀れな魚よろしく、俺は空気を求めもがく。
「爆乳から離せバカ! 死ぬうううう!!」
「もぅ♪ そんなに感激してもらえるなんて、この〆は嬉しぬかもしれません!」
「違うが? つか、俺がちぬううう!!」
享年十七歳。路上で痴女に襲われあの世へ旅立つ……か。
人生こんなもんすわ。つぅかさぁ、誰かこの馬鹿を引きがしてくれ!
「またやっとるんかい……おい、愚妹。このままでは古廻はんが死んでしまうがな」
そ、そのエセ関西弁は壱!! 助かったッ!!
「ぁ。これは失礼致しました古廻様。思わず愛がほとばしりました」
「ぷっはあああッ! ふふ、ぢゃあねぇぞったく。思わずであの世に行く一歩手前だぜ、ったく……。助かっぜ壱、それにしても相変わらずのカエルの折り紙なんだな」
目の前には絶世の美しさという表現すら生ぬるく、傾国の女が頬を染め、琥珀色の瞳をうるませて立っている。
艶やかな赤の西陣を妖艶に着こなし、透き通る金髪が骨董やの裸電球の光でなお輝く。
肌はシルクを纏ったと勘違いするほどきめ細かく、赤子よりしっとりと瑞々しい。
そんな女の左肩に、ちょこんと緑色のカエルの折り紙が乗っており、「反省せい愚妹め」と言いながら〆の頬をグリグリと小突く。
それが気に食わないのか、「季節外れの蚊がいますね」と言いながら、〆は兄である壱を叩き潰す。
小気味好い〝パンッ〟と空気が弾ける音がして、哀れなカエルの折り紙は破裂した。
「おおおおい!! 壱が死んじまったぞ!?」
「ふんだ。知りませんよ、こんな愚兄なんて」
可愛く頬を膨らませ、ツンと右へ顔を向ける〆。
その様子は可愛らしいが、やっている事は恐ろしい。
さらに大きな狐耳をピクリと動かすと、夏の花が咲いたような笑顔で俺を見る。
「ささ、立ち話もなんですから店内へどうぞ」
そう言いながら〆は軽く二度手を鳴らす。
すると引き戸が開き、怪しくも神々しい骨董品が所狭しと並んでいるのが見えた。
鬼神みたいな鳴子こけし。黄金に光る赤べこ。鮭の缶詰を店から盗もうとする木彫り熊。全力で福を招いているポーズの招き猫。荒ぶる鷲のフォルムで威嚇するビリケン。
などなど、一つたりとてまともな品が無い。
「あ、相変わらずの品揃えだな……ん、これはまともそうじゃない」
なぜか店内に某・熊本の愛されキャラの等身大人形があり、それがロックグラスを片手にカウンターに座っていた。
よく見るとカランとグラスを鳴らし、紫の煙を灰皿から漂わす。
見た目が可愛らしいのに随分とハードなヤツだと興味を持った俺は、面白いなと思い近づくと、〆が慌てて叫ぶ。
「あ、いけません古廻様! ソレの背後に立っては!!」
「え? 背ごっひゅぅッ!?」
突如愛されキャラが振り向くと、アーマライトM16のトリガーを引き、高速で弾丸を発射。
とっさに体をそらし、のけぞった鼻先を熱い感覚が襲った直後、焦げた香りが鼻孔を刺激した。
「……オレの背後に立つな」
「ゴ、ゴ〇ゴ!?」
「違う、コ゛ノレゴだ。正確には〝コ濁点ノレゴ〟と言う、生粋のスナイパーだ。二度と間違えるな」
そう言うと愛されキャラはカウンターへ向き直り、カットが美しいバカラのロックグラスを愛おしげに傾ける。
だがどう見ても顔がゆるくないし、むしろハードボイルドなオッサンにしか見えねぇのが恐ろしい。
だから叫ぶように〆に問いただす。
普段から冷たい体温の奴だが、今はもっと冷たい。
もふもふの小さな体を震え上がらせ、今にも頭の上で粗相をしないかと心配になるほどだ。
「で……何ですか、わん太郎? ん?」
「ワ、ワレは偉いからして、大権現様が美貌だけで国を堕とす、ヤバ~イ女だなんて言った事無いんだワンよ!!」
「なるほど。つまり……わん太郎、早死にたいんですか? ワカリマス」
「はわわわ!? ち、違うんだワン! これでも褒め言葉だワンよ!!」
「それで褒めているとか、語るに落ちているぞ子狐め。で……珍しいじゃないか、お前が何処かへ出かけるとはな、〆」
牛車の中に居る女、〆は俺の言葉を聞くと、ざわりと空気が震えた。
常人ならその空気に耐えられず、下手をしたらあの世へ旅立つ視線が、若草色のすだれの向こうから放つのを感じた瞬間にそれは起こる。
突如〆の気配が消えたかと思い、とっさに上空を見上げたと同時に背後に気配を察知。
とっさに躱そうとするが、時すでに遅し。
背後から現れた腕に絡め取られる。
まずは左手で首筋からあごへと、ゾっとするほどの快楽がほとばしり、さらに右胸より鳩尾へ同様の感覚が襲う。
それに気がついた時にはすでに手遅れであり、天上の蜘蛛の糸に絡め取られた感触に苦虫を噛み締め吐き出す。
「チッ、まだまだお前には敵わねぇか〆」
「まさか私に敵う……と、でも?」
刹那が一瞬となり、それが永遠に続くかと錯覚した次の瞬間、背後の女狐が恐ろしい――いや、感知出来ない速さで俺の前へと出現。
さらに両手を広げ、左右より襲いかかる。
