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070:最終話~筆頭聖女の末路と、大聖女アネモネの新たな旅立ち
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070:最終話~筆頭聖女の末路と、大聖女アネモネの新たな旅立ち
「イ、イストメール……様……」
「ええ。貴女を認め、貴女を愛し、貴女を筆頭として認めた駄女神イストメールです」
「くっ、いえそので――」
思わず釈明をしようとするが、この駄女神のやつ言葉を被せてきた。不愉快ですわ。
「――見え透いた釈明は結構。それに貴女の未来はすでに決まっていますし、不愉快なのは私ですが?」
「は……? え!? ワタクシの心が読まれているですの!?」
「ハァ、そのリアクションは全員共通なのですね。ええそうです。眼の前に居れば、貴女のドブ臭い心根の全てを読めますよ」
そんな!? こ、これでは隠し事すら出来ないの?
「そうですよ。だからもう何を貴女が言おうと無駄なのです」
「ま、待ってくださいませ! 今わかりました、イストメール様と直にお会いして、ワタクシの力がいかに非力かと。だからどうかお許しください、ワタクシが全て悪うございました!!」
するととても嫌な顔をしながら、ワタクシを蔑みつつ吐き捨てる。
「ですから思ってもいない事を言うのはおよしなさい。全てお見通しなのですから」
「クッ!? そ、そんな事はありませんわ。心の底からイストメール様を尊敬し、敬い、信じています!!」
「そう……信じてくれるのですね?」
「はい! それはもちろんですわ!!」
「なら話も早いですわね」
「と、おっしゃいますと?」
「なに簡単な事ですよ……元・聖女マリエッタよ、貴女に試練を与えます」
ま、待って!? 試練ってまさかアネモネと同じ……。
「そうです。今貴女が心で思った通り、アネモネと同じ牛……いえ、メスブタになりなさい」
「なッ!? そ、そんな!! それはあまりに酷いです! せめて下民ほどでお許しください!!」
「はぁ。これでも最大限の譲歩ですよ? 本来なら魂の一変すら残さず、この世はもちろん、あの世でも存在を完全に抹消するつもりでした。しかしアネモネが今回の形で貴女を救ってくれと言うもので、仕方なくブタにしてあげるのです」
くそッ、それじゃあアネモネがワタクシをこんな目にあわせようと……許せないですわ!!
「そうそう。貴女はアネモネに一つだけ勝てている部分があります」
「え!? そ、それじゃあワタクシは救われるのですか?!」
「救われるのではなく、救われないのですよ……その馬鹿さ加減がね。貴女はアネモネを抜いて、歴代聖女の中でトップのクズになりました」
「そ、そんな?! そんな事はありません、よく考えてみてください!!」
「ハァ、話すだけ無駄ですね。ではさようなら、マリエッタ・フォン・ドーズ。メスブタライフに光あれ」
「そんな! 待ってくださいイストメール様?!」
おぼろげになるクソ女神に泣きながら手を伸ばす。
すると何かがおかしい……って、ワタクシの手が白ブタになった?!
「嘘でしょおおおおお!! 元に戻して!! お願いですわ!! イストメール様ああああ!!」
瞬間灰色の世界がもとに戻り、女神が消え去った後に大波が来て呑み込まれてしまう。
苦しくて足掻くけれど、ワタクシの今の体型ではどうする事もできずに水流にもまれて意識を失ってしまう……。
◇◇◇
「しっかす、あの聖騎士様にもらった人形がひっぱるから来てみれば、まさか白牛ならぬ白豚がいるとはなぁ」
「んだな兄ちゃん。不思議な事もあるっぺなぁ」
……んん……ここはどこですの?
知らない森の中ですわね。え、誰かいるのですか?
あれは……そう、ジハードに渡したアネモネ探索用の人形ですわね。アネモネと深く関わった疑いのある人間に、探索させようと思って渡したものですが何故この者たちが?
