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059:ランスロット・フォン・ハインデッカー 

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「だからなんだと言うのです? アネモネは牛となった大罪人。それこそがイストメール様が下した結果が全て。それに対し、いかに聖女と言えど疑問を持つことは許されないのです」
「大罪? なら貴女がうちの領地で行わせている事も大罪じゃないのかしら?」

 その言葉にマリエッタ様は小さく舌打ちをすると、「余計な事を」と吐き捨て話す。

「ワタクシがここで何をしたと言うのです?」
「とぼけても無駄! 貴女は神聖力を奪って王都へと運ばせていたでしょう! それをさせるためにお父様をさらった! そうでしょう!?」

 マリエッタ様は「あらあら、何を根拠にそんな事を」と言いながらおどけてみせる。
 その事にこれまであった事をぶつけるけど、所詮は状況証拠にしかすぎない。

「――つまり何も証拠がない。結局それって貴女の感想です・・・・・・・わね? ローゼンスタイン伯爵家の娘とあろう者が、憶測だけでモノを言うものじゃなくてよ?」

 そう言われてしまい、マリーナは「ち、違う!!」と叫ぶ。だから私が続けて話す。

「ケホッ……マリエッタ様の言う通り、証拠が薄いよ」
「アネモネ貴女まで!?」
「そう。神聖力に理解がたりないと、薄いって思わせる事は出来ちゃう。だけど大聖女わたしにはそれは通じない。それはマリエッタ様……私を教育した貴女が一番知っているはず」

 一瞬ピクリとこめかみを動かすマリエッタ様だけど、すぐに微笑みをまぜて「何を言っているのかしら?」と返す。

 だからマリーナへと「アレを貸して」と例の木箱を受け取り、それを開きながら話す。
 ソレが何かを分かったマリエッタ様は、「そ、それは!?」と血相を変えて叫ぶ。

「そう、オハラが盗んだ超・高濃度エリクラムです。淀んだ地下空間ですら一気に清浄化できるほどの物。お分かりでしょうマリエッタ様……こんな事が出来るのは、私か貴女しかいないのですから!!」

 この言葉は確実にマリエッタ様へと届く。でもまだ、そう。まだ足りない。
 だってそれは私が今、自分で言ったままなのだから。

「アネモネ……貴女はまた罪を重ねるのですね」
「…………」
「そこまで精製されたエリクラムは、最早神の遺物といっていいモノ。それを作り出すとは、まさに神をも恐れぬ所業」

「そうですね、私は作れます。けれど、マリエッタ様も作れる」
「ええ作れますとも。でもそんな大罪を犯すメリットがない。ですが貴女にはあるようですね?」

 マリエッタ様は、ランスロットを指差し話す。

「そこな悪魔と取引をしたのでしょう? エリクラムを渡す代わりに、人間に戻る手助けをすると。だから女神様の神罰を超えて、人に戻る事が出来た。それがなによりの証拠と言えましょう」

 やっぱりそう来るよね。
 悪魔にとってエリクラムは絶対に作り出せない。けれど、自分の力を飛躍的に高めるには秘宝そのものだという。
 それを取引材料としてと疑われるのは理解していた……ここからどうしよう。このままでは……。

 そう思っていると、ランスロットが苦しげに話す。

「聖女マリエッタよ、それは違う」
「なんです悪魔風情が? ワタクシの名を呼ぶだなどと、汚らわしいですわ」
「それは失礼。だけど悪魔じゃないから話を聞いてくれるかい?」

 ランスロットはそう言うと、剣を杖にして立ち上がる。
 そして握りて部分の柄にあたる部位を指で弾くと、そこに刻まれた紋章が浮かび上がる。
 どうやら魔法でソレは隠蔽されていたみたいで、それが空間へと紋章が投影された。

「ッ!? そ、その紋章はハインデッカー帝国のモノ。しかも皇室専用のものですわね。貴方は一体……」
「僕はランスロット・フォン・ハインデッカー。けして悪魔などではないと、国に誓おう」

 するどく言い放つランスロット。
 それに蹴落とされ、流石のマリエッタ様も「ぐぅ」と唸る。
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