「古廻様ああああああん! やっと、やっと! この〆の元へとお帰りになっていただけたのですね!! あぁぁあん♪ もう死んでもいいかも~」
突如、俺の顔面が意味の分からない柔らかさと、白檀の快楽成分だけを数千倍濃厚にした、気が狂いそうな天上の香りが襲う。
気がつけば呼吸困難になり、陸に打ち上がった哀れな魚よろしく、俺は空気を求めもがく。
「爆乳から離せバカ! 死ぬうううう!!」
「もぅ♪ そんなに感激してもらえるなんて、この〆は嬉しぬかもしれません!」
「違うが? つか、俺がちぬううう!!」
享年十七歳。路上で痴女に襲われあの世へ旅立つ……か。
人生こんなもんすわ。つぅかさぁ、誰かこの馬鹿を引きがしてくれ!
「またやっとるんかい……おい、愚妹。このままでは古廻はんが死んでしまうがな」
そ、そのエセ関西弁は壱!! 助かったッ!!
「ぁ。これは失礼致しました古廻様。思わず愛がほとばしりました」
「ぷっはあああッ! ふふ、ぢゃあねぇぞったく。思わずであの世に行く一歩手前だぜ、ったく……。助かっぜ壱、それにしても相変わらずのカエルの折り紙なんだな」
目の前には絶世の美しさという表現すら生ぬるく、傾国の女が頬を染め、琥珀色の瞳をうるませて立っている。
艶やかな赤の西陣を妖艶に着こなし、透き通る金髪が骨董やの裸電球の光でなお輝く。
肌はシルクを纏ったと勘違いするほどきめ細かく、赤子よりしっとりと瑞々しい。
そんな女の左肩に、ちょこんと緑色のカエルの折り紙が乗っており、「反省せい愚妹め」と言いながら〆の頬をグリグリと小突く。
それが気に食わないのか、「季節外れの蚊がいますね」と言いながら、〆は兄である壱を叩き潰す。
小気味好い〝パンッ〟と空気が弾ける音がして、哀れなカエルの折り紙は破裂した。
「おおおおい!! 壱が死んじまったぞ!?」
「ふんだ。知りませんよ、こんな愚兄なんて」
可愛く頬を膨らませ、ツンと右へ顔を向ける〆。
その様子は可愛らしいが、やっている事は恐ろしい。
さらに大きな狐耳をピクリと動かすと、夏の花が咲いたような笑顔で俺を見る。
「ささ、立ち話もなんですから店内へどうぞ」
そう言いながら〆は軽く二度手を鳴らす。
すると引き戸が開き、怪しくも神々しい骨董品が所狭しと並んでいるのが見えた。
鬼神みたいな鳴子こけし。黄金に光る赤べこ。鮭の缶詰を店から盗もうとする木彫り熊。全力で福を招いているポーズの招き猫。荒ぶる鷲のフォルムで威嚇するビリケン。
などなど、一つたりとてまともな品が無い。
「あ、相変わらずの品揃えだな……ん、これはまともそうじゃない」
なぜか店内に某・熊本の愛されキャラの等身大人形があり、それがロックグラスを片手にカウンターに座っていた。
よく見るとカランとグラスを鳴らし、紫の煙を灰皿から漂わす。
見た目が可愛らしいのに随分とハードなヤツだと興味を持った俺は、面白いなと思い近づくと、〆が慌てて叫ぶ。
「あ、いけません古廻様! ソレの背後に立っては!!」
「え? 背ごっひゅぅッ!?」
突如愛されキャラが振り向くと、アーマライトM16のトリガーを引き、高速で弾丸を発射。
とっさに体をそらし、のけぞった鼻先を熱い感覚が襲った直後、焦げた香りが鼻孔を刺激した。
「……オレの背後に立つな」
「ゴ、ゴ〇ゴ!?」
「違う、コ゛ノレゴだ。正確には〝コ濁点ノレゴ〟と言う、生粋のスナイパーだ。二度と間違えるな」
そう言うと愛されキャラはカウンターへ向き直り、カットが美しいバカラのロックグラスを愛おしげに傾ける。
だがどう見ても顔がゆるくないし、むしろハードボイルドなオッサンにしか見えねぇのが恐ろしい。
だから叫ぶように〆に問いただす。
0
お気に入りに追加
87
あなたにおすすめの小説
神様の住まう街
あさの紅茶
キャラ文芸
花屋で働く望月葵《もちづきあおい》。
彼氏との久しぶりのデートでケンカをして、山奥に置き去りにされてしまった。
真っ暗で行き場をなくした葵の前に、神社が現れ……
葵と神様の、ちょっと不思議で優しい出会いのお話です。ゆっくりと時間をかけて、いろんな神様に出会っていきます。そしてついに、葵の他にも神様が見える人と出会い――
※日本神話の神様と似たようなお名前が出てきますが、まったく関係ありません。お名前お借りしたりもじったりしております。神様ありがとうございます。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ま性戦隊シマパンダー
九情承太郎
キャラ文芸
魔性のオーパーツ「中二病プリンター」により、ノベルワナビー(小説家志望)の作品から次々に現れるアホ…個性的な敵キャラたちが、現実世界(特に関東地方)に被害を与えていた。
警察や軍隊で相手にしきれないアホ…個性的な敵キャラに対処するために、多くの民間戦隊が立ち上がった!
