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変態陰陽師との邂逅
004:フラグ
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◇◇◇
――と、数時間前の自分がそう思っていた事に腹が立つ。
あの時、あの時点で気がつくべきだった。
日常が非日常に変わったという、フラグを見逃すべきではなかった。
本当に気のせいかどうか……それはこの後に起こる、恐ろしい出来事がすべての答えだと知らず。
◇◇◇
「ふぅ~、これで一日も終わりかな。今日はハードな一日だったなぁ」
若いのに凝り固まった背筋を思いきり伸ばし、あくびをしながら空を見上げる。
善次はまだ来ないし、せっかくの誕生日だから何か記念にほしいな。
あ、でも……ふふ。これは嬉しい。
さっき緋依が誕生日プレゼントにくれた、左手首に巻かれた緋色のミサンガをそっとなでてみる。
なんとも言えない不思議な質感で、何かの皮だとは思うんだけど、それが何かを考えるのも楽しい。
それに手作りってだけでスッゴク嬉しいし、なんだか満たされた温かい気持ちで頬が緩む。
夕日がローストするように空を焦がし、白雲が食欲をそそる茜色に染まる。
それを見ながら迎えに来ない、悪魔執事を思い出し軽く嘆息。
「緋依も帰っちゃったし善次待ち、か。お腹へっちゃったなぁ」
そう言いながらスマホの画面を確認する。
画面の半分を占領する、アナログ時計のアプリが十七時半を指す。
秋も深くなり、最近では日が落ちるのも早い。
だからだろうか。このまま帰宅すれば、せっかくの記念日が台無しになる気がした。
善次に〝学園から出るな〟と朝も言われたが、このまま帰っても味気ない食事を一人で食べるだけ……。
それより少し離れた場所にある満田屋まで足を伸ばし、着飾った味気ないケーキよりも、おばちゃんが作ってくれるイチゴのクレープが食べたい。
フワっとした生地に、これでもかと生クリームを入れ、芸術的に積み上がるイチゴ思い出す。
「……よし、行こう。時間になっても来ない善次が悪いのだよ、ふふふ」
茜色に染まるイチゴに見える雲が、私を至高のクレープへと誘う。
もう誰も私の歩みを止めることは出来ない。それは絶対的な宇宙のルール。
だからこそ、少し迷いはしたが善次との約束よりクレープを優先し歩く。
が、そこに不愉快な声をかけられ、足をとめる事になった。
「枢木明日夏。今日は歩きで帰宅ですの? これだから品の無い女は困ったものですわね」
「副会長……ええ、たまには秋の古都を愛でようかと」
「まぁ! そのような風情を楽しむ心が、山猿みたいな貴女にありまして? アタマ、大丈夫ですこと?」
「菓子くへば、腹が鳴るなり、副会長……」
「な、何を言って――」
副会長がギクリとお腹を押さえた事に、吹き出しそうになりながら言葉を被せる。
「先程お菓子をたっぷり食べていたのに、法隆寺の鐘よりも大きい音が、副会長のお腹から聞こえます」
午後の生徒会役員会が終了し、会長が退出したとたんに山田三姉妹と菓子を貪り食う四人。
どうやったらあの量を消費できるのかと思ったけれど、あっという間に食べ尽くすのを見て呆れたけど、もうお腹が空くとは驚きよね。
「こ、これは違ッ!!」
「副会長のお腹より食欲の秋を感じさせていただき、感謝いたします。私にも秋を感じる感性があったようです。ではごきげんよう」
◇◇◇
枢木明日夏はしずしずと、美山美玲の前を去っていく。
わたくしが〝優しく言葉をかけてやっている〟のに迎合せず、しかも事あるごとに、わたくしに嫌味を吐くのが許せない。
わたくしよりも劣る美貌を持ち、スタイルも家柄も美山家以下のはず。
それなのに生徒会長は、わたくしよりもあの女に夢中なのが許せない、絶対に!
