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シーズン4-ビージアイナ侵攻編
095-蜜乳の裏側
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夢の中。
妾は、再びあの恐ろしい鋼鉄の悪魔に襲われていた。
「ひっ....!」
生まれてから一度しか感じたことのない死の恐怖。
妾の父と母を殺したテロリスト共に、刃を突き付けられた時以来の、全身が冷え切るような死の気配。
『ココニイタカ』
そして。
回廊の果てには、奴がいた。
妾を排しようとする、邪悪な存在。
ノーザン・ライツが。
「ひ.....」
『コロセ』
妾の後ろまで迫っていた戦闘ボットらしき何かが、メキメキと音を立てて不明瞭な何かに変わる。
そして、歪んだ形の腕で妾を掴む。
「たすけ、助けて!」
かつて助けを求めたとき、当時の騎士団長が斬り込んで助けてくれた。
でも、今の妾に助けはいない。
ナニカは、口を開く。
その中には、太い棘が何百本も生えていた。
妾が悪かったのか?
皇女にさえならず、あの時死んでいればいいと?
「やめてぇえええ!!」
妾は口の中に放り込まれて――――
その瞬間、目覚めた。
「はあっ!!」
目覚めて、そして、自分が今どこにいるか気づいた。
「今、何時じゃ.....」
周囲を見渡すと、小さなスタンドの明かりが見えた。
その下には、妾の恩人の姿があった。
「.......ん?」
妾が起こしてしまったか不安になった時、予想通り彼は起きてしまった。
わ、妾のせいで.....
「すみません、起こしてしまいましたか?」
「構わん」
怒っているかと思ったが、シン殿は怒ってなどはいなかった。
こんな小娘に起こされて、不快だと思わない殿方がいるとは思わなかった。
「怖かったか?」
その時。
スタンドが消えて、部屋の明かりがついた。
一瞬逆光になって見えたシン殿は、ちょっと格好よく思えた。
「はい.....その、ノーザン・ライツが、みんなを.....」
「俺の主でもある。.....まぁ、快く思ってはいないが」
一瞬、不快にさせてしまったかと不安になった。
でも彼は、不満な顔を隠すことなく主を批判した。
こんなに堂々としていられるなんて、どうしたらその鋼のような心を手に入れられるのじゃろうか?
「あの....私を助けてくださったので、何か罰を受けたのでは....」
「お前が傷つく事よりは、大したことではない」
少し不安に思ったので、聞いてみることにする。
そうすると彼は、何でもないことのように笑った。
どうしてそんな表情が出来るのじゃ....?
何の対価も払えない小娘に、何故そんな表情が?
「待ってろ」
その時、シン殿は戸棚を開ける。
妾のために何かしようとしているのか...?
「あ....そのような事をしなくても大丈夫です!」
「おまじないのようなものだよ」
シン殿は、戸棚の中にあった冷蔵庫から、白い液体と金色の液体の詰まった瓶をそれぞれ一本ずつ出した。
それが何なのか、妾には分からなかった。
彼は、戸棚を開いた先にあった台に鍋を置き、そこに白い液体を全て注ぎ入れる。
そして、暫くしてから、取り出したカップ二つに、液体を注いだ。
「......」
何だか、芳しい香りがした。
シン殿は、カップに金色の粘液を少し入れ、スプーンでかき混ぜる。
そして、二個あったカップのうち一つを、妾のところまで持ってきた。
「悪い夢を見たときは、これでも飲んで落ち着いて、また眠るんだ」
その言葉は、とても暖かかった。
妾の周囲で、その目をして、その暖かい声で話しかけてくれる人間はいなかった。
なぜなら、妾は.....帝国の皇女なのじゃから。
「んく....」
熱くて白い液体を飲む。
その瞬間、妾はこの味が何か分かった。
シトアだ。
オペダの乳だと聞く、貴人に好まれる飲料である。
妾はこれを好まなかったのじゃが.....
何故だか、とても.....とても甘く感じた。
あの金色の粘液は何だったのじゃろうか?
少なくとも毒ではない....けれど、それを聞くのは失礼なような気がした。
「ふっ、ぐっ......ううっ.....」
気が付いたら、涙が出てきていた。
抑えられなかった。
安堵だけではない、この気持ちは....きっと、妾はこの男が死ぬことに悲しんでいるのじゃろう。
「どうした?」
「......私は、ちゃんと家に帰れますか....?」
涙を拭いてくれた彼は、妾の情けない問いに、
「俺が帰してやる」
と、頼もしく答えた。
「ですが、それだとあなたは.....」
「正しくない事を通すのは、ダメなことだ」
妾を助けたことで、きっとこの男は死んでしまうのではないか?
