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051:ハメられた大聖女

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 ――そこから数十分後、私たちは水路の入り口になる管理棟へと到着した。
 ここまで誰にも見つからなかったのはラッキーだったけれど、今後はどうなるかわからない。
 だから牛の体という不便さにくわえ、皆に迷惑をかけてしまうのではと不安になる。

「大丈夫。僕がいるから」
うんもぅ……」

 私の不安な気持ちを見透かしたのか、優男は優しく撫でてくれたけれど、やっぱり不安は拭えないよ。
 優男を先頭に、三人が続き、その後に私が続く。

『心配か?』
『うん……でもなんだろう。よく分からないんだけど、逃げちゃダメって心がざわめくの』
『ふむ。もしやここが最後の地となるやもしれぬな』
『え? 最後の地? それは一体なんなの?』
『カカカ! 今は知らなくてもよい。それより妙じゃないか? ここまで来る間は襲われなかったが、道中二度も襲われた。それも人間にな』

 そう。なぜか盗賊に二度も襲われてしまい、ここまで来るのに時間がかかっちゃった。
 でもどうして? 盗賊だからたまたま襲ってきたの? 
 行く先々で襲われた事に疑問を感じながらも、ジローの言葉に『なんだか嫌な感じだね』と答えた。

 水路に入ると湿度が高く、毛がしっとりとして気持ちが悪い。
 そんな水路を進むと、まさに迷路といった感じで、初めて入った人なら確実に迷っちゃう。
 でもそこはここを知り尽くした男、セバスタンがいるから安心だよね。

 あっという間に迷路を攻略してしまうと、行き止まりへと付いた。道を間違えたのかな?

「ここが終点でございます」
「終点ってセバス。いきどまりじゃない?」
「はは、ですからこうするのですよお嬢様」

 タン爺はレンガの一つを勢いよく押すと、何かが外れる音がしたと同時に、壁が上にせりあがる。
 驚く私たちを楽しそうに見ながら、タン爺は壁の向こう側へと行くと、「さぁこちらへ」と左手を出しながら案内してくれた。

「まさかこんな場所があったなんて……」
「ここは隠し通路ですから、緊急時以外は使わないことなっています。そして、使われなくなった部屋へとつながる唯一の通路でもあります」

 タン爺は壁に備え付けられた魔具のスイッチを押すと、一気に通路全体にあるランプが点灯した。
 少し幻想的ですらある光景に息を呑んだけれど、奥から確実に感じる悪い気配が浮ついた気持ちを抑える。

 油断なく進むと、オハラ会頭が通路の奥を指差しナニカに気がつく。

「セバス殿。あれは一体なんですか?」
「ん……? ッ!? しまった、敵に気が付かれたようです。誰も居ないと思い、通路の明かりを付けたのが失敗しました」

 見れば遠くから通路の明かりとは別の明かりが点灯しており、それが揺らめきながら動いていた。

「こちらは敵がいるようですので、一つ戻って別の通路へと行きましょう」
「そうですな。オハラ会頭の言う通り別の道をいきましょう。お嬢様、ランス殿。この先は明かりを抑えるので、足元にお気をつけて」

 それに全員黙ってうなずくと、タン爺のあとへと続く。
 さらに十分ほど移動すると、またしてもオハラ会頭が奥の異変に気がついた。

「セバス殿……まさかアレも敵でしょうか?」

 またしても一番に気がつくオハラ会頭の言葉に、全員の視線がその先を見つめる。
 すると確かにまた通路の奥がかすかに揺れる光を放っているようで、どうやら敵がいると想像がついた。

「ここにも敵が……セバス。どうするのです?」
「安心してくださいお嬢様、道はまだあります。少し戻りますが別のルートを参りましょう」

 そんな状態が何度か続き、いよいよ選択肢が狭まってきた頃、ジローが吐き捨てるように話す。

『ふん、そういう事か。アネモネ注意しろ、どうやらハメられたようだ』
『ハメられた? え、一体誰に?』
『ここに入ってから、貴様は敵を見たか?』

『うん、通路の奥で光が揺らいでいたから、その奥に居たはずだよね?』
『ちがう。直接見たのか? ということだ』
『確かに見ていないけど……ッ、まさか!?』
『そうだ、そのまさかだ。まぁ答えはすぐに分かるだろうがな』

 ジローの言葉が終わると同時に、いきなり広い部屋へと到着した。



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 更新が遅くなってすみません。(⁠´⁠;⁠ω⁠;⁠`⁠)ごめんね。
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