「わたくしを馬鹿にした事を、必ず後悔させてやりますわ……」
そう言いながら、わたくしはあの女の後ろ姿を射殺すように、睨みつけるのが精一杯だった。
◇◇◇
「ぉぅッ!? 何か後ろから悪寒がするぅ」
副会長が何かわめいていたけど、気にしないで歩いて行くと背後がゾクリ。
両腕を抱き、震える体をさすり歩く。
その格好がおかしかったのか、すれ違った小学生達に笑われながら、ほほを染めて至高のクレープを目指し歩く。
「ほほが赤いのは夕日のせい。きっとそうに違いないわ」
そんな事をブツブツ言いながら歩く。
その様子が面白かったのか、付いてきた小学生を引き連れて歩くこと数分後、目的の満田屋に到着。
私の芸に魅了された三人の小さな観客は、満田屋から香る甘い香りに夢中だ。
「「「わぁ~! あまくて、いいにお~い!!」」」
「そうでしょうとも、ここは至高のクレープを焼いているのですからね?」
「おいしそう……」
「いいなぁ~」
「お腹へったよぅ」
その言葉を聞いた可愛らしい観客は、お腹を可愛く鳴らす。
副会長と違い、申し訳無さそうな音にクスリとし、一つの提案をする。
「ねぇ君たち。よかったら、そこでクレープを食べないかな? 今日私の記念日なんだ、一緒にお祝いしてくれたら嬉しいな」
「え? もしかしてお姉ちゃん、今日お誕生日なの?」
それに「ええそうなの」と答えると、紅一点の女の子が大きく両手をあげて、「おめでとうお姉ちゃん!!」と祝ってくれた。
女の子の様子を見た男の子達もうなずくと、女の子を挟んでうなずく。
「「「せ~の! ハッピバースデーお姉ちゃ~ん♪」」」
その後可愛らしい歌声に癒やされホッコリしていると、満田屋から女主人が出てくのが見えた。
その手にはこの店の名物、〝SP一五・ヴァッグ・ヴゥゥレーヴィカー〟と名付けられた、至高のクレープが四つ持たれている。
これだけ内容が贅沢盛りなのに、たった三百五十円で販売してくれるおばちゃんが眩しい。
眩しすぎて直視できない。貴女が神か!!
ちなみに誰も正式名称は言わず、イチゴクレープと呼ぶ。
「おめでとう明日夏ちゃん。これ、おばちゃんからのプレゼント。はいどーぞ。あんたらも楽しいお歌を聞かせてくれたから、ご褒美だよ♪」
「「「わあああああ!!」」」
三人はあふれるほどの笑顔で受け取ると、口の周りを真っ白にしてクレープをほおばる。
その様子を見て私も嬉しくなったが、同時におばちゃんに申し訳なく話す。
「おばちゃん、こんなに沢山もらえないよ。ちゃんとお支払いするから、ね?」
「何を言ってるんだい。いっつも善次さんが、お代を余計に置いてくれていってくれているけれど、アンタの差し金だろう?」
おばちゃんは右人差し指を立てるとチッチと口を鳴らす。
「いやあれは……」
「分かっているさね。明日夏ちゃんがこのクレープを愛してくれているのはねぇ。だけどイチゴが高い時期は結構大変なのさね。だから本当に助かるよ」
回りを見渡しながら、おばちゃんはさらに続ける。
「それに、この商店街が元気なのも、明日夏ちゃんが活性化してくれているからだ。みんなあんたに感謝しているのさ」
「うぅ……」
なんでバレているのよ!?
こっそりと、うちの食材や必要なものは、ここの商店街から買うようにしていたのに。
「あっはっは。分かりやすく顔に出る子だねぇ。そりゃあ分かるさ。善次さんがすべて仕切っているからねぇ」
あの悪魔執事ぃぃ。変なところだけ抜けているんだからッ!