「お、兄ちゃん。白豚が目を覚ましたべさ」
「おお?! 流石は弟だべ! おらはてっきり死んずまったかと思ったべさ」
「チチチ、短慮はいけねぇといつもオラが言ってるべ?」
「天才か! 流石は弟だっぺなぁ」
なるほど。あの駄女神も早速ワタクシへも、案内人をつけてくれたようですわね。
聞けばアネモネにも、ランスロットと言う者が導いたらしいですし、見た目は醜悪な農民どもですが、まぁ居ないよりはいいでしょう。
まずはこの者どもの家に行って、そこから今後を考えましょうか。
「さてと。んじゃ~いっちょ掻っさばくべなぁ兄ちゃん」
ん? 何か獲物でも取ってワタクシをもてなすのかしら? 愚民にしては気が利くことですわね。
「んだな! んじゃ、おらの愛刀・菜切り包丁の出番だべ!」
ちッ、所詮は農家の愚民。ワタクシもてなしに菜っ葉を使おうだなどと!? 聖女に戻ったら、御礼として首をハネてさしあげますわ。
「いよッ! 待ってますた! 兄ちゃんの肉さばきは芸術だっぺよ~」
……は? 肉さばき? 菜切り包丁で? 一体なんの肉をさばこうというのです?
って、まさか……クソッ! 両手両足が縛られて動けないだなんて!?
「お? なんだこの白ブタ。いきなり暴れ出したっぺよ。やっぱ〆るにゃ生きてるのが一番だから、仕方ねぇべかな」
「大丈夫だで兄ちゃん。白牛でこりたから、今度は逃さねぇように縄でキツク縛ってあるべさ」
「天・才・か!? 流石はオラの弟だっぺな~。んじゃ、早速肥え太った腹からいくべかな~」
冗談じゃありませんわ!? この愚民どもがッ!! みてなさい今殺してあげますわ!!
「第七聖典開放! 迫害の騎士召喚ッ!! ……な、なぜ魔法が使えないのです!?」
「……なぁ弟よ。なんだかオラこの白豚さぁ」
「あぁ兄ちゃんも思っただか……」
な、なんですのその目は!? 見下しているんじゃないですわ!!
「「ムカツクよな」」
や、やめなさい! そんな錆びた包丁でなに――
「――ギャアアアアアアア!? やめ! や゛め゛て゛え゛え゛え゛!!」
「うっぷ……兄ちゃんひでえ臭いだっぺさ! なんだっぺこの白豚!?」
「うっぷ……腹の中が真っ黒すぎて気色わるいだっぺさ?!」
「兄ちゃん、こったらもの食ったら、おらたち腹壊すど」
「天才か!! んだな、こんな臭くて真っ黒な腹のブタっこなんて食ったら腹壊すだっぺな~」
ぐうぅぅワタクシのお腹がああああああ?!
「でもまぁ、ものは試しって言うべ?」
「んだな、兄ちゃんの言う通り他も切ってみっか~」
や、や、やめ、やめなさい!? イヤ!! お願い!! やめてえええええええええええ!!!!!!
……………………
…………
……
「……やっぱダメだな。肉まで真っ黒だべ」
「カラスですら肉は赤くねぇのになぁ。とんだ魔豚だったべさ。さ、こんな臭え豚っこは捨てて帰るべ」
帰る二人をうらめしそうに見る白い豚の首。
その瞳は光を失い、自然の摂理がその身を土に返すまで、森の奥で苦悶の表情で転がることしか出来ない。
それを見た慈愛の女神イストメールは、「ここまで早く結果がでるとは……まさに因果律の凄まじさですね」と一言つぶやくと、下界を見る事をやめたのだった。
◇◇◇
――エピーローグ――
アネモネたちはローゼンスタイン伯爵の屋敷で盛大な歓迎を受けた後、ここに留まらないかと提案される。
どうせ王都へ戻っても、あの愚王の事だから、また良からぬ事を企んでるかもしれないと言う配慮からだった。
「アネモネ様……お心は変わらずでございますか?」
「ええ。その気持だけもらっておくよ、ローゼンスタイン伯爵」
「ランスロット様もですか?」
「そうだね。僕もまた旅を続ける理由もあるんだ。それにまだ左腕も完治していないしね」
そうランスロットが言うと、マリーナが私に抱きつきながら話す。
「お父様、わたしも寂しいです。けれど、お二人は世直しとお国へ戻って、王位継承権の争いを諌めなければなりませんから」
「それはそうなのだが……でもなぁ……」
ローゼンスタイン伯爵は失礼にも私を指差し、「牛だしなぁ」と言うじゃない。
そうです、やっぱり私は白い牛のままなのです……なんでよイストメール様!?
