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終章

206-十、十一、十二。

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戦況は、極めて良好だ。
....いや、本当に良好なのだ。
何しろアドアステラが出てこないからな....

「アドアステラの行方は?」
『秘匿されているようです、王国軍内部のシンパサイザーによる情報提供では、一か月前に消息を絶ったきり、乗組員を含めた全員の消息が掴めないようです』
「そうか....まあ、いいんだが」

最早王国の領土は残り三つだけ。
最終決戦で出てきたところで、現在量産中のアレで粉々にするだけだ。
指揮官たちの八面六臂の活躍によって、三百以上ある王国の恒星系はその殆どが陥落した。
地方殲滅において特に強かったのはズィーヴェンとノルンだな。
あの二人は寝食を必要とせずに長時間の作戦行動が可能だ。
だからこそ、寝食をしなければならない王国軍に対して有効な戦術を展開することができた。
部下ドッグはシフトを組んで寝食が出来るが、指揮官ハンドラーは換えが効かない。
いずれ疲弊し、どんな有能な指揮官だろうと意味が無くなる。
そしてこの王国は、疲弊に膝を折る事を許さない国家であり、指揮官は自然とそれに縛られてしまう。
実に滑稽な事だ。...いや、日本もそんなもんだったけど。

「さて、報告を聞こう」

考え事をしていた俺は、背後で三人が立っている事に気づく。
息遣いから、ツェーン十一エルフ十二ツヴォルフだろう。

「はい。王国艦隊の所有する残存主力艦の総数が判明しました」
「興味があるな、それで?」

ツェーンは、燻んだ金髪に白い肌、薄翡翠色瞳を持つお姫様だ。
元はイルエジータに存在する...なんだったか、生き残りの人間たちを率いる王国のお姫様だったらしいのだが、庇護を求めてきたから対価を要求したら派遣されてきた。
彼女に働かせるから見逃してほしいという何とも情けの無い願いではあったが、聞かない理由はない。
今更獣人以外をドクトリンに組み込む気もないしな。

「主力艦の総数は、戦闘型が211、母艦が110、旗艦級が31です」
「意外と多いな...」
「ですが、現在運用に必要な人員が不足している状況であり、主力艦を運用する以上通常艦の総数が減少する可能性があります」
「なるほど」

主力艦の運用には、普通は数百人の人員が必要になる。
俺たちの場合は不要だが、人間が運用する以上はそうなるだろうな。

「主力艦は首都防衛で全て配備され、それ以外の戦いでは動員されないものと思われます」
「そうか、よくやった」
「はい」

現在首都星系での活動を行っているのは主にこの三人だ。
他の指揮官と違って、遠慮なく使い捨てられるのも悪く無い点でもある。
忠誠心が高く、決して口を割らないだろう。
まあ、割ろうとしたところでオーロラトラップが発動して脳死するだけだ。

「さあ、次はエルフ、お前だ」
「はい、聖上」

この呼び方だけは何度変えるように言っても辞めさせられなかったので、放置している。
部下が呼びたいように呼べばいい。
ちなみにエルフというのは種族の方ではなく、「11Elf」だ。
地球の創作物の種族がこの世界に居たら逆に怖い。

「”辿り”ましたが、アドアステラの記録は既にありませんでした。恐らく、キネスマスターに至った”彼女”が覆い隠しているのでしょう」
「だろうな....まあ、それはいい。そのゴーグルの調子はどうだ?」

信じられない事だが、エルフはキネス能力者だ。
俺のように、瞳孔を基点としているわけではなく、両目の視神経を通して、使われたキネスの履歴を辿る事が出来る。
当然消耗も大きく、俺はアルテアから回収した聖遺物で彼女の為にゴーグルを作らせた。
今回頼んでいた案件は、アドアステラの捜索。
流歌の能力の詳細が分からないが、とにかく後を辿れないかと思ったが、無理なようだ。
「キネスマスター」....つまり、キネス能力者の中でも突出した存在となった彼女が、本気で痕跡を消したというわけだろう。

「はい、聖上のゴーグルのおかげで、目の痛みも晴れました」
「それはよかった」

聖遺物が他人のキネスにおいても作用することの実験だったが、上手く行ったようだ。
これで彼女についての話題は終わり、俺は最後の指揮官に目を向ける。
現状、席は残り十席だが、これ以上増やすことは考えていない。

「ツヴォルフ、報告を聞こう」
「はっ! 前線で活動中のアインス様、ドライ様、フュンフ様に代わり報告をお伝えします! アインス様は聖ペリュンケルト記念騎士団の本部を奇襲で壊滅させ、ドライ様はケラカ星系からの秘匿輸送船を襲撃、兵站の確保を失敗させました」
「フュンフは確か、他勢力との戦闘中だったな?」
「はい、カルメナス海賊団による侵襲行為に対処しています。侵入源のゲートを特定し、破壊することで対処したとの事です」
「そうか」

ツヴォルフはこの間滅ぼしたホーエンティア帝国の皇太子である。
円滑にホーエンティアを滅ぼせたのも、彼女・・が積極的に協力してくれたお陰でもある。
詳細は省くが、子は親を選べないな、と思ったのを覚えている。

「報告は終わりか? 終わったなら下がれ」
「「「はい」」」

彼女たちに思い入れはない。
派遣社員、観測員、裏切者の家族殺しだからな。
過程はどうあれ、俺は彼女らに同情はしない。

「お前たち、よく頑張ったな。....次の作戦時には休暇を取って良しとする」
「「「はい!」」」

出自的には、ズィーヴェンとアハト、ノルンの方がましだな。
俺は静かにその背を見送った。

「例の計画はどのくらい進んだ?」
『現在、44%です』
「資源不足か?」
『いいえ、Noa-Tun増築計画のために作業用ドローンを使用しているためです』
「作業用ドローンを増産しろ」
『はい』

俺は少し歩いて、戦闘指揮所の真下を見下ろせる場所まで移動する。
眼下では、基礎の骨組み工事が行われていた。
流歌は俺たちに敵わないと知っても、絶対にこの場所へ来る。
だからこそ、その為の工事と言える。
ホールドスターはSSC最大の構造物。
だが、その上がないとは誰も言っていない。

「まさか、これを組み込む事になるとはな」

俺は呟く。
設計図自体は、習熟したプレイヤーなら簡単に手に入れる事が出来るそれ。
問題は資源、そして防衛コスト。
浪漫構造物として知られていたそれを、俺はNoa-Tunに合体させる形で完成へと導くことにした。
その名を、「オリジン・スター」と言った。
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