上 下
24 / 27

パレード 3

しおりを挟む
 震えが止まらない。
 周囲の歓喜に満ちた歓声も耳に入ってこない。
 色に溢れた世界もぼやけて見え、一人だけ別世界にいるようだった。

 観衆の最前列に並んでいたルファは冷や汗を流しうつむき、恐る恐る、着ているローブの中を覗く。
 一本の紐に通された緑色に鈍く光る石が体に巻き付いている。
 ”現皇帝が目の前に来たら、手に持っている赤い石を投げろ。そしてパレードの列に突っ込め”
 今もルファの見張りとして隣に立つ男にそう指示されていた。
 緑の石が何か聞いても男はにやにやするだけで答えない。
 けれど、察しはつく。

(きっとこれは爆発するんだ。僕と一緒に)

 ギュッと目を瞑る。
 恐怖で呼吸が荒くなった。

(兄ちゃん助けて。どうしたらいいの?)

 涙がにじみ、下唇を噛んで耐える。
 泣いたら男にどつかれてしまう。
 
 ドオン!! と大きな音が遠くから響いた。
 パレードの先頭付近で何かが爆発したようだった。
 何事かと騒然となり、確かめようと音の方へ走っていく人もいて、目の前のパレードも中断した。

「始まったな」
 
 男が鼻で笑い、ルファの体の震えが大きくなる。
 ルファはすべての計画を把握していなかった。
 一昨日連れて行かれた古びた酒屋の奥では、ルファだけ別室に閉じ込められていたからだ。
 聞き覚えのある複数の声がぼそぼそと聞こえるのみで、内容までは届かず、今朝になって突然この緑の石を括りつけられた。
 そのとき村長も同じ部屋にいたのだが、彼はこちらなど見向きもせず、槍の穂先を丁寧に研いでいた。

(あれで皇帝を狙うのかな)

 復讐に燃えた村長の目を思い出し身震いする。
 だがしばらくして、前方からひときわ大きく歓声が聞こえた。
 見に行っていた人の話では、前皇帝が何者かに狙われたが見事撃退したという。皇帝の授印の炎の素晴らしさを自慢げに語っている。
 男が舌打ちした。
 感情を圧し殺すように歯ぎしりする。

「……こちらは計画通りだ」
 
 ルファの腕を力強く掴み、自分を鼓舞するように声を出す。
 ほどなくして、パレードが再開された。
 今ルファの目の前を通っているのは第三皇女の馬車。その後、歩兵隊を挟んで現皇帝の馬車が通る予定だ。
 心臓がこれ以上ないほど早鐘を打っている。
 
「来たぞ」
 
 顔を左に向けると、現皇帝の馬車が見えてきた。漆黒の車体に朱と金のラインが入り豪華に飾られ、馬もしなやかで引き締まった筋肉に艶やかな毛並みが美しい。
 チハヤが会いたがっていた皇帝は爽やかな笑顔で民衆の、とりわけ女性の視線を釘付けにしていた。
 今頃彼女はどこで待っているはずだ。とても楽しみにしているだろう。

(それを僕は今から奪うんだ)

 村長も失敗したのだから成功するかはわからない。
 だが結界の破壊とともに自爆すれば相当の深手を負わせられるはずだ。
 皇帝の馬車が近づく。

(怖い。怖いよ。お兄ちゃん助けて)
 
 ガッと両肩を捕まれた。
 突然のことで一瞬思考が止まる。
 目の前に立っている誰かは、見張り役の男ではない。
 突然現れたのは、栗色の髪の少女だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

神の子扱いされている優しい義兄に気を遣ってたら、なんか執着されていました

下菊みこと
恋愛
突然通り魔に殺されたと思ったら望んでもないのに記憶を持ったまま転生してしまう主人公。転生したは良いが見目が怪しいと実親に捨てられて、代わりにその怪しい見た目から宗教の教徒を名乗る人たちに拾ってもらう。 そこには自分と同い年で、神の子と崇められる兄がいた。 自分ははっきりと神の子なんかじゃないと拒否したので助かったが、兄は大人たちの期待に応えようと頑張っている。 そんな兄に気を遣っていたら、いつのまにやらかなり溺愛、執着されていたお話。 小説家になろう様でも投稿しています。 勝手ながら、タイトルとあらすじなんか違うなと思ってちょっと変えました。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

呪われた子と、家族に捨てられたけど、実は神様に祝福されてます。

光子
ファンタジー
前世、神様の手違いにより、事故で間違って死んでしまった私は、転生した次の世界で、イージーモードで過ごせるように、特別な力を神様に授けられ、生まれ変わった。 ーーー筈が、この世界で、呪われていると差別されている紅い瞳を宿して産まれてきてしまい、まさかの、呪われた子と、家族に虐められるまさかのハードモード人生に…! 8歳で遂に森に捨てられた私ーーキリアは、そこで、同じく、呪われた紅い瞳の魔法使いと出会う。 同じ境遇の紅い瞳の魔法使い達に出会い、優しく暖かな生活を送れるようになったキリアは、紅い瞳の偏見を少しでも良くしたいと思うようになる。 実は神様の祝福である紅の瞳を持って産まれ、更には、神様から特別な力をさずけられたキリアの物語。 恋愛カテゴリーからファンタジーに変更しました。混乱させてしまい、すみません。 自由にゆるーく書いていますので、暖かい目で読んで下さると嬉しいです。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

処理中です...