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縁
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昼頃、ツバキたちは州境の街へ向かうことにした。
叔母夫婦とルファへ世話になった礼を言い終え、今は店の前でアフランと別れの挨拶をするところだ。
「僕に何かできることはないのでしょうか」
アフランはエイラトからは出られない身で、ついて行ったとしても足手まといになるだけとわかっている。それでも少しでも役に立てないかとソワソワしてしまう。
そんなアフランの心境を慮ってか、ツバキが柔らかく微笑んだ。
「ありがとう。十分助けてくれたわ。でもそうね、もし可能なら、精霊やロナロの歴史について調べておいてもらいたいの。特にロナロに守護者が必要な理由を。帝都の城の図書館にはなかったけれど、もしかしたら水の精霊の加護があるエイラト州の図書館ならあるかもしれない」
「それくらいでしたらお安い御用です」
「あと、州の図書館になかったら、エレノイア姉様……州長官へ頼んで城内の蔵書室も調べてくれないかしら」
「…………はい!?」
にっこりと何の躊躇もなくとんでもないお願いをされ、アフランの目が点になった。
「む、む、む、無理です。僕は平民で、文官でもありません。そんなところへなんて入れるわけありません!」
「これがあれば大丈夫」
ツバキはポーチほどの大きさの鞄から一通の封筒をアフランへ渡した。セイレティアのサインと皇族の封蝋が押してあり、中にはアフランが皇女の使いであることを書いた手紙が入っているという。
「ええ!? で、ですが、僕なんかがこれを出しても取り合ってくれるかどうか……」
「もちろん先にエレノイア姉様にも連絡しておくわ。姉様は融通の利く方だから大丈夫よ」
「し……しかし……」
ツバキは完全に狼狽して目が泳ぐアフランの手を両手で包んだ。
「アフランは文官を目指しているって聞いたわ。これを有益に使ってね」
この書状があれば皇女がアフランの身元を保証したことになり、文官採用の合否を決める際、平民だからといってないがしろにできなくなる。
ツバキとしては霊力があるなんて貴重な人材は保護すべきだと思うが、口出しできる立場ではない。
「あ、もちろん特別扱いじゃないからね。きちんと筆記試験は受けてもらう。だけどそれだけじゃ文官になれないことくらい知ってる」
「ですが、平民の僕にこんなことをしたら、ツバキ様が悪く言われるのでは」
特に貴族に良く思われないとアフランは危惧しているのだろう。ツバキは些末なことだと笑った。
「それならアフランも僻まれるわね。気になるなら出さなくてもいい。でもせっかく村を出て自由になったんだもの、自分の人生は自分で決めなきゃ。そのためなら私の肩書きでも何でも、使えるものは使って?」
アフランはほのかにさわやかな香りが漂ってくる藍色の封筒を不思議な心地で見つめた。皇族の封蝋なんて博物館でしか見たことがない。しかも中には、雲の上の存在であるはずの皇女がただの平民のために書いた手紙が入っている。畏れ多すぎて手が震えてきた。だがこれがあれば、諦めていた文官への道が開けるかもしれない。
アフランの目に熱いものが込み上げる。
思わず膝をつき、頭を垂れた。
「あっ。ちょっとアフラン!? やめてそれは!! 絶対!!!」
ツバキはぎょっとしてアフランを止めた。
幸い人通りは少なく、背の高いカオウとトキツの陰に隠れており周囲には見られなかったのでほっと胸を撫で下ろす。
「じゃ、じゃあアフラン。本当にいろいろとありがとう」
「こちらこそ、皇女様のお役に立てて光栄です。どうかリタたちをよろしくお願いします」
深々と頭を下げる(今度はちゃんと立って)アフランに手を振って、ツバキたちは次の目的地へ向かった。
叔母夫婦とルファへ世話になった礼を言い終え、今は店の前でアフランと別れの挨拶をするところだ。
「僕に何かできることはないのでしょうか」
アフランはエイラトからは出られない身で、ついて行ったとしても足手まといになるだけとわかっている。それでも少しでも役に立てないかとソワソワしてしまう。
そんなアフランの心境を慮ってか、ツバキが柔らかく微笑んだ。
「ありがとう。十分助けてくれたわ。でもそうね、もし可能なら、精霊やロナロの歴史について調べておいてもらいたいの。特にロナロに守護者が必要な理由を。帝都の城の図書館にはなかったけれど、もしかしたら水の精霊の加護があるエイラト州の図書館ならあるかもしれない」
「それくらいでしたらお安い御用です」
「あと、州の図書館になかったら、エレノイア姉様……州長官へ頼んで城内の蔵書室も調べてくれないかしら」
「…………はい!?」
にっこりと何の躊躇もなくとんでもないお願いをされ、アフランの目が点になった。
「む、む、む、無理です。僕は平民で、文官でもありません。そんなところへなんて入れるわけありません!」
「これがあれば大丈夫」
ツバキはポーチほどの大きさの鞄から一通の封筒をアフランへ渡した。セイレティアのサインと皇族の封蝋が押してあり、中にはアフランが皇女の使いであることを書いた手紙が入っているという。
「ええ!? で、ですが、僕なんかがこれを出しても取り合ってくれるかどうか……」
「もちろん先にエレノイア姉様にも連絡しておくわ。姉様は融通の利く方だから大丈夫よ」
「し……しかし……」
ツバキは完全に狼狽して目が泳ぐアフランの手を両手で包んだ。
「アフランは文官を目指しているって聞いたわ。これを有益に使ってね」
この書状があれば皇女がアフランの身元を保証したことになり、文官採用の合否を決める際、平民だからといってないがしろにできなくなる。
ツバキとしては霊力があるなんて貴重な人材は保護すべきだと思うが、口出しできる立場ではない。
「あ、もちろん特別扱いじゃないからね。きちんと筆記試験は受けてもらう。だけどそれだけじゃ文官になれないことくらい知ってる」
「ですが、平民の僕にこんなことをしたら、ツバキ様が悪く言われるのでは」
特に貴族に良く思われないとアフランは危惧しているのだろう。ツバキは些末なことだと笑った。
「それならアフランも僻まれるわね。気になるなら出さなくてもいい。でもせっかく村を出て自由になったんだもの、自分の人生は自分で決めなきゃ。そのためなら私の肩書きでも何でも、使えるものは使って?」
アフランはほのかにさわやかな香りが漂ってくる藍色の封筒を不思議な心地で見つめた。皇族の封蝋なんて博物館でしか見たことがない。しかも中には、雲の上の存在であるはずの皇女がただの平民のために書いた手紙が入っている。畏れ多すぎて手が震えてきた。だがこれがあれば、諦めていた文官への道が開けるかもしれない。
アフランの目に熱いものが込み上げる。
思わず膝をつき、頭を垂れた。
「あっ。ちょっとアフラン!? やめてそれは!! 絶対!!!」
ツバキはぎょっとしてアフランを止めた。
幸い人通りは少なく、背の高いカオウとトキツの陰に隠れており周囲には見られなかったのでほっと胸を撫で下ろす。
「じゃ、じゃあアフラン。本当にいろいろとありがとう」
「こちらこそ、皇女様のお役に立てて光栄です。どうかリタたちをよろしくお願いします」
深々と頭を下げる(今度はちゃんと立って)アフランに手を振って、ツバキたちは次の目的地へ向かった。
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