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055:鏡の華と、聖なる剣
しおりを挟むオハラは「死ねええええ!!」と、毒が滴るナイフを私の首へと向けて振り下ろす。
大聖女の頃なら鼻歌まじりでかわせる攻撃も、今はそうはいかない。
体が思うように動かず、むしろ恐怖で体がさらに硬直しちゃう。
思わず両目をキツく閉じ、痛いのかな? 血がいっぱいでるのかな? なんて、場違いな事を思っていると、運は私に味方したみたい。
「死ぬのは貴方よ! オハラ!!」
倒れていたマリーナは起き上がると、オハラの背後から全身全霊でタックルする。
そのまま私の所へ来ると、「逃げるわよ!!」と言いながらお尻を押してくれた。
その温かい手の感触で体に力が戻ってきて、マリーナと一緒に走る。
「クッ、この程度で自分がやられると思ったら大間違いだぞ!!」
「そうね。だからもっと凄いのがやってくるわよ? ほら」
マリーナは天井を指差す。
すると丁度、優男がジハードの神山破斬を真上へと吹き飛ばしたところだった。
「……へ? そ、そんな馬鹿ヴォ!?」
それがオハラの最後の言葉となり、天井から落ちてきた大きな石に潰されてしまう。
「助かったよアネモネ。本当にありがとう」
「いいの。私も助けてくれてありがとうね」
お互いに顔を見ながら御礼を言う。
ちょっと前まで私に憎しみすら感じた彼女の顔はそこにはなく、むしろ親しみを感じられた。
それに私も素直に御礼を言えて、なんだか少しむずむずする。
気恥ずかしさと不思議な気持ちで一杯だったけど、状況はそれを許さずに進む。
優男は最後の仕上げとばかりに、巨大な魔法の剣を斜め上に押し上げて、完全に神山破斬の斬撃を天井へと受け流す。
瞬間、地上へと巨大な爆発が起き、土砂も瓦礫も一気に押し上げられてしまう。
頭上の土ほこりが地下に溜まった空気とともに押上げられ、一筋の光を先頭に、一気に周囲が光につつまれた。
さらに土埃が消え去ると、真っ青な空が目に飛び込み、いまや地下水道とは言えないオープンな空間へと変わっていた。
それにしてもなんて威力なの? 神山破斬の威力は知っているけど、優男の防御業も普通じゃないよ。
一体優男ってなにものなの?
「みんな無事かい!?」
「大丈夫だよ」
「私たちは大丈夫ですが、セバスがオハラに生き埋めにされてしまって……って、セバス!? セバス返事をなさい!」
「セバス殿……すまない、そっちは任せた」
「はい! ランス様は心おきなく、全面の敵を!」
どうやら今の崩落で、聖騎士団もかなりの被害がでたみたい。
まともに動けるのは数人で、それを見たジハードは苦々しく吐き捨てる。
「チッ、まさかこの空間で神山破斬を弾き飛ばすとはな……一歩間違えばキサマも死んでたいたろうに」
「何を言っているんだい? 元々そのつもりだったろうに。それにキミが放ったコースは、アネモネ達まで巻き込む……逃げるわけにはいかないだろう?」
(クソ。まさか渾身の神山破斬が防がれるとは。しかも無傷だと? 冗談ではない、俺より強いのか? だが、なんとしても魔牛だけは仕留めねば……なにか方法は……ん? やるではないかオハラ。クズだったがいい仕事をする)
「大口を叩く割には苦しそうじゃないか? なぁ隣国の武芸者・ランスよ」
その言葉で優男を見ると、たしかに息があがっていた。
大技を使ったからだと優男は言うが、絶対違う。
裏切り者のオハラにやられた毒にやられたのと、もう一つ――。
「悪魔の力を使ったから……」
「大丈夫、そんなに心配そうな顔をしないでおくれよアネモネ。僕は負けないから」
その言葉どおり、優男は一つ深呼吸をすると、ジハードへと走り出す。
毒と悪魔の力による弊害なんてないように、驚くほどのスピードでジハードを追い詰めていく。
「くぅぅ!? なんだキサマのその動きはああああ?! 剣が追いつかぬッ!!」
「仕上げだよ。武帝アーツ・六式! 蓮鏡崩華ッ!!」
ジハードの真上に飛び上がる優男は、剣を空間に突き刺す。
すると剣の先が消え失せ、次の瞬間ジハードの背後より剣先が現れ攻撃。
「こんなモノでええ! なにぃぃッ?!」
さらに空間が歪み、鏡の華が現れ、それが砕けて破片になると、それが剣になる。
そこから剣先が複数現れると、ジハードへ一斉に斬りかかった。
だから思わず、興奮して背中のジローへと思いを伝えちゃう。
『すごい! 本当にあのジハードに勝っちゃうよ!?』
『うむ。毒にやられ、悪魔に侵食された動きとは到底思えぬな』
いける! 絶対にジハードに勝つ! そう思った矢先に決着がつく――思いもよらぬ事で。
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