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シーズン4-ビージアイナ侵攻編

090-守護者たる黒き翼

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「(ここは嫌いだ)」

操縦桿を握り締めながら、アズルは思った。

「(必要な音以外は何も聞こえないから)」

星空の帝王であるシンの主戦場である黒き天穹は、光も音も、空気もない場所だ。
そこを飛ぶブラックバードには、音が聞こえない。
戦士たちの雄たけびが。
武器のぶつかる音が。
肉の潰れる嫌な音が。
聞こえないからこそ、彼にとっては不気味だった。

「.......よし」

その時、危険を知らせるようなジングルが、通信回線を通じて届く。
ブラックバードはその発信源に向けて旋回し、接近する。

「......成程」

アズルはそれに近づいて、頷く。
シールドを抜かれ、被弾箇所が二つある戦闘機が飛んでいた。
ブラックバードは遮蔽を解除して、副武装を起動する。
ロックオンの後に放たれた共鳴波は、対象のシールドジェネレーターに電力を転送し、シールドを急速に回復させていく。

「がんばれ....っと」

その時、スキャニング警報が響く。
ロックオンされれば、遮蔽するのは難しくなる。

「確か....これだ!」

アズルは黄色いボタンを押し、一瞬だけスキャン分解を行う。
相手のスキャンが阻害され、その隙にブラックバードは離脱、ターゲットする敵機がその姿を追う前に、周囲に広がる星空に溶けて消えた。

「危なかった.....」

ブラックバードは、アズル達にとっての姫....ルルシアの乗る戦闘機をベースにしている。
そう聞かされているアズルは、性能を疑ってはいなかった。
自分の油断が招いた事だと、脳内でトラブルシューティングをしながら、戦況を観察する。

「圧倒的だ....」

アズルは戦闘員ではないため、スキルシリンジを受け取ってはいない。
あくまで修復要員として、現場にいるだけだ。
それ故に、変態機動で敵編隊を追い詰める天空騎士団に、半ば引いていた。

『第四分隊、左翼に展開せよ。第一分隊は後退、第二分隊と合流し右翼に移動しろ』

その時、アズルの耳に雄大なメロディが入り込んでくる。
ただし、最後の一音は少しだけ下がっている。

「......全編隊に告ぐ。回避機動を取りながら敵旗艦に接近。軽戦闘機は旗艦の武装を破壊、重戦闘機は爆撃を行え」

アズルは全体に指示を伝える。
これはオーロラから事前に教えられたメロディーであり、天空騎士団所属の兎人族の中でも耳のいいアズルくらいにしか務まらない。
今のメロディであれば、5秒ごとに指示の内容が異なる。
5秒であれば、接近。
10秒であれば急速接近。
15秒であれば、接近しつつ回避を行う
20秒であれば、突撃となる。
音が下がるのは、一音上がった場合は軽戦闘機のみ、上下しない場合は重戦闘機のみ、下がった場合は両機同時攻撃という意味合いを持つ。
ルル考案シン企画オーロラ実行の、「音楽隊」作戦だ。
これは、伝わるまでに遅延のある全体通信よりも、戦闘機同士の近接双方向通信によるローカル通信の方が早く伝わることを利用している。

「五月蝿いな」

アズルは言うだけ言った後、通信をミュートにする。
華奢で頭脳派のアズルは、力と勇猛さが重視される獣人の戦士の中では低い立場にある。
そんな彼がとやかく命じることを、嫌がる者達もいて、心無い言葉をアズルに浴びせかけるのだ。

「ああ、ここはずっと静かでいい...」

アズルは死地においてなお、不気味な静寂を愛した。
艦載機編隊は、アズルと共に敵の真っ只中へ飛び込む。

「忙しいなあ...」

ブラックバードは遮蔽解除して、シグナルを出して逃げる破壊されそうな機体にミサイルを撃ち込む。
ミサイルは艦載機の背面で爆発し、大量の揮発性ナノマシンをばら撒く。
その殆どは真空に満ちたエネルギーと結合して消滅するが、機体に張り付いたナノマシンは、自己増殖を開始して、瞬時に機体の損傷を塞ぎ、破壊されたパーツの代替を作り出す。
更にその状態から一挙に垂直反転し、下降しながら誘導ミサイルをかわし、下を飛んでいたシールドの無い戦闘機のシールドを回復させる。

「遮蔽!」

ブラックバードは味方の間をすり抜けた直後に遮蔽し、またもや敵の追っ手から逃れる。
それを繰り返すうちに...

『全軍撤退! 全軍撤退! シエラⅫへ降下せよ! 旗艦との連絡は途絶、旗艦は沈没寸前である! これは命令では無い、勧告だ!』

ビージアイナの旗艦が内部から火を噴き、それに呼応するように周囲の艦隊は退いて行く。

「勝った...?」

アズルは呟く。
そう、勝ったのだ。
天空騎士団は初めて、主導で敵の主力を抑える事に成功したのであった。
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