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018:聖女と大聖女
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「ランス様、本当にありがとうございました」
「あんちゃん、母ちゃんを助けてくれてありがとうな!」
「ランス、今度は呑み負けねぇからな? また一杯呑もうぜ!」
「ねぇねぇランス様。今度来た時まで、もっといい女になっておくからね? ふふ」
モテモテですね、ラ・ン・ス様。
いいご身分でございますね?
なによ、私だってちゃんと感謝されているんだからね?
「おおお!! 牛聖女様がワシをまた愛の尻尾で教育をしてくださるのか!?」
だまりなさい愚民A。まだ毒が頭に残っているのかしら。
「時代は聖女様より牛聖女様だべ!」
中身は一緒なんですが? あと興奮して尻尾握らないでほしいのですが?
と、いうか……嫌。見たくない気配が、背後から〝めっちょり〟と伝わって来くるんだけど……。
ふと見ると優男が、こめかみをヒクつかせながら愛想笑いをしてこっちを見ている。なによその顔は?
覚悟を決めて振り返ると、そこには……。
「「「牛聖女様あああああ!!」」」
「なんで私に集まるのは、こんな狂牛信者だけなの!?」
なぜか残った村人全員が、神に感謝を捧げる姿を超えて、魔物の生贄にでもなる娘みたいな姿で私を見て祈りを捧げていた。
ちょっとまって! 知らない人が見たら、絶対私が魔物と思われるよね?!
唖然としていると、優男が「そ、そろそろ行こうか」とやってきた。ナイスよ優男!
「牛聖女様、ランス様。いつでもお越しくだされ、ここはあなた方の家も同然じゃでな」
「はい、ありがとうございます村長さん。それじゃあまた」
「さ、さっさと行こうよ」
いそいそと村を後にする私たちだったけど、坂を下ったところで崖の上から声が聞こえた。
「牛聖女様! ランス様! また来てくれよな!!」
「「「ありがとおおおお!!」」」
甘野草を取りにいってくれた年長の男の子を先頭に、村のこどもたちが全員で手をふってくれた。
なんだか可愛らしいし、心があたたかくなって、優男と顔を見合わせた後。
「ありがとう、また来るよ!!」
「また来るからね! オウレンジ食べ過ぎちゃだめだよ!」
そう言いながら坂を下っていく。
下っていく最中も、こどもたちは感謝の言葉を贈ってくれる。
「うるさいったらありゃしない……ばかね……」
そう呟いたけれど、心がぽかぽかとした。どうしてかな? 牛になってから、本当にわからない事ばかりだよ。
マリエッタ様、私はどうしちゃったのでしょうか……。
そう思いながらも、ずっと感謝の声が渓谷にひびく……ずっと……ずっと……。
◇◇◇
――アネモネがオウレンジ村を去って数日後。
王都ファルメルにある、聖女の拠点である〝白亜宮〟内にある特等室。
そこは白亜宮の支配者たる、筆頭聖女のマリエッタの部屋となっていた。
現在はマリエッタと、対面に聖騎士団長のジハードが茶を飲みながら難しい顔で話をしている。
「ジハード団長、確かにアネモネは消えた。そうですわね?」
「はい、間違いないです。何度も申しますが、アネモネ様は寝所から出た形跡はありません」
(やはり慈愛の女神イストメール様の怒りにふれ、跡形もなく消えたのは違いないようですわね。じゃあなぜ、未だにワタクシの体に聖印が刻印されないのかしら……)
「白き刻印の条件は揃っているはずですわ……」
「白き刻印? それはどのようなものでしょうか?」
「貴方が知る事じゃなくてよジハード」
氷を吐き出したと思える言葉にゾクリとしつつ、ジハードは余計なことを言ったと内心冷や汗を浮かべた。
が、その言葉で一つの事を思い出す。
「失礼いたしました。そうそう。白と言えば、最近面白い噂を聞きまして――」
ジハードはごまかすように話しを続ける。
どうやら山間部のある村で、奇跡が起きた噂があると話す。
「山間部の奇跡?」
「ええ。なんでも白い雌牛と、その飼主が現れて、奇病を癒やしたとかいう眉唾な話です」
(この時期の奇病といえば、オウレンジ病かダダマルド病かしら……山間部となると)
「それは体にオレンジ色のアザがあったとか?」
「そうです! よくご存知ですね」
(やはり……すると、その治療法はもう一部の人間。特にワタクシともう一人しか知らないはず)
「……まさか……ッ!? そういう事でしたの。女神様も酷な事をなさいます。ジハード団長、報告にあった白い牛の話しを覚えていますわね?」
「はい、アネモノネ様の寝所に現れた魔物ですね?」
「そうです。それを早急に始末なさい。アネモネの敵です」
聖女の言葉は国王の次に権威がある。
特にマリエッタは筆頭聖女であり、ジハードは直立すると、迷うこと無く左拳を右胸につけ「ハッ! 直ちに!!」と返事をして去っていく。
「本当にいけない娘ねアネモネ。大聖女の証はもう貴女のモノじゃなくてよ」
そう言いながら純白のティーカップの縁を、右人差し指でなでる。
耳障りな音と共にカップが真っ二つになり、それを静かにマリエッタは見つめていた。
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だまりなさい愚民A。まだ毒が頭に残っているのかしら。
「時代は聖女様より牛聖女様だべ!」
中身は一緒なんですが? あと興奮して尻尾握らないでほしいのですが?