そんな確信があった。
妾の命乞いなど聞かなかった、ノーザン・ライツが、きっとこの偉大な男を殺してしまうだろう。
だが、妾はこれで決心がついた。
脱出するとき、彼も連れて行こう、と。
妾は、再びあの恐ろしい鋼鉄の悪魔に襲われていた。
「ひっ....!」
生まれてから一度しか感じたことのない死の恐怖。
妾の父と母を殺したテロリスト共に、刃を突き付けられた時以来の、全身が冷え切るような死の気配。
『ココニイタカ』
そして。
回廊の果てには、奴がいた。
妾を排しようとする、邪悪な存在。
ノーザン・ライツが。
「ひ.....」
『コロセ』
妾の後ろまで迫っていた戦闘ボットらしき何かが、メキメキと音を立てて不明瞭な何かに変わる。
そして、歪んだ形の腕で妾を掴む。
「たすけ、助けて!」
かつて助けを求めたとき、当時の騎士団長が斬り込んで助けてくれた。
でも、今の妾に助けはいない。
ナニカは、口を開く。
その中には、太い棘が何百本も生えていた。
妾が悪かったのか?
皇女にさえならず、あの時死んでいればいいと?
「やめてぇえええ!!」
妾は口の中に放り込まれて――――
その瞬間、目覚めた。
「はあっ!!」
目覚めて、そして、自分が今どこにいるか気づいた。
「今、何時じゃ.....」
周囲を見渡すと、小さなスタンドの明かりが見えた。
その下には、妾の恩人の姿があった。
「.......ん?」
妾が起こしてしまったか不安になった時、予想通り彼は起きてしまった。
わ、妾のせいで.....
「すみません、起こしてしまいましたか?」
「構わん」
怒っているかと思ったが、シン殿は怒ってなどはいなかった。
こんな小娘に起こされて、不快だと思わない殿方がいるとは思わなかった。
「怖かったか?」
その時。
スタンドが消えて、部屋の明かりがついた。
一瞬逆光になって見えたシン殿は、ちょっと格好よく思えた。
「はい.....その、ノーザン・ライツが、みんなを.....」
「俺の主でもある。.....まぁ、快く思ってはいないが」
一瞬、不快にさせてしまったかと不安になった。
でも彼は、不満な顔を隠すことなく主を批判した。
こんなに堂々としていられるなんて、どうしたらその鋼のような心を手に入れられるのじゃろうか?
「あの....私を助けてくださったので、何か罰を受けたのでは....」
「お前が傷つく事よりは、大したことではない」
少し不安に思ったので、聞いてみることにする。
そうすると彼は、何でもないことのように笑った。
どうしてそんな表情が出来るのじゃ....?
何の対価も払えない小娘に、何故そんな表情が?
「待ってろ」
その時、シン殿は戸棚を開ける。
妾のために何かしようとしているのか...?
「あ....そのような事をしなくても大丈夫です!」
「おまじないのようなものだよ」
シン殿は、戸棚の中にあった冷蔵庫から、白い液体と金色の液体の詰まった瓶をそれぞれ一本ずつ出した。
それが何なのか、妾には分からなかった。
彼は、戸棚を開いた先にあった台に鍋を置き、そこに白い液体を全て注ぎ入れる。
そして、暫くしてから、取り出したカップ二つに、液体を注いだ。
「......」
何だか、芳しい香りがした。
シン殿は、カップに金色の粘液を少し入れ、スプーンでかき混ぜる。
そして、二個あったカップのうち一つを、妾のところまで持ってきた。
「悪い夢を見たときは、これでも飲んで落ち着いて、また眠るんだ」
その言葉は、とても暖かかった。
妾の周囲で、その目をして、その暖かい声で話しかけてくれる人間はいなかった。
なぜなら、妾は.....帝国の皇女なのじゃから。
「んく....」
熱くて白い液体を飲む。
その瞬間、妾はこの味が何か分かった。
シトアだ。
オペダの乳だと聞く、貴人に好まれる飲料である。
妾はこれを好まなかったのじゃが.....
何故だか、とても.....とても甘く感じた。
あの金色の粘液は何だったのじゃろうか?
少なくとも毒ではない....けれど、それを聞くのは失礼なような気がした。
「ふっ、ぐっ......ううっ.....」
気が付いたら、涙が出てきていた。
抑えられなかった。
安堵だけではない、この気持ちは....きっと、妾はこの男が死ぬことに悲しんでいるのじゃろう。
「どうした?」
「......私は、ちゃんと家に帰れますか....?」
涙を拭いてくれた彼は、妾の情けない問いに、
「俺が帰してやる」
と、頼もしく答えた。
「ですが、それだとあなたは.....」
「正しくない事を通すのは、ダメなことだ」
妾を助けたことで、きっとこの男は死んでしまうのではないか?
そんな確信があった。
妾の命乞いなど聞かなかった、ノーザン・ライツが、きっとこの偉大な男を殺してしまうだろう。
だが、妾はこれで決心がついた。
脱出するとき、彼も連れて行こう、と。
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