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パレード 3
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震えが止まらない。
周囲の歓喜に満ちた歓声も耳に入ってこない。
色に溢れた世界もぼやけて見え、一人だけ別世界にいるようだった。
観衆の最前列に並んでいたルファは冷や汗を流しうつむき、恐る恐る、着ているローブの中を覗く。
一本の紐に通された緑色に鈍く光る石が体に巻き付いている。
”現皇帝が目の前に来たら、手に持っている赤い石を投げろ。そしてパレードの列に突っ込め”
今もルファの見張りとして隣に立つ男にそう指示されていた。
緑の石が何か聞いても男はにやにやするだけで答えない。
けれど、察しはつく。
(きっとこれは爆発するんだ。僕と一緒に)
ギュッと目を瞑る。
恐怖で呼吸が荒くなった。
(兄ちゃん助けて。どうしたらいいの?)
涙がにじみ、下唇を噛んで耐える。
泣いたら男にどつかれてしまう。
ドオン!! と大きな音が遠くから響いた。
パレードの先頭付近で何かが爆発したようだった。
何事かと騒然となり、確かめようと音の方へ走っていく人もいて、目の前のパレードも中断した。
「始まったな」
男が鼻で笑い、ルファの体の震えが大きくなる。
ルファはすべての計画を把握していなかった。
一昨日連れて行かれた古びた酒屋の奥では、ルファだけ別室に閉じ込められていたからだ。
聞き覚えのある複数の声がぼそぼそと聞こえるのみで、内容までは届かず、今朝になって突然この緑の石を括りつけられた。
そのとき村長も同じ部屋にいたのだが、彼はこちらなど見向きもせず、槍の穂先を丁寧に研いでいた。
(あれで皇帝を狙うのかな)
復讐に燃えた村長の目を思い出し身震いする。
だがしばらくして、前方からひときわ大きく歓声が聞こえた。
見に行っていた人の話では、前皇帝が何者かに狙われたが見事撃退したという。皇帝の授印の炎の素晴らしさを自慢げに語っている。
男が舌打ちした。
感情を圧し殺すように歯ぎしりする。
「……こちらは計画通りだ」
ルファの腕を力強く掴み、自分を鼓舞するように声を出す。
ほどなくして、パレードが再開された。
今ルファの目の前を通っているのは第三皇女の馬車。その後、歩兵隊を挟んで現皇帝の馬車が通る予定だ。
心臓がこれ以上ないほど早鐘を打っている。
「来たぞ」
顔を左に向けると、現皇帝の馬車が見えてきた。漆黒の車体に朱と金のラインが入り豪華に飾られ、馬もしなやかで引き締まった筋肉に艶やかな毛並みが美しい。
チハヤが会いたがっていた皇帝は爽やかな笑顔で民衆の、とりわけ女性の視線を釘付けにしていた。
今頃彼女はどこで待っているはずだ。とても楽しみにしているだろう。
(それを僕は今から奪うんだ)
村長も失敗したのだから成功するかはわからない。
だが結界の破壊とともに自爆すれば相当の深手を負わせられるはずだ。
皇帝の馬車が近づく。
(怖い。怖いよ。お兄ちゃん助けて)
ガッと両肩を捕まれた。
突然のことで一瞬思考が止まる。
目の前に立っている誰かは、見張り役の男ではない。
突然現れたのは、栗色の髪の少女だった。
周囲の歓喜に満ちた歓声も耳に入ってこない。
色に溢れた世界もぼやけて見え、一人だけ別世界にいるようだった。
観衆の最前列に並んでいたルファは冷や汗を流しうつむき、恐る恐る、着ているローブの中を覗く。
一本の紐に通された緑色に鈍く光る石が体に巻き付いている。
”現皇帝が目の前に来たら、手に持っている赤い石を投げろ。そしてパレードの列に突っ込め”
今もルファの見張りとして隣に立つ男にそう指示されていた。
緑の石が何か聞いても男はにやにやするだけで答えない。
けれど、察しはつく。
(きっとこれは爆発するんだ。僕と一緒に)
ギュッと目を瞑る。
恐怖で呼吸が荒くなった。
(兄ちゃん助けて。どうしたらいいの?)
涙がにじみ、下唇を噛んで耐える。
泣いたら男にどつかれてしまう。
ドオン!! と大きな音が遠くから響いた。
パレードの先頭付近で何かが爆発したようだった。
何事かと騒然となり、確かめようと音の方へ走っていく人もいて、目の前のパレードも中断した。
「始まったな」
男が鼻で笑い、ルファの体の震えが大きくなる。
ルファはすべての計画を把握していなかった。
一昨日連れて行かれた古びた酒屋の奥では、ルファだけ別室に閉じ込められていたからだ。
聞き覚えのある複数の声がぼそぼそと聞こえるのみで、内容までは届かず、今朝になって突然この緑の石を括りつけられた。
そのとき村長も同じ部屋にいたのだが、彼はこちらなど見向きもせず、槍の穂先を丁寧に研いでいた。
(あれで皇帝を狙うのかな)
復讐に燃えた村長の目を思い出し身震いする。
だがしばらくして、前方からひときわ大きく歓声が聞こえた。
見に行っていた人の話では、前皇帝が何者かに狙われたが見事撃退したという。皇帝の授印の炎の素晴らしさを自慢げに語っている。
男が舌打ちした。
感情を圧し殺すように歯ぎしりする。
「……こちらは計画通りだ」
ルファの腕を力強く掴み、自分を鼓舞するように声を出す。
ほどなくして、パレードが再開された。
今ルファの目の前を通っているのは第三皇女の馬車。その後、歩兵隊を挟んで現皇帝の馬車が通る予定だ。
心臓がこれ以上ないほど早鐘を打っている。
「来たぞ」
顔を左に向けると、現皇帝の馬車が見えてきた。漆黒の車体に朱と金のラインが入り豪華に飾られ、馬もしなやかで引き締まった筋肉に艶やかな毛並みが美しい。
チハヤが会いたがっていた皇帝は爽やかな笑顔で民衆の、とりわけ女性の視線を釘付けにしていた。
今頃彼女はどこで待っているはずだ。とても楽しみにしているだろう。
(それを僕は今から奪うんだ)
村長も失敗したのだから成功するかはわからない。
だが結界の破壊とともに自爆すれば相当の深手を負わせられるはずだ。
皇帝の馬車が近づく。
(怖い。怖いよ。お兄ちゃん助けて)
ガッと両肩を捕まれた。
突然のことで一瞬思考が止まる。
目の前に立っている誰かは、見張り役の男ではない。
突然現れたのは、栗色の髪の少女だった。
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