そんな戦隊の一つ、極秘戦隊スクリーマーズの一員ブルースクリーマー・入谷恐子は、迂闊な行動が重なり、シマパンの力で戦う戦士「シマパンダー」と勘違いされて悪目立ちしてしまう(笑)
誤解が解ける日は、果たして来るのであろうか?
たぶん、ない!
ま性(まぬけな性分)の戦士シマパンダーによるスーパー戦隊コメディの決定版。笑い死にを恐れぬならば、読むがいい!!
他の小説サイトでも公開しています。
表紙は、画像生成AIで出力したイラストです。
ブラックベリーの霊能学
猫宮乾
キャラ文芸
新南津市には、古くから名門とされる霊能力者の一族がいる。それが、玲瓏院一族で、その次男である大学生の僕(紬)は、「さすがは名だたる天才だ。除霊も完璧」と言われている、というお話。※周囲には天才霊能力者と誤解されている大学生の日常。
(同級生+アイドル÷未成年)×オッサン≠いちゃらぶ
まみ夜
キャラ文芸
様々な分野の専門家、様々な年齢を集め、それぞれ一芸をもっている学生が講師も務めて教え合う教育特区の学園へ出向した五十歳オッサンが、十七歳現役アイドルと同級生に。
【ご注意ください】
※物語のキーワードとして、摂食障害が出てきます
※ヒロインの少女には、ストーカー気質があります
※主人公はいい年してるくせに、ぐちぐち悩みます
第二巻(ホラー風味)は現在、更新休止中です。
続きが気になる方は、お気に入り登録をされると再開が通知されて便利かと思います。
表紙イラストはAI作成です。
(セミロング女性アイドルが彼氏の腕を抱く 茶色ブレザー制服 アニメ)
あやかし雑草カフェ社員寮 ~社長、離婚してくださいっ!~
菱沼あゆ
キャラ文芸
令和のはじめ。
めでたいはずの10連休を目前に仕事をクビになった、のどか。
同期と呑んだくれていたのだが、目を覚ますと、そこは見知らぬ会社のロビーで。
酔った弾みで、イケメンだが、ちょっと苦手な取引先の社長、成瀬貴弘とうっかり婚姻届を出してしまっていた。
休み明けまでは正式に受理されないと聞いたのどかは、10連休中になんとか婚姻届を撤回してもらおうと頑張る。
職だけでなく、住む場所も失っていたのどかに、貴弘は住まいを提供してくれるが、そこは草ぼうぼうの庭がある一軒家で。
おまけにイケメンのあやかしまで住んでいた。
庭にあふれる雑草を使い、雑草カフェをやろうと思うのどかだったが――。
護国神社の隣にある本屋はあやかし書店
井藤 美樹
キャラ文芸
【第四回キャラ文芸大賞 激励賞頂きました。ありがとうございますm(_ _)m】
真っ白なお城の隣にある護国神社と、小さな商店街を繋ぐ裏道から少し外れた場所に、一軒の小さな本屋があった。
今時珍しい木造の建物で、古本屋をちょっと大きくしたような、こじんまりとした本屋だ。
売り上げよりも、趣味で開けているような、そんな感じの本屋。
本屋の名前は【神楽書店】
その本屋には、何故か昔から色んな種類の本が集まってくる。普通の小説から、曰く付きの本まで。色々だ。
さぁ、今日も一冊の本が持ち込まれた。
十九歳になったばかりの神谷裕樹が、見えない相棒と居候している付喪神と共に、本に秘められた様々な想いに触れながら成長し、悪戦苦闘しながらも、頑張って本屋を切り盛りしていく物語。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる