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終章

202-司令官の休日

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世界は巡りめく。
光陰矢の如し、とも言うように、時間は須く過ぎ去っていく。
俺たちがクオリアス戦線に手を付けてから、一ヶ月が経った。

「シン司令官」
「シンでいい、今日は非番だ」
「はいっ!」

俺は今日は非番である。
更に指揮官を新規雇用して、現在指揮官は12...ツヴォルフまで増えた。
半月で実戦経験も豊富となり、俺も休める日が増えた。
アドアステラはこれまでの多くの戦いに出没せず、戦線はより深く、広く拡大。
俺たちは首都星系の眼前まで迫って来ている。

「...シン様、お顔が優れませんよ...?」
「大丈夫だ」

俺は紅茶を飲む。
非番の時は、食堂で読書をするのが俺の日課だ。
ここにいると、皆がそれぞれの休憩時間にやってくるからだ。

「こんにちは! シンさま!」
「ああ」

ルルが仕事に戻って一分と経たずに、ネムが入ってくる。
ネムはルルと張り合っているらしく、休憩時間を多めに取ってルルの去ったすぐ後に割り込んでくることが多い。
彼女はオレンジジュースをグラスに注ぐと、俺の真横に座った。

「シンさまぁ」
「どうした?」
「撫でて欲しいですっ!」
「ああ」

俺はタブレットを置いて、ネムを撫でてやる。
髪の毛から、いい匂いがする。
これは多分、シトラスタイプのヘアコンディショナーDs-21調合タイプか?

「えへへ...」
「...」

彼女が満足ならそれでもいいんだが。
ルルに対抗するなら、もっと直接的なアプローチをするべきではないかと俺は思った。
「そういう知識」も教育措置で学習している筈だ。
...まあ、俺が突っ込むのもおかしな話か。

「ではっ、偵察任務に戻ります!」
「気を付けてな」
「はい!」

彼女を見送った俺は、冷めた紅茶をオーロラに下げさせる。
新しい紅茶が半分ほど減る頃には、アインスがやって来る。

「シン様、少々お話が」
「手短に済ませろ」
「キーザイ星系を制圧しました、前線基地をカルマーダー星系に移動、既にホールドスターを係留中です」
「分かった、首都包囲陣の完成率は?」
「現在34%まで進行しました」
「良くやった、今後も油断なく続行しろ」
「了解!」

アインスは敬礼すると、食堂を出て行った。
ふと入り口に目をやると、ツヴァイが礼をして去っていく所が見えた。

「...それで、何の用だ?」

さっきから俺の斜め後ろに座っていたドライに話し掛ける。

「オレは...その、ルル様とシフトを合わせて欲しくて」
「オーロラに相談しろ、俺の管轄ではない」
「オーロラ様に相談したら、シン様に許可を取れと...」

何丸投げしてるんだ、あのAI。
まあ、構わないだろう。

「オーロラに言っておく。ルルもお前に助けられたからな、プライベートの時間もなるべく合うように指定してやる」
「ありがとうございます!」

ドライはそう叫ぶと、逃げるように去っていった。
仲睦まじくて宜しい、と言うべきか。
指揮官同士の仲が良いことは悪いことではないが、それが足を引っ張らなければ良いが。

「司令官殿は茶が好きと見えますねえ、そちらは?」
「帝国の茶葉だ、クライストジークの倉庫から押収した。もう増産出来ないと思うと無念だが」
「滅ぼしたのは貴方でしょうに」

次に食堂に入って来たのはフィーアだった。
嫌味な口調だが、悪意は感じない。

「狂犬は腹を見せることを覚えたか」
「噛み付く相手がいるのに、飼い主に噛み付く犬など殺して仕舞えば良いのですよ」
「全くだ、そうならないように精進しろ」

一頻り毒を吐きあった後、フィーアは去っていった。
全く、人のオフに乱入してあの態度か...
全然問題は無いのだが。
むしろ普段の狂犬モードに比べればだいぶ大人しい方だ。
王国人を相手にするとより一層狂う。

「最後はお前たちか、フュンフ、ゼクス」
「「はーい」」

脳波制御の車椅子に乗って移動する双子。
フュンフとゼクスだな。
彼女たちは四肢がなく自立歩行ができないため、オーロラの介護を常に必要としている。
俺は立ち上がって、彼女らに何か飲み物を用意してやる。

「コーラでいいか?」
「はい」
「ぼくはメロンソーダがいいです!」

飲み物の入ったグラスを彼女たちの口へ持って行って、少しずつ飲ませてやる。
普段はロボットアームで固定した容器からストローで飲んでいるのを見たことがある。
たまには直飲みでも良いだろう。

「二人はどうして来たんだ?」
「出撃前で」
「会いたくて...」

仕方ないな、全く...
俺は二人の頭を撫でてやる。

「確かゼクスは前線の哨戒任務だったな」
「はい!」

ホドは偵察には最高の機体だ。
アドアステラによって王国に齎された超高精度のスキャナーによって、遮蔽して同じ場所に留まるタイプの偵察艦はすぐに見つかるようになってしまった。
亜空間にいつでも逃げられるホドは、哨戒・偵察にはピッタリと言うわけだ。

「無理はするな、お前が生きていればそれでいい」
「はい...!」

生きていれば情報が残る。
鮮度は時間と共に落ちるが、何も知らないよりはやりやすい。
俺は二人に時間ギリギリまで付き合い、二人が去るのを見送った。
そのあと、他の指揮官が来ることも期待したが、結局昼食の時間になるまでは誰も来なかった。
昼食の時間になると、流石に読書どころではなく、部下達に囲まれることになるのだが...
それもまた、俺の余生の思い出ってやつだろう。

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