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029:タンと大聖女

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「すごい音がしたから来てみたら、一体何事だい? って、その人たちは呪いで死んでいるのか!?」

 今は元に戻っているけれど、自分の左手の事を思い出したのか優男は一歩後ずさる。
 でもすぐに気を取り直し、私の元へと駆け寄り「ケガはないかい?」と撫でてくれた。うん、首の後ろまで撫でなさいよね。

 絶妙な撫でを楽しんでいると、後ろから馬車の三人組も来たみたい。ダメよ? この撫では私専用なんだから。

「突然飛び出されて一体どうしたのですか? ――ッ!? ケ、ケンズィとウィズィ兄弟がなぜここに」

 どうやら赤髪はコイツらを知ってるみたいね。ますます普通の旅じゃなさそう。

「貴女はこの人たちが誰かを知っているんですか?」

 優男がそうたずねると、赤髪は執爺ちゃんへと硬い表情を向けてうなずく。

「爺や、わたしはこの方に協力していただこうと思います」
「し、しかしお嬢様。見ず知らずの方に頼るなどと!」

 何勝手なことを言っているのさ。私たちはアテのない旅をするのに忙しいの。だから暇じゃないのよ?
 そんな事を思っていると、商人風の男が後頭部をなでながら話す。

「セバスさん、この状況ではとても領内を脱出できるとは思えませんが?」
「オハラの言う通りです。この兄弟が来た意味……そしてこの家宝のローブが持ち出された意味を、あなたも分かるでしょうセバス?」

 執爺ちゃんあらため、セバス爺は「くッ……わかりました」と承諾する。いや、そこはもっと頑張って抵抗しようよ。ぜったいに面倒事の予感しかしないもん。

「ここで知り合ったのもなにかの縁ですよセバスさん。お嬢さん、僕でよかったらお力になります」

 言った! 優男、あんたならぜ~~~ったいに言うと思った!
 そう思っているとジローが『そこぬけのお人好しか?』と聞くものだから、『そこぬけの馬鹿なのよ』と返す。
 すると『さもあろう。珍妙な白牛を飼うのだからな』とか言われちゃう。

 あんた、合わせ鏡でその姿を見てみなさい。十分に珍妙な存在だと思うんですが!?

「本当ですか!? ありがとうございます」

 胸の前で両手を握りしめ、頬を染めて喜ぶ赤髪。
 そして貴族階級でも中々見れない、赤いドレスのスソをつまみながら、見事なカーテシーを完璧にこなしながら挨拶をする。

「申し遅れました。わたしはローゼンスタイン伯爵家の長女、マリーナ・フォン・ローゼンスタインでございます。此度こたびは我ら三名をお救いくださり、感謝のいたりでございます」

 やるわね赤髪。完璧な淑女の挨拶ですわね、フンだ。
 それにしてもローゼンスタインにこんな娘いたかな? しかも長女なら王宮で会ってもおかしくないよね? 
 何かまだ色々とありそう……。

「今ほどは助命されたにも関わらず失礼の断。平にご容赦を。わたくしはローゼンスタイン家の執事で、セバスタンと申します」

 執爺ちゃん→セバス爺→タン爺!? なにその名前! そこはほら、伝統と格式を重んじて〝チャン〟でしょ!
 なぜに〝タン〟なの?! そんな可愛らしげで奇妙な名前を私の脳裏に刻まないでよ。
 タンはタンでも、そんな名前の爆誕はいらないんだからね!?

「最後は自分ですな。自分はオハラ商会の会頭のオハラと申します。以後お見知りおきを」

 普通すぎて不合格。せめてオハラタンと名乗ってから、もう一度オーディションを受けなさい。はい次の方どうぞ。

「丁寧なご挨拶、痛み入ります。僕はランスという、ただの旅人です。そしてこの白牛が僕の相棒のアネモネ。その頭に乗っているのが……えっと……毛玉犬です」
『おい貴様! 神獣の王に向かい誰が毛玉犬だ!?』
『ぷッ、毛玉犬……やめてよお腹痛いじゃない!? ぷくくく……フェンリルなのに毛玉犬ってさ?!』

 思わず爆笑していると、三人が不思議そうに見ている。何よ、失礼な愚民たちねぇ。
 ちょっぴり憤慨ふんがいしていると、マリーナが驚きながら話す。

「う、牛が笑っているのですか?」
「ええ、このは人間みたいな牛なんですよ。それで一体何があったのですか?」

 優男がそう言うと、驚いていた三人は急に顔を曇らせる。
 数秒時間を置き、マリーナは静かに話し出す――ローゼンスタイン家の闇を。


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 本日寝過ごしてしまい、投稿が遅れてしまいすみません。
 この後はいつも通りに12時前にはアップロードする予定です。

 そして、ファンタジー小説大賞の投票もしていただきまして、本当にありがとうございます。
 皆様のおかげで、現在57位となりました。
 応援のおかげで執筆のモチベもあがり、ラストまで書ききれそうです。
 
 本当にありがとうございます(⁠´⁠;⁠ω⁠;⁠`⁠)大感謝!
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