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楽しい密談 2

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「そういえば、俺に何か知らせたいことがあると言っていたな」
「ああ。ケデウムの夜店で、こんなものが売られていたんだ」

 そう言ってトキツが取り出したのは、赤い石だった。
 高さ三センチほどのピラミッド型の物体で、傾きを変えると所々色の深みが変わる。パレードの列の周りに張られた結界を破った赤い石に似ていた。
 事件に関わっていた兄弟が言うには、持つと力が抜けていく感覚があったという。
 眉根を寄せたロウが手に取る。しかし、そういう感覚はない。

「試しに魔力を当ててみたけど変化はなかった。だけど」
 
 トキツは口直しに用意された水が入ったグラスを、二人がよく見えるよう中央へ置いた。
 水の量はグラスの三分の一にも満たない。その中へ赤い石を入れる。
 すると、水がみるみる増え、溢れた。スプーンで赤い石を取り出してようやく止まる。石に変化はない。

「効果は知っているのと違うけど、気になるだろ?」
「これが、夜店に?」
「店の親父はキレイだから拾ったと言っていた。ただの変わった石ころだと思っていたようだけど。拾い物だから安く譲ってくれて、一応全部買い占めといた。それから……」

 懐から一枚の紙きれを取り出す。

「店の主人と仲良くなって名刺もらったんだけど、いる?」

 二人は目をパチパチさせる。

「……本当にいい人材を連れてきたな」
「おもしろい奴だろう」

 一応褒められているらしい。

「セイレティアにこのことは?」
「言っていません。言ったらまた首を突っ込むと思ったので」
「賢明だ。どうせ今は、そんな余裕ないだろうが」
 
 ジェラルドの表情が陰る。
 トキツも心配しているが、もう一つ気になることがあった。

「あの、一つよろしいですか」
「なんだ」
「俺って、短期雇用ですよね? なのに、こんな重要なお話聞いてしまっていいのでしょうか」

 ツバキが結婚するまでの約二年という契約だったはずだ。
 するとロウが呆れた声を出す。

「まだそう思っていたのか」
「え? は?」
 
 狼狽えるトキツ。
 ジェラルドが立ち上がり、先日取り交わした雇用契約書をトキツの眼前に突き出す。
 やはり、備考欄に”セイレティア=ツバキの護衛二年”とあった。
 トキツがそこを指さすと、ジェラルドは紙をある箇所へ滑らせた。

「よく見ろ。ここに、本紙無期限有効とある。備考欄の内容は契約の一部にすぎない。つまり、護衛以外は無期限だ」

(…………無期限なんて文言あったか? あったような、なかったような)

 トキツは混乱して思考がぐるぐる回り始めた。
(報酬に目がくらんで見逃したのか? いや、なかったような気もするが。それならいつの間に付け加えた? いやいや、皇族がそんな姑息な手を使うはずがない。待てよ、保証書を偽造したあの皇女様の兄ならやりかねないか。あ、この兄だからあの妹がいるのか? お、落ち着け、そもそもこんな横暴な契約書があってたまるか。いやしかし……)

「本当にいい人材だ」
「おもしろいだろう」

 プチパニックに陥っているトキツの横で、二人は静かに酒を酌み交わした。
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