あれから気がついたらまた牛になっていたの。
その後すぐにイストメール様が顕現なさって、「貴女が牛の体を気に入ってしまったから、そのせいですね」と素敵な笑顔でいいやが……コホン。おっしゃった。
でも自分が必要と思ったら、何かのきっかけで元に戻れるみたい。
むぅ、ちょっと不便だけど、まぁ今さら牛でも人でもどっちでもいいかな。
「う、牛でも話せるようになったからいいんだもん!」
「カカカ! そうだぞ人間。これぞ大きな一歩といえよう」
「毛玉様も元のお姿に戻られてしまったし不憫な……」
「違う! 吾の姿は雄々しきフェンリ――ぷもッ!?」
オウレンジ村の子どもたちが駆け寄ってきて私の首に抱きついた拍子に、人の頭でふんそりかえっていたジローが転げ落ちる。フェンリルなのに不憫な……。
「お姉ちゃん、また旅にでちゃうのかい!?」
「いやだよ~あたいもいっしょにいく~!!」
「うわっ、ごめんね。また来るから、一緒にあそぼうね?」
「やだ! いま遊ぶの!」
そう言うと、小さな女の子はヒョイっと背中に飛び乗り頬ずりをする。ほんと、何者なのオウレンジ村の住民は。
こんな小さな子でも、驚くべき身体能力もあるし……その……牛のかぶりものしているし!?
「これこれ、アネモネ様に乗ってはいかんぞ? 聖牛様のうえに大聖女様なのじゃからな」
「そ、村長。もう聖牛って言わないでって言ってるじゃない! 村長が変なこと言うから、ほら……」
視線の先を全員が見る。
すると、ローゼンスタイン伯爵邸の中庭に、巨大な牛の銅像がたっていた。
なんでも領内で指折りのドワーフが、寝ないで命がけで作ったらしい。無駄にステキスキルを使わないで!?
「ハハハ、これも聖牛発祥の地として、歴史に刻まれましょうな」
「やめてよモ~! そんな歴史は黒歴史として封印なさい!」
「あはは、アネモネ口調がモ~って、りっぱな牛さんだね」
「うるさい優男! とっとと行くんだからね!」
なんだか悔しいから舌を出してやると、子供たちが喜んでひっぱる。やめて伸びちゃうから!?
「モ~しらない! 私先にいくから~」
そう言って駆け出すと、ランスロットが「待っておくれよアネモネ!」と楽しそうに叫ぶ。
振り向くと、全員が両手を上げて勢いよく振りながらお別れの挨拶をしてくれた。
「アネモネまた来てね! 絶対にだよ! セバスとずっと待ってるから!!」
「アネモネ様、我が領を救ってくれてありがとうございました!!」
「お姉ちゃんまたねえええ!!」
「ばいばーい!! また背中に乗せてねえええ!!」
それを見て涙があふれたけれど、悔しいから「気が向いたらね!!」と言ってやった。だから絶対またくるんだもん。
そんな私を見てランスロットは、ジローを抱えて走ってくる。
そっと頭にジローを乗せると、「さ、行こう」と言って首筋を軽く撫でてくれた。やめて! 牛だったころじゃないんだから恥ずかしいじゃない……って、牛だった!!
「あはは、本当にキミと一緒にいると飽きないね」
「う、うるさい。もぅいきなり触らないでよね!」
「いや……だったかい?」
「べ、別にそういうわけじゃないし」
寂しそうな顔をする優男に、そっと首をあずけてみる。
すると満面の笑みで「すなおじゃないな」とか言われたし! ふん、どうせ素直じゃないもんね!
その時だった。丘の上の教会の鐘が鳴り響く。
「あれは確か……そうだ、聖女を称える鐘の音だったよね?」
「うん……しかもあれは大聖女専用にアレンジされたものだよ」
「カカカ! それは良いな。うむ、今度は吾を称える曲も作らせようぞ!」
「じゃあランスロットのも作ってもらおうよ」
「あはは。それは楽しみが増えたね。さ、旅立ちの時だ」
領都の大門をくぐり、私たちは旅に出る。
あの時は不安で一杯だったけれど、今は希望に満ちた光景に胸が踊る。
優しく頬を撫でる風が心地よく、遠くで鳴り響くセイント・メージェリルの鐘の音が、旅立つ私たちを祝福してくれる。
そう、追い風が続く限り、いつまでも……いつまでも……。
▓▓▓ あとがき ▓▓▓
最後までお読み頂きありがとうございます。
度重なるタイマーの設定ミス、本当に失礼しました(^_^;)
ここまでで一応一区切りとなりましたので、お話はおしまいとなります。
今後二人と一匹の旅はどうなるのか?