ま、まぁいいわ。ばれちゃったものは仕方ない。
「それじゃあ、お言葉に甘えせていただきます。はふ……おいしい♪」
私の幸せな顔をみたおばちゃんは腰に手を当てうなずきながら、もう食べきってしまった子ども達を見る。
その速さに「もう食べたのかい」と呆れたおばちゃんは、一人居ないことに気がつく。
「あれ、あの娘はどこに行ったんだい?」
「え? 今ここに居たはず――ッ、いけないッ!!」
満田屋から二軒隣にある場所。
今は建て替えをしていて空き地のハズだったが、そこに妙な空間の歪みが見えた。
その空間に見覚えがある私は、クレープをおばちゃんに押し付け、歪みに入ろうとした少女へ向かい走る。
――と、数時間前の自分がそう思っていた事に腹が立つ。
あの時、あの時点で気がつくべきだった。
日常が非日常に変わったという、フラグを見逃すべきではなかった。
本当に気のせいかどうか……それはこの後に起こる、恐ろしい出来事がすべての答えだと知らず。
◇◇◇
「ふぅ~、これで一日も終わりかな。今日はハードな一日だったなぁ」
若いのに凝り固まった背筋を思いきり伸ばし、あくびをしながら空を見上げる。
善次はまだ来ないし、せっかくの誕生日だから何か記念にほしいな。
あ、でも……ふふ。これは嬉しい。
さっき緋依が誕生日プレゼントにくれた、左手首に巻かれた緋色のミサンガをそっとなでてみる。
なんとも言えない不思議な質感で、何かの皮だとは思うんだけど、それが何かを考えるのも楽しい。
それに手作りってだけでスッゴク嬉しいし、なんだか満たされた温かい気持ちで頬が緩む。
夕日がローストするように空を焦がし、白雲が食欲をそそる茜色に染まる。
それを見ながら迎えに来ない、悪魔執事を思い出し軽く嘆息。
「緋依も帰っちゃったし善次待ち、か。お腹へっちゃったなぁ」
そう言いながらスマホの画面を確認する。
画面の半分を占領する、アナログ時計のアプリが十七時半を指す。
秋も深くなり、最近では日が落ちるのも早い。
だからだろうか。このまま帰宅すれば、せっかくの記念日が台無しになる気がした。
善次に〝学園から出るな〟と朝も言われたが、このまま帰っても味気ない食事を一人で食べるだけ……。
それより少し離れた場所にある満田屋まで足を伸ばし、着飾った味気ないケーキよりも、おばちゃんが作ってくれるイチゴのクレープが食べたい。
フワっとした生地に、これでもかと生クリームを入れ、芸術的に積み上がるイチゴ思い出す。
「……よし、行こう。時間になっても来ない善次が悪いのだよ、ふふふ」
茜色に染まるイチゴに見える雲が、私を至高のクレープへと誘う。
もう誰も私の歩みを止めることは出来ない。それは絶対的な宇宙のルール。
だからこそ、少し迷いはしたが善次との約束よりクレープを優先し歩く。
が、そこに不愉快な声をかけられ、足をとめる事になった。
「枢木明日夏。今日は歩きで帰宅ですの? これだから品の無い女は困ったものですわね」
「副会長……ええ、たまには秋の古都を愛でようかと」
「まぁ! そのような風情を楽しむ心が、山猿みたいな貴女にありまして? アタマ、大丈夫ですこと?」
「菓子くへば、腹が鳴るなり、副会長……」
「な、何を言って――」
副会長がギクリとお腹を押さえた事に、吹き出しそうになりながら言葉を被せる。
「先程お菓子をたっぷり食べていたのに、法隆寺の鐘よりも大きい音が、副会長のお腹から聞こえます」
午後の生徒会役員会が終了し、会長が退出したとたんに山田三姉妹と菓子を貪り食う四人。
どうやったらあの量を消費できるのかと思ったけれど、あっという間に食べ尽くすのを見て呆れたけど、もうお腹が空くとは驚きよね。
「こ、これは違ッ!!」
「副会長のお腹より食欲の秋を感じさせていただき、感謝いたします。私にも秋を感じる感性があったようです。ではごきげんよう」
◇◇◇
枢木明日夏はしずしずと、美山美玲の前を去っていく。
わたくしが〝優しく言葉をかけてやっている〟のに迎合せず、しかも事あるごとに、わたくしに嫌味を吐くのが許せない。
わたくしよりも劣る美貌を持ち、スタイルも家柄も美山家以下のはず。
それなのに生徒会長は、わたくしよりもあの女に夢中なのが許せない、絶対に!
