上 下
17 / 71

016:初めての嫉妬と大聖女

しおりを挟む
「あんちゃん……本当に大丈夫なのか?」
「うん。僕の信じているアネモネが教えてくれたんだ。絶対に大丈夫!!」
「でも……もしもみんなが言ってるみたく、毒薬だったら母ちゃんが……」

 涙を堪えきれずに泣き出す愚民の子供。
 それに白い歯をニカリと見せながら、優男は出来たばかりの特効薬へコップをぶち込むと、それをすくい上げて宣言した。

「みなさん心配は無用です! なぜなら――」
 
 言葉を終わらせる前に、優男はコップの中身を一気飲みしちゃった。
 薬効を知っていても、思わず「うそ~ぶも~!?」と驚く私と同様に、愚民たちも「「「まさか!?」」」と驚く。

「ぷっは~! ほら、大丈夫!! 甘辛くて不思議な味だけど、病なんてあっという間に逃げ出すほどの元気がでますよ!!」

 優男はそう言うと、手に持った木製のコップを片手で砕いてしまう。
 いや、ちょっと待って。その特効薬にそんな効果ないんですけど!? あんた怪しげなモノは入れてないでしょうね?!

 それが功をなし、村人たちが顔を見合わせながら、一番懐疑的だった太った男が静かに手を挙げる。

「お、俺がためしてみる」
「ありがとう。キミの勇気が村を救ったと、後世まで語り継がれるだろうね。はい、落ちついて飲んでみて」

 太った男は「お、おう」と震える手で中身を飲み干す。
 すると男は「うお?! な、なんだこりゃ!?」と叫びながら服を破り捨て、体中を撫で回した。

「うそだろ……オレンジ色のアザが消えている……」

 一瞬変態かと思ったけれど、どうやら急速に回復した衝撃で、思わず服を破り捨てて確認したみたい。どうせ見るなら、ポヨンより細マッチョの方がよかったんですが?
 
 愚民βが勇気を出してくれたおかげで、その後も続々と愚民たちが特効薬を飲み、一気に回復していった……はぁ良かったぁ、間に合って。

 まったく失礼な愚民βだったけど、おかげでみんなが飲んでくれるきっかけを作ったから、失礼な態度は忘れてあげるわ。
 
 それにしても優男、あんたが一番えらいよ。
 だからみんなあんたに感謝してるんだから、すなおに感謝を受け取っておきなさいな。

「わわ!? ちょ、ちょっと待ってください! 僕は出来ることをしただけなので、そんなに頭を下げないでくださいよ!」
「何をおっしゃるか! 貴方様はこのオウレンジ村の救世主ですじゃ!! うむ、どうじゃろうか。ぜひ末の娘をもらってはくれぬじゃろうか? 年も貴方様と同じくらいじゃし、ついでに村長もしてほしいんじゃが?」

 ちょ、どさくさに紛れて何を言い出すのよ愚民Aそんちょう! 
 なに娘を押し付けて、しかも村長にさせようとしているのさ。
 むぅ……よく分からないけど、なにかイラっときたからこれでも喰らいなさいッ!!

「あ痛たッ!? 牛よ、なぜ尻尾で叩くのじゃ?!」
知らないわよブモオオオン! ハエでも止まってたんじゃないのグモオオオオオオン!!」

 ふんだ。なぜって聞かれても、自分でも知らないんだから答えようがないもん。
 でもなんでこんなにイライラしているのかな? ……考えるともっとイライラするぅぅ!
 だから「ぶふぅ~」と鼻息を吐き出すと、優男が困りながらも、とんでもないことを言い出す。

「ま、待ってください村長さんに村のみなさん。僕は旅を続けなくてはならないのです。そして勘違いをなさっているようですが、この村を救ったのは僕というよりは、この白い雌牛のアネモネなのですから」

 一気に全員の視線が私へと私へと集まる。
 そして私たちへ失礼な事を言っていた愚民たちが顔を見合わせて「そういえば……」と思い出したふうに話し出す。

「そうだった! 旅のお方も、この白牛に色々と教えをうけていた」
「そうよ! きっとこの白牛……いえ、白牛様は神の使いなのよ!!」
「「「おおおお!!」」」

 フフン。ようやく理解できたようね愚民たち。
 そうなのです、私が慈愛の女神様が直接神託で選んだ大聖女アネモネなのです。

 でも……なんで私が称賛されるのさ。流れがなんかおかしくない?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

氷狼陛下のお茶会と溺愛は比例しない!フェンリル様と会話できるようになったらオプションがついてました!

屋月 トム伽
恋愛
ディティーリア国の末王女のフィリ―ネは、社交なども出させてもらえず、王宮の離れで軟禁同様にひっそりと育っていた。そして、18歳になると大国フェンヴィルム国の陛下に嫁ぐことになった。 どこにいても変わらない。それどころかやっと外に出られるのだと思い、フェンヴィルム国の陛下フェリクスのもとへと行くと、彼はフィリ―ネを「よく来てくれた」と迎え入れてくれた。 そんなフィリ―ネに、フェリクスは毎日一緒にお茶をして欲しいと頼んでくる。 そんなある日フェリクスの幻獣フェンリルに出会う。話相手のいないフィリ―ネはフェンリルと話がしたくて「心を通わせたい」とフェンリルに願う。 望んだとおりフェンリルと言葉が通じるようになったが、フェンリルの幻獣士フェリクスにまで異変が起きてしまい……お互いの心の声が聞こえるようになってしまった。 心の声が聞こえるのは、フェンリル様だけで十分なのですが! ※あらすじは時々書き直します!

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

実は私が国を守っていたと知ってましたか? 知らない? それなら終わりです

サイコちゃん
恋愛
ノアは平民のため、地位の高い聖女候補達にいじめられていた。しかしノアは自分自身が聖女であることをすでに知っており、この国の運命は彼女の手に握られていた。ある時、ノアは聖女候補達が王子と関係を持っている場面を見てしまい、悲惨な暴行を受けそうになる。しかもその場にいた王子は見て見ぬ振りをした。その瞬間、ノアは国を捨てる決断をする――

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星河由乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

へっぽこ召喚士は、モフモフ達に好かれやすい〜失敗したら、冷酷騎士団長様を召喚しちゃいました〜

翠玉 結
ファンタジー
憧れの召喚士になったミア・スカーレット。 ただ学園内でもギリギリで、卒業できたへっぽこな召喚士。 就職先も中々見当たらないでいる中、ようやく採用されたのは魔獣騎士団。 しかも【召喚士殺し】の異名を持つ、魔獣騎士団 第四部隊への配属だった。 ヘマをしないと意気込んでいた配属初日早々、鬼畜で冷酷な団長に命じられるまま召喚獣を召喚すると……まさかの上司である騎士団長 リヒト・アンバネルを召喚してしまう! 彼らの秘密を知ってしまったミアは、何故か妙に魔獣に懐かれる体質によって、魔獣達の世話係&躾係に?! その上、団長の様子もどこかおかしくて……? 「私、召喚士なんですけどっ……!」 モフモフ達に囲まれながら、ミアのドタバタな生活が始まる…! \異世界モフモフラブファンタジー/ 毎日21時から更新します! ※カクヨム、ベリーズカフェでも掲載してます。

偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら

影茸
恋愛
 公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。  あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。  けれど、断罪したもの達は知らない。  彼女は偽物であれ、無力ではなく。  ──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。 (書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です) (少しだけタイトル変えました)

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...