それは機会があれば、またどこかで皆さんのお目に触れる機会があればと思います。
え? それじゃたりない? では展開を少しだけ……
この後、ランスロットの国に行く二人と一匹。
そこで待ち受けるのは、王位継承権を争う兄弟達。
ランスロットは王位継承権第三位の地位でしたが、悪辣な継母と皇太子の罠にハマり左手に呪いを受けてしまう。
それを解呪するためにファルメル王国に来たのだが、それもアネモネのお陰で左手も沈静化しつつあった。
そこにローゼンスタイン伯爵の元へ、隣国ハインデッカー帝国で政争が激化していると報告があり、自分を守ってくれていた姉のエターナルがピンチと知り、アネモネと帝国へ帰還するが……。
と、こんな感じでお話が進みます。
また機会があれば、どこかでお会いしましょう。
あ、もしよろしけば、ファンタジー大賞の応援もよろしくお願いします。
ではでは皆様。すてきな一日を。
「イ、イストメール……様……」
「ええ。貴女を認め、貴女を愛し、貴女を筆頭として認めた駄女神イストメールです」
「くっ、いえそので――」
思わず釈明をしようとするが、この駄女神のやつ言葉を被せてきた。不愉快ですわ。
「――見え透いた釈明は結構。それに貴女の未来はすでに決まっていますし、不愉快なのは私ですが?」
「は……? え!? ワタクシの心が読まれているですの!?」
「ハァ、そのリアクションは全員共通なのですね。ええそうです。眼の前に居れば、貴女のドブ臭い心根の全てを読めますよ」
そんな!? こ、これでは隠し事すら出来ないの?
「そうですよ。だからもう何を貴女が言おうと無駄なのです」
「ま、待ってくださいませ! 今わかりました、イストメール様と直にお会いして、ワタクシの力がいかに非力かと。だからどうかお許しください、ワタクシが全て悪うございました!!」
するととても嫌な顔をしながら、ワタクシを蔑みつつ吐き捨てる。
「ですから思ってもいない事を言うのはおよしなさい。全てお見通しなのですから」
「クッ!? そ、そんな事はありませんわ。心の底からイストメール様を尊敬し、敬い、信じています!!」
「そう……信じてくれるのですね?」
「はい! それはもちろんですわ!!」
「なら話も早いですわね」
「と、おっしゃいますと?」
「なに簡単な事ですよ……元・聖女マリエッタよ、貴女に試練を与えます」
ま、待って!? 試練ってまさかアネモネと同じ……。
「そうです。今貴女が心で思った通り、アネモネと同じ牛……いえ、メスブタになりなさい」
「なッ!? そ、そんな!! それはあまりに酷いです! せめて下民ほどでお許しください!!」
「はぁ。これでも最大限の譲歩ですよ? 本来なら魂の一変すら残さず、この世はもちろん、あの世でも存在を完全に抹消するつもりでした。しかしアネモネが今回の形で貴女を救ってくれと言うもので、仕方なくブタにしてあげるのです」
くそッ、それじゃあアネモネがワタクシをこんな目にあわせようと……許せないですわ!!
「そうそう。貴女はアネモネに一つだけ勝てている部分があります」
「え!? そ、それじゃあワタクシは救われるのですか?!」
「救われるのではなく、救われないのですよ……その馬鹿さ加減がね。貴女はアネモネを抜いて、歴代聖女の中でトップのクズになりました」
「そ、そんな?! そんな事はありません、よく考えてみてください!!」
「ハァ、話すだけ無駄ですね。ではさようなら、マリエッタ・フォン・ドーズ。メスブタライフに光あれ」
「そんな! 待ってくださいイストメール様?!」
おぼろげになるクソ女神に泣きながら手を伸ばす。
すると何かがおかしい……って、ワタクシの手が白ブタになった?!