と、いうか……嫌。見たくない気配が、背後から〝めっちょり〟と伝わって来くるんだけど……。
ふと見ると優男が、こめかみをヒクつかせながら愛想笑いをしてこっちを見ている。なによその顔は?
覚悟を決めて振り返ると、そこには……。
「「「牛聖女様あああああ!!」」」
「なんで私に集まるのは、こんな狂牛信者だけなの!?」
なぜか残った村人全員が、神に感謝を捧げる姿を超えて、魔物の生贄にでもなる娘みたいな姿で私を見て祈りを捧げていた。
ちょっとまって! 知らない人が見たら、絶対私が魔物と思われるよね?!
唖然としていると、優男が「そ、そろそろ行こうか」とやってきた。ナイスよ優男!
「牛聖女様、ランス様。いつでもお越しくだされ、ここはあなた方の家も同然じゃでな」
「はい、ありがとうございます村長さん。それじゃあまた」
「さ、さっさと行こうよ」
いそいそと村を後にする私たちだったけど、坂を下ったところで崖の上から声が聞こえた。
「牛聖女様! ランス様! また来てくれよな!!」
「「「ありがとおおおお!!」」」
甘野草を取りにいってくれた年長の男の子を先頭に、村のこどもたちが全員で手をふってくれた。
なんだか可愛らしいし、心があたたかくなって、優男と顔を見合わせた後。
「ありがとう、また来るよ!!」
「また来るからね! オウレンジ食べ過ぎちゃだめだよ!」
そう言いながら坂を下っていく。
下っていく最中も、こどもたちは感謝の言葉を贈ってくれる。
「うるさいったらありゃしない……ばかね……」
そう呟いたけれど、心がぽかぽかとした。どうしてかな? 牛になってから、本当にわからない事ばかりだよ。
マリエッタ様、私はどうしちゃったのでしょうか……。
そう思いながらも、ずっと感謝の声が渓谷にひびく……ずっと……ずっと……。
◇◇◇
――アネモネがオウレンジ村を去って数日後。
王都ファルメルにある、聖女の拠点である〝白亜宮〟内にある特等室。
そこは白亜宮の支配者たる、筆頭聖女のマリエッタの部屋となっていた。
現在はマリエッタと、対面に聖騎士団長のジハードが茶を飲みながら難しい顔で話をしている。
「ジハード団長、確かにアネモネは消えた。そうですわね?」
「はい、間違いないです。何度も申しますが、アネモネ様は寝所から出た形跡はありません」
(やはり慈愛の女神イストメール様の怒りにふれ、跡形もなく消えたのは違いないようですわね。じゃあなぜ、未だにワタクシの体に聖印が刻印されないのかしら……)
「白き刻印の条件は揃っているはずですわ……」
「白き刻印? それはどのようなものでしょうか?」
「貴方が知る事じゃなくてよジハード」
氷を吐き出したと思える言葉にゾクリとしつつ、ジハードは余計なことを言ったと内心冷や汗を浮かべた。
が、その言葉で一つの事を思い出す。
「失礼いたしました。そうそう。白と言えば、最近面白い噂を聞きまして――」
ジハードはごまかすように話しを続ける。
どうやら山間部のある村で、奇跡が起きた噂があると話す。
「山間部の奇跡?」
「ええ。なんでも白い雌牛と、その飼主が現れて、奇病を癒やしたとかいう眉唾な話です」
(この時期の奇病といえば、オウレンジ病かダダマルド病かしら……山間部となると)
「それは体にオレンジ色のアザがあったとか?」
「そうです! よくご存知ですね」
(やはり……すると、その治療法はもう一部の人間。特にワタクシともう一人しか知らないはず)
「……まさか……ッ!? そういう事でしたの。女神様も酷な事をなさいます。ジハード団長、報告にあった白い牛の話しを覚えていますわね?」
「はい、アネモノネ様の寝所に現れた魔物ですね?」
「そうです。それを早急に始末なさい。アネモネの敵です」
聖女の言葉は国王の次に権威がある。
特にマリエッタは筆頭聖女であり、ジハードは直立すると、迷うこと無く左拳を右胸につけ「ハッ! 直ちに!!」と返事をして去っていく。
「本当にいけない娘ねアネモネ。大聖女の証はもう貴女のモノじゃなくてよ」
そう言いながら純白のティーカップの縁を、右人差し指でなでる。
耳障りな音と共にカップが真っ二つになり、それを静かにマリエッタは見つめていた。
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