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026:ゆるされない大聖女
しおりを挟むジローはそういうけれど、それは当然だよね。
だって今の私には神聖力は使えないし、悪魔。それも上級の気配がある手を口に含むとか死にたいの? って言われても仕方がない――でも。
「ク゛モ゛オ゛オ゛オ゛ン゛!!」
口に含んだ瞬間、苦しみが体中に広がり思わず叫んじゃう。
『アネモネやめよ! 貴様が死ぬどころか、魂が四散するぞ!!』
『ここでやめたら大聖女の名が廃るってば!!』
話したことでゆるんだ悪魔の手を、さらに強く抑えて固く口を閉じる。
瞬間、気持ち悪さと魔界の波動が舌から脳内へと伝わり、吐き気と悪寒に襲われた。
でもこれは想定内! この程度を耐えられなくて、こんな馬鹿なことができますかっての。
震える体に動けと命じ、視線は天を強く、強く穿つ。
頭の先からツノをイメージし、その先を強く感じ取ろうと意識を集中。
するとツノを明確にイメージする事ができた。
だから強く、強く、願う。
慈愛の女神イストメール様。どうか優男の右手を癒やしてください!!
瞬間、ツノに雷を受けたと思えるほどに強く発光し、体がビクリと震えた直後、あれほど苦しかった呪いの影響がうそみたく消えていく。
それが口の中へと広がり、さらに優男の左手にもそれが伝わったようで、おぞましき呪いの力が嘘のように消え去った。
『ふぇぇぇ~なんとかなったぁ~』
ペっと優男の手を乱暴に吐き捨ててから、ペタリと地面へとお尻をつく。
それを見たジローは、勢いよく飛び乗ると、頭を肉球でポムポムと叩く。やめてよ、気持ちいいじゃない。
『この、この、この大馬鹿牛が!! もしイストメールが力を貸してくれなんだら、今頃死んでおったぞ!!』
『あはは、くすぐったいってばジロー』
『吾は本気で心配したのだぞ!! まったく貴様ときたらなんて無謀な事をするのだ』
『ごめんってば。でもね、何とかなると思ったの。私がイストメール様に許されていないのは知ってる……でも、優男のことは助けてくれるって信じてたもん』
倒れている優男の顔は、先程とは違い楽そう。
それを見ているだけでもホっとした。
だから後先考えずに行動しちゃったけど、その事に恐怖感はなく、むしろ清々しい気持ちになった。なった? なれるんだ私……へんなの。
よく分からない。どうしてこんな事したんだろう?
マリエッタ様は言っていた。人を救うには対価を得なくてはならないって。
でも今、優男から対価をもらうべき? わかんない。わかんないけれど――。
『――助かって本当によかったよ』
『フン、貴様のそんな顔を見たら吾はもう何も言えんではないか』
ジローはそう言うと、ぽむりと飛び上がり優男の顔へとケリを入れる。でもさ、〝ぽむ〟って音がするのはなぜ?
『いいかげん起きぬか! 貴様のせいでアネモネが死にかけたのだぞ!?』
「んんん……ここは……って、そうか左手の呪いで気を失って……え? 呪いの手が楽になっている?」
状況がのみこめたのか、優男は左手を握ったり開いたりと忙しい。
そして「うわ、ねっちょりだ!?」と、デリカシーのかけらもないセクハラをする。だまりなさいよ、変態。
「もしかしてこれはアネモネが癒してくれたのかい?」
「もしかしなくてもそうよ。他に誰が癒やすっていうのさ」
「そんな……解呪の方法を求めて旅をしていたけれど、まさかアネモネが楽にしてくれるなんて……」
楽にしただけで解呪は今はできない。
そこまでの神聖力はないし、なにより神聖魔法が使えないのが悔しい。
人間だった頃は、こんな呪い小指の先でなおせたのさ。くやしい……。
そう思っていると、優男がそっと撫でてくれる。やめてよ、なんか恥ずかしいじゃない。
「アネモネ。キミは一体……」
大聖女様よ! 崇め奉り平伏しなさいよ。そしてそのネッチョリとした手で頭を撫でないでよねッ!?
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