「嘘でしょおおおおお!! 元に戻して!! お願いですわ!! イストメール様ああああ!!」
瞬間灰色の世界がもとに戻り、女神が消え去った後に大波が来て呑み込まれてしまう。
苦しくて足掻くけれど、ワタクシの今の体型ではどうする事もできずに水流にもまれて意識を失ってしまう……。
◇◇◇
「しっかす、あの聖騎士様にもらった人形がひっぱるから来てみれば、まさか白牛ならぬ白豚がいるとはなぁ」
「んだな兄ちゃん。不思議な事もあるっぺなぁ」
……んん……ここはどこですの?
知らない森の中ですわね。え、誰かいるのですか?
あれは……そう、ジハードに渡したアネモネ探索用の人形ですわね。アネモネと深く関わった疑いのある人間に、探索させようと思って渡したものですが何故この者たちが?
「お、兄ちゃん。白豚が目を覚ましたべさ」
「おお?! 流石は弟だべ! おらはてっきり死んずまったかと思ったべさ」
「チチチ、短慮はいけねぇといつもオラが言ってるべ?」
「天才か! 流石は弟だっぺなぁ」
なるほど。あの駄女神も早速ワタクシへも、案内人をつけてくれたようですわね。
聞けばアネモネにも、ランスロットと言う者が導いたらしいですし、見た目は醜悪な農民どもですが、まぁ居ないよりはいいでしょう。
まずはこの者どもの家に行って、そこから今後を考えましょうか。
「さてと。んじゃ~いっちょ掻っさばくべなぁ兄ちゃん」
ん? 何か獲物でも取ってワタクシをもてなすのかしら? 愚民にしては気が利くことですわね。
「んだな! んじゃ、おらの愛刀・菜切り包丁の出番だべ!」
ちッ、所詮は農家の愚民。ワタクシもてなしに菜っ葉を使おうだなどと!? 聖女に戻ったら、御礼として首をハネてさしあげますわ。
「いよッ! 待ってますた! 兄ちゃんの肉さばきは芸術だっぺよ~」
……は? 肉さばき? 菜切り包丁で? 一体なんの肉をさばこうというのです?
って、まさか……クソッ! 両手両足が縛られて動けないだなんて!?
「お? なんだこの白ブタ。いきなり暴れ出したっぺよ。やっぱ〆るにゃ生きてるのが一番だから、仕方ねぇべかな」
「大丈夫だで兄ちゃん。白牛でこりたから、今度は逃さねぇように縄でキツク縛ってあるべさ」
「天・才・か!? 流石はオラの弟だっぺな~。んじゃ、早速肥え太った腹からいくべかな~」
冗談じゃありませんわ!? この愚民どもがッ!! みてなさい今殺してあげますわ!!
「第七聖典開放! 迫害の騎士召喚ッ!! ……な、なぜ魔法が使えないのです!?」
「……なぁ弟よ。なんだかオラこの白豚さぁ」
「あぁ兄ちゃんも思っただか……」
な、なんですのその目は!? 見下しているんじゃないですわ!!
「「ムカツクよな」」
や、やめなさい! そんな錆びた包丁でなに――
「――ギャアアアアアアア!? やめ! や゛め゛て゛え゛え゛え゛!!」
「うっぷ……兄ちゃんひでえ臭いだっぺさ! なんだっぺこの白豚!?」
「うっぷ……腹の中が真っ黒すぎて気色わるいだっぺさ?!」
「兄ちゃん、こったらもの食ったら、おらたち腹壊すど」
「天才か!! んだな、こんな臭くて真っ黒な腹のブタっこなんて食ったら腹壊すだっぺな~」
ぐうぅぅワタクシのお腹がああああああ?!
「でもまぁ、ものは試しって言うべ?」
「んだな、兄ちゃんの言う通り他も切ってみっか~」
や、や、やめ、やめなさい!? イヤ!! お願い!! やめてえええええええええええ!!!!!!