「わたくしを馬鹿にした事を、必ず後悔させてやりますわ……」
そう言いながら、わたくしはあの女の後ろ姿を射殺すように、睨みつけるのが精一杯だった。
◇◇◇
「ぉぅッ!? 何か後ろから悪寒がするぅ」
副会長が何かわめいていたけど、気にしないで歩いて行くと背後がゾクリ。
両腕を抱き、震える体をさすり歩く。
その格好がおかしかったのか、すれ違った小学生達に笑われながら、ほほを染めて至高のクレープを目指し歩く。
「ほほが赤いのは夕日のせい。きっとそうに違いないわ」
そんな事をブツブツ言いながら歩く。
その様子が面白かったのか、付いてきた小学生を引き連れて歩くこと数分後、目的の満田屋に到着。
私の芸に魅了された三人の小さな観客は、満田屋から香る甘い香りに夢中だ。
「「「わぁ~! あまくて、いいにお~い!!」」」
「そうでしょうとも、ここは至高のクレープを焼いているのですからね?」
「おいしそう……」
「いいなぁ~」
「お腹へったよぅ」
その言葉を聞いた可愛らしい観客は、お腹を可愛く鳴らす。
副会長と違い、申し訳無さそうな音にクスリとし、一つの提案をする。
「ねぇ君たち。よかったら、そこでクレープを食べないかな? 今日私の記念日なんだ、一緒にお祝いしてくれたら嬉しいな」
「え? もしかしてお姉ちゃん、今日お誕生日なの?」
それに「ええそうなの」と答えると、紅一点の女の子が大きく両手をあげて、「おめでとうお姉ちゃん!!」と祝ってくれた。
女の子の様子を見た男の子達もうなずくと、女の子を挟んでうなずく。
「「「せ~の! ハッピバースデーお姉ちゃ~ん♪」」」
その後可愛らしい歌声に癒やされホッコリしていると、満田屋から女主人が出てくのが見えた。
その手にはこの店の名物、〝SP一五・ヴァッグ・ヴゥゥレーヴィカー〟と名付けられた、至高のクレープが四つ持たれている。
これだけ内容が贅沢盛りなのに、たった三百五十円で販売してくれるおばちゃんが眩しい。
眩しすぎて直視できない。貴女が神か!!
ちなみに誰も正式名称は言わず、イチゴクレープと呼ぶ。
「おめでとう明日夏ちゃん。これ、おばちゃんからのプレゼント。はいどーぞ。あんたらも楽しいお歌を聞かせてくれたから、ご褒美だよ♪」
「「「わあああああ!!」」」
三人はあふれるほどの笑顔で受け取ると、口の周りを真っ白にしてクレープをほおばる。
その様子を見て私も嬉しくなったが、同時におばちゃんに申し訳なく話す。
「おばちゃん、こんなに沢山もらえないよ。ちゃんとお支払いするから、ね?」
「何を言ってるんだい。いっつも善次さんが、お代を余計に置いてくれていってくれているけれど、アンタの差し金だろう?」
おばちゃんは右人差し指を立てるとチッチと口を鳴らす。
「いやあれは……」
「分かっているさね。明日夏ちゃんがこのクレープを愛してくれているのはねぇ。だけどイチゴが高い時期は結構大変なのさね。だから本当に助かるよ」
回りを見渡しながら、おばちゃんはさらに続ける。
「それに、この商店街が元気なのも、明日夏ちゃんが活性化してくれているからだ。みんなあんたに感謝しているのさ」
「うぅ……」
なんでバレているのよ!?
こっそりと、うちの食材や必要なものは、ここの商店街から買うようにしていたのに。
「あっはっは。分かりやすく顔に出る子だねぇ。そりゃあ分かるさ。善次さんがすべて仕切っているからねぇ」
あの悪魔執事ぃぃ。変なところだけ抜けているんだからッ!
ま、まぁいいわ。ばれちゃったものは仕方ない。
「それじゃあ、お言葉に甘えせていただきます。はふ……おいしい♪」
私の幸せな顔をみたおばちゃんは腰に手を当てうなずきながら、もう食べきってしまった子ども達を見る。
その速さに「もう食べたのかい」と呆れたおばちゃんは、一人居ないことに気がつく。
「あれ、あの娘はどこに行ったんだい?」
「え? 今ここに居たはず――ッ、いけないッ!!」
満田屋から二軒隣にある場所。
今は建て替えをしていて空き地のハズだったが、そこに妙な空間の歪みが見えた。
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