……………………
…………
……
「……やっぱダメだな。肉まで真っ黒だべ」
「カラスですら肉は赤くねぇのになぁ。とんだ魔豚だったべさ。さ、こんな臭え豚っこは捨てて帰るべ」
帰る二人をうらめしそうに見る白い豚の首。
その瞳は光を失い、自然の摂理がその身を土に返すまで、森の奥で苦悶の表情で転がることしか出来ない。
それを見た慈愛の女神イストメールは、「ここまで早く結果がでるとは……まさに因果律の凄まじさですね」と一言つぶやくと、下界を見る事をやめたのだった。
◇◇◇
――エピーローグ――
アネモネたちはローゼンスタイン伯爵の屋敷で盛大な歓迎を受けた後、ここに留まらないかと提案される。
どうせ王都へ戻っても、あの愚王の事だから、また良からぬ事を企んでるかもしれないと言う配慮からだった。
「アネモネ様……お心は変わらずでございますか?」
「ええ。その気持だけもらっておくよ、ローゼンスタイン伯爵」
「ランスロット様もですか?」
「そうだね。僕もまた旅を続ける理由もあるんだ。それにまだ左腕も完治していないしね」
そうランスロットが言うと、マリーナが私に抱きつきながら話す。
「お父様、わたしも寂しいです。けれど、お二人は世直しとお国へ戻って、王位継承権の争いを諌めなければなりませんから」
「それはそうなのだが……でもなぁ……」
ローゼンスタイン伯爵は失礼にも私を指差し、「牛だしなぁ」と言うじゃない。
そうです、やっぱり私は白い牛のままなのです……なんでよイストメール様!?
あれから気がついたらまた牛になっていたの。
その後すぐにイストメール様が顕現なさって、「貴女が牛の体を気に入ってしまったから、そのせいですね」と素敵な笑顔でいいやが……コホン。おっしゃった。
でも自分が必要と思ったら、何かのきっかけで元に戻れるみたい。
むぅ、ちょっと不便だけど、まぁ今さら牛でも人でもどっちでもいいかな。
「う、牛でも話せるようになったからいいんだもん!」
「カカカ! そうだぞ人間。これぞ大きな一歩といえよう」
「毛玉様も元のお姿に戻られてしまったし不憫な……」
「違う! 吾の姿は雄々しきフェンリ――ぷもッ!?」
オウレンジ村の子どもたちが駆け寄ってきて私の首に抱きついた拍子に、人の頭でふんそりかえっていたジローが転げ落ちる。フェンリルなのに不憫な……。
「お姉ちゃん、また旅にでちゃうのかい!?」
「いやだよ~あたいもいっしょにいく~!!」
「うわっ、ごめんね。また来るから、一緒にあそぼうね?」
「やだ! いま遊ぶの!」
そう言うと、小さな女の子はヒョイっと背中に飛び乗り頬ずりをする。ほんと、何者なのオウレンジ村の住民は。
こんな小さな子でも、驚くべき身体能力もあるし……その……牛のかぶりものしているし!?
「これこれ、アネモネ様に乗ってはいかんぞ? 聖牛様のうえに大聖女様なのじゃからな」
「そ、村長。もう聖牛って言わないでって言ってるじゃない! 村長が変なこと言うから、ほら……」
視線の先を全員が見る。
すると、ローゼンスタイン伯爵邸の中庭に、巨大な牛の銅像がたっていた。
なんでも領内で指折りのドワーフが、寝ないで命がけで作ったらしい。無駄にステキスキルを使わないで!?
「ハハハ、これも聖牛発祥の地として、歴史に刻まれましょうな」
「やめてよモ~! そんな歴史は黒歴史として封印なさい!」
「あはは、アネモネ口調がモ~って、りっぱな牛さんだね」
「うるさい優男! とっとと行くんだからね!」
なんだか悔しいから舌を出してやると、子供たちが喜んでひっぱる。やめて伸びちゃうから!?
「モ~しらない! 私先にいくから~」
そう言って駆け出すと、ランスロットが「待っておくれよアネモネ!」と楽しそうに叫ぶ。
振り向くと、全員が両手を上げて勢いよく振りながらお別れの挨拶をしてくれた。
「アネモネまた来てね! 絶対にだよ! セバスとずっと待ってるから!!」
「アネモネ様、我が領を救ってくれてありがとうございました!!」
「お姉ちゃんまたねえええ!!」
「ばいばーい!! また背中に乗せてねえええ!!」
それを見て涙があふれたけれど、悔しいから「気が向いたらね!!」と言ってやった。だから絶対またくるんだもん。
そんな私を見てランスロットは、ジローを抱えて走ってくる。
そっと頭にジローを乗せると、「さ、行こう」と言って首筋を軽く撫でてくれた。やめて! 牛だったころじゃないんだから恥ずかしいじゃない……って、牛だった!!
「あはは、本当にキミと一緒にいると飽きないね」
「う、うるさい。もぅいきなり触らないでよね!」
「いや……だったかい?」
「べ、別にそういうわけじゃないし」
寂しそうな顔をする優男に、そっと首をあずけてみる。
すると満面の笑みで「すなおじゃないな」とか言われたし! ふん、どうせ素直じゃないもんね!
その時だった。丘の上の教会の鐘が鳴り響く。
「あれは確か……そうだ、聖女を称える鐘の音だったよね?」
「うん……しかもあれは大聖女専用にアレンジされたものだよ」
「カカカ! それは良いな。うむ、今度は吾を称える曲も作らせようぞ!」
「じゃあランスロットのも作ってもらおうよ」
「あはは。それは楽しみが増えたね。さ、旅立ちの時だ」
領都の大門をくぐり、私たちは旅に出る。
あの時は不安で一杯だったけれど、今は希望に満ちた光景に胸が踊る。
優しく頬を撫でる風が心地よく、遠くで鳴り響くセイント・メージェリルの鐘の音が、旅立つ私たちを祝福してくれる。
そう、追い風が続く限り、いつまでも……いつまでも……。
▓▓▓ あとがき ▓▓▓
最後までお読み頂きありがとうございます。
度重なるタイマーの設定ミス、本当に失礼しました(^_^;)
ここまでで一応一区切りとなりましたので、お話はおしまいとなります。
今後二人と一匹の旅はどうなるのか?
それは機会があれば、またどこかで皆さんのお目に触れる機会があればと思います。
え? それじゃたりない? では展開を少しだけ……
この後、ランスロットの国に行く二人と一匹。
そこで待ち受けるのは、王位継承権を争う兄弟達。
ランスロットは王位継承権第三位の地位でしたが、悪辣な継母と皇太子の罠にハマり左手に呪いを受けてしまう。
それを解呪するためにファルメル王国に来たのだが、それもアネモネのお陰で左手も沈静化しつつあった。
そこにローゼンスタイン伯爵の元へ、隣国ハインデッカー帝国で政争が激化していると報告があり、自分を守ってくれていた姉のエターナルがピンチと知り、アネモネと帝国へ帰還するが……。
と、こんな感じでお話が進みます。
また機会があれば、どこかでお会いしましょう。
あ、もしよろしけば、ファンタジー大賞の応援もよろしくお願いします。
ではでは皆様。すてきな一日を。
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牛っ子べこちゃんならず
モフッとフェンリルだと?((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
まだ見ている途中ですがわくわくが止まらないぜよ!o(><;)(;><)oジタバタ
牛の中の人は悪ぶっている小娘と…
......おっとこれ以上はわくわくさんが来るので
又の機会にするモンに≡≡≡⊂( ・ω・)⊃ブーン
ヤマトさん!!
こんにちわあ!!
連載終わってしばらく見てなかったので、お返事遅くなってすみませんでした( ;∀;)
モフッと大聖女はお楽しみいただけたでしょうか?
そうだったら嬉しいですねぇ
感想ありがとうございますん(*´ω`*)
竹内先生、完走おめでとう御座います。アネモネが、もーって言っている姿がとてもかわいくて、ランスロットとのちょうどいいかけ合いがすごくすきでした。
シンピジウムさん、こんにちわ(*´ω`*)
お返事遅くなってすみません( ;∀;)
お陰様で無事に連載終わりました。
これも最後まで読んでくれた、シンピジウムさんのおかけです。
ありがとー✧◝(⁰▿⁰)◜✧
完結お疲れ様でした( ⸝⸝ ◜ω◝⸝⸝ )月はランスロットの国のお話なんですね。それも面白そうで今から楽しみです。
ウミガメさん、こんんちわ~(´ω`)
最後までお読みいただき、ありがとうございます♪
おかげさまで完結まで頑張れました。
もし機会があれば、続きをお見せできればと思います。
これまでの応援、本当にありがとうございます!!(´